(公社)日本印刷技術協会(JAGAT)は10月20日、東京都杉並区の日本印刷技術協会セミナールームにおいて、『JAGAT大会2023』をリアル&オンライン併催で開催した。リアル開催は4年ぶり。『連携』をメインテーマに、リアル55人、オンライン81人が参加した。
基調講演にはテレビ出演等でお馴染みのスーパーマーケット・アキダイの㈱アキダイ・秋葉弘道社長が招かれた。秋葉社長は高校1年生から八百屋でアルバイトを始め、『八百屋の天才少年』と呼ばれる。高校卒業後、上場企業に就職するも1年余りで退職。八百屋として独立開業を目指して修業を積み、1992年スーパーアキダイを東京都練馬区関町に創業する。以降、倒産の危機に何回も遭うが、地元密着型スーパーとして地域に愛される店づくりに注力し、複数の店舗を展開。今でも毎日、市場の仕入れに足を運び、店頭で接客している。
ディスカッションにはメーカー5社から招かれたパネリストたちが印刷物の未来について討論した。
初めに主催者を代表して、塚田司郎会長があいさつした。
「多くの企業において、コロナ禍3年間における需要減少で財務状況がよくない。今年は各種補助金もなくなり、政府のいわゆるゼロ融資の返済の年でもある。法律も社会も変わり、戦争も起こり、諸資材・エネルギーも値上げなど、様々な社会の変化があって企業の予算はタイトである。コロナ禍前の姿に戻ってこない感じがする。印刷企業がDXでどのように変化するのか、この3年間でそうした努力をした会社と、しなかった会社の差がついたのではないか。この環境の中で特に中小企業の皆さんは、どういう特色を持って業界の中の立ち位置を作るのかという事を考えたと思う。今、従来の事業にしがみついているだけでは会社は小さくなるばかりなので、皆さんの新しいチャレンジが結果を出せるように祈念する」
メインプログラムである基調講演『地域密着で勝つ地場スーパーの経営術!』が始まり、司会進行の郡司秀明専務理事が「印刷業界は大日本印刷、TOPPAN等の大手企業に、中小印刷会社が対抗して何とかやってきたというイメージである。秋葉社長のスーパーマーケット業界も同じイメージで、イオン等の大手に対抗して、倒産危機も一度や二度ではないとのこと。その苦労話と地域密着型の経営モデルについて話していただく」と前振りして、店頭に立つエプロン姿そのままで、秋葉社長が登壇した。
秋葉社長は「僕の苦労話というか、まあ僕の生きざまというか。本当に苦労と思うことはありました。だけど過ぎて見たら現実的には苦労じゃなくて成長だったと思っています。23歳でオープンして、32年間に4回ほど倒産の危機がありました。もっとあったかもしれないけど」と切り出し、「安さは当然重要だが、僕たちが大切にしているのはおいしさ、やっぱり美味しくないと駄目だと。どの業界もそうだが、値段で競争すると自分のやりたいことが変わってきてしまう。だから僕は価格破壊でなく、美味しさを一番に考えて、その美味しいものをどこまで安くできるかということを大切にしている。皆さんも印刷物の品質は落としたくない。その中コストをどうやって落とすかということを考えていると思う。安くするために品質を落とすのは、皆さんのプライドが許さないという思いがあるのは、僕も一緒です。僕も商品を安く売るために、品質を落とすのは嫌だと、その時の一番の商品を売ろう、これが一番大切なことではないでしょうか」と締めた。
印刷業界外の人物であるが、印刷業界と重なる部分も多く、参考になる講演だった。質疑応答の時間がなかったことと、明日の仕入れがあるので懇親会への参加は、固辞されたということが残念だった。
研究発表の部では『JAGAT研究調査データの読み方使い方』という演題でJAGAT・藤井建人研究調査部長が登壇し説明した。
ディスカッションのテーマは『印刷メディアの未来 印刷物がサステナブルであり続けるには?』。冒頭、郡司専務理事が「私はこれまで印刷がなくなるということを一度も考えたことがなかった。ところが最近スマホばかりになり、これでは印刷物がまずいのではないかと考えるようになった。サステナブル、要するに印刷が生き残るためにはどうすればよいかという話である。業界のセミナーではBPO(Busuiness Process Outsourcing)等の題材ばかりだ。印刷は右肩上がりとは絶対に言えない状況だ。
かつて印刷はメディアの王様だったが、インターネットの登場で状況が変わった。ただ印刷メディアはしぶとくてリーマンショックでも踏みとどまった。しかし、コロナ禍で一番影響を受けたのは印刷だと私は思っている。コロナ禍で紙が、環境に対して悪者になってしまった。世の中ペーパーレスの嵐だ。印刷はマスに頼ったビジネスだ。これからマスの印刷はなくなるのだろうか?」と焦燥感を露わにして問いかけ、ディスカッションは始まった。 パネリストにSCREEN GP ジャパン・伊藤弘二氏、キヤノンマーケティングジャパン・ 伊藤俊文氏、富士フイルムビジネスイノベーション・小野寺徹氏、コニカミノルタジャパン・坂入陽子氏、リコージャパン・早川真一郎氏の5氏を迎え、郡司専務理事と侃々諤々の議論を繰り広げた。
網野勝彦副会長の閉会のあいさつの後に、屋上に上がり懇親会(大バーベキュー大会)が始まった。乾杯には森澤彰彦副会長も駆けつけ、参加者は皆、肉三昧の料理を堪能した。