「意志があれば道は通ずる」という言葉を経営理念に掲げる朝陽堂印刷㈱(本社・京都府京都市南区東九条南石田町1、髙橋洋平社長)。同社では、その意志を通すための条件、モノ、技術的裏付けをひとつひとつ備えてきた。そして、クライアントからも同業者からも高く評価されてきた包装紙印刷、パッケージ印刷、特色印刷に加えて、プロセス4色およびプロセス4色+特色1色による高品質・高意匠な印刷を新たな事業の軸とすることを志す。この切り札として2022年5月に導入したのが、リョービMHIグラフィックテクノロジー㈱製の菊全判LED-UV5色印刷機「RMGT970ST-5+LED-UV+PQS-D(I+C)」(=以下、RMGT970)だ。
明治25年、我が国に輸入され始めて間もない石版印刷機を導入し創業した同社。それからの長い社歴の中で、その時々の最先端技術や印刷機を積極的に採り入れるべく設備を増強し、京都および近隣府県の数多くのクライアントや同業者から支持されてきた。現在は、印刷だけでなく、デザイン制作から後加工、さらには発送業務までの一貫サービス体制を敷いている。印刷部門では、2022年5月に導入した菊全判LED-UV5色機、菊全判油性の1/1色機、2色機、4色機、4色コーター付機のほかにA倍判油性2色機という枚葉オフセット印刷機群が稼働しており、そのほかにB3判4/4色オフ輪とフレキソ印刷機各1台も保有している。
これほど多様な印刷機を取り揃えているのは、地場で長きにわたり仕事をし、そのたしかな仕事の積み重ねにより信頼を集めたことで、取引社数がどんどんと増えて、仕事の種類も広がったからだ。その結果、薄紙から厚紙まであらゆる用紙に対応し、包装紙や手提げ袋といった大判印刷にも対応。店頭に並ぶ特色を使った商品パッケージでも同じ色再現ができるような色管理体制を整え、さらには土地柄から経本・懐紙・文庫紙といった和紙への印刷にも対応する。
髙橋社長は「ありがたいことに、当社が包装紙やパッケージ、特色を使った印刷に強いことは、すでに広く認知していただけている。しかし、みなさまにはまだあまり認知していただけていない当社の強みもある。それは、営業・制作・製版・印刷・購買のすべての部門が一体となって作り上げる、高品質・高意匠な印刷物の技術力だ。高品質な印刷物を求めるクライアントは、画像処理・製版・用紙の特性に応じた表現力を求めている。このような印刷技術や製版技術へのこだわりを持つお客様へのサポートを、新たな事業の軸にしたい」と語る。この「新たな事業の軸をつくる」という意志がRMGT970の導入につながった。
品質に強くこだわるお客様へドライダウンのない色再現を
なぜ、高品質・高意匠な印刷物製作をするためにRMGT970が必要だったのか?このような印刷物を求めるお客様は、印刷立ち会いや本機校正を求めることが多い。その際に、油性印刷で発生するドライダウンによる色の変化がないこと、そして印刷中の色再現を数値管理により自動制御できるという点が大きな理由だ。「これまでの油性印刷機の場合は、ドライダウンの予測を印刷オペレーターの経験に頼っていた。時として、それでも色にズレ・不一致が出ることもあったが、現在はドライダウンが起こらないLED-UV印刷の活用と数値による色管理によって、確度の高い色再現を実現している。これに加えて、印刷立ち会いの際にPQS-D(C)による自動濃度追従を見ていただくと、みなさまが驚きと信頼を寄せてくれる」と大宮工場長は、RMGT970だからこそ実現できる高品質印刷の能力の一端を明かす。
しかも、油性印刷だとインキの乾燥不良やドライダウン、パウダーのボタ落ちといった問題が、PQD-D(I)によるインラインカメラでの品質検査を通過した後に発生しかねないが、LED-UV印刷だとその心配もない。「お客様から選んでいただける会社であるためには、お客様が求める高い品質を提供することが重要になる。印刷市場は縮小傾向にあるかもしれないが、品質に強くこだわった印刷物・価値ある印刷物という市場は必ず残り続けるので、それに応えられる体制を整えた。機械・システムによって色ブレを最小限に抑えられるようになった恩恵もある。たとえばひとつのイベントでポスターやパンフレット、小物類など、統一デザインでサイズ違いのさまざまなアイテムを展開するような案件において、全アイテムの色をきちんとあわせて納品し、とても喜んでいただけた。このようなお客様の印刷物に対するひとつひとつの意図に、当社では飽くなき探求心をもって応えていく。そして今後は、LED-UV印刷機で印刷をしてほしいと、指定されるようになっていきたい」(髙橋社長)
印刷物の可能性と夢を広げるプラス1色による色の遊び方
導入機を選定する際、「菊全判、5色機、LED-UV印刷機という前提条件」は会社側で決定し、前提条件以外の印刷機器メーカーやオプション機能などについては、オペレーター陣が主体となって決めた。「これまでトップダウンで導入しても、実際に運用すると使われない機能などがあった。そこで、オペレーターにもテスト印刷やショールーム見学をしてもらった上で議論を重ね、現場にとって有用な印刷機を採用した。また今回は、印刷機自体の性能も良かったが、定期的な技術交流・研修会を行うなど、メーカーによる導入後のサポート・アフターサービス体制もポイントのひとつとなった」と髙橋社長は語る。
その前提条件にあった5色機という点については、プラス1色による高意匠印刷を念頭に置いたものだ。「5色印刷へのニーズは高く、5色×LED-UV印刷によって印刷物の楽しさを表現できることもわかった。たとえば白インキで雲海を表現する案件では、雲の質感演出のために、白インキを3回重ねて印刷した。LED-UVは即乾するため、印刷直後の紙をそのままフィーダーに再セットし、5胴目(白インキ)だけで印刷すればいいので時間も負担もほぼかからない。油性印刷ではこんなことはできないし、また濃度を求めてスクリーン印刷をすれば時間もコストもかかってしまう。5色機の活用法は、5色印刷だけではなく5胴目をいかに使うかにある。このような5胴目を使った色の遊び方を社内で知識共有し、その楽しさを覚えながら高意匠印刷という当社にとっての夢を広げていく」と髙橋社長は同社の今後の道の礎となる意志を表した。
【月刊 印刷界 2023年7月号掲載】