2023年07月14日

Koenig&Bauer社で最大の売上規模を持つのが、ラデボイル工場に本拠を置く枚葉オフセット印刷機部門だ。

枚葉オフセット印刷機市場における現在の世界シェアは32%を占めており、中でもパッケージ印刷分野では強さがひときわ発揮され、そのシェアは6割強という圧倒的な存在感を誇る(同社調べ)。

また、近年は出荷する印刷機の過半数が、コーティングユニットを2つ以上搭載したものが占めており、複雑で高度なアプリケーションを製作する印刷会社からの支持・評価が集まっていることがわかる。

 

 

枚葉オフセット印刷機「Rapida」シリーズ:金属印刷機にも採用される頑強なボディ・フレーム

 

現在、枚葉オフセット印刷機「Rapida」シリーズは、菊半裁の「Rapida76」から菊全判の「Rapida106Rapida106X」、倍判の「Rapida145/164」、そして現在は個別受注生産で対応している枚葉オフセット印刷機で世界最大のサイズ(1510×2050㍉)となる「Rapida205」までを取り揃えている。

これだけの大判用紙を高速で安定して搬送できる点、重く厚い用紙も難なく扱えることの大きなポイントの1つとして、印刷機の基礎・根本となるボディの頑強さが挙げられる。

グループ会社のKoeing&Bauer MetalPrint社が提供する缶などを製造する際に使われる金属印刷機「MetalStar」や「Mailander」のボディ・フレームのベース部分は「Rapida」と同一のものが使われている。

それらの金属印刷機ではシート状にした金属(缶の胴体部分など)を印刷ユニットに通していることからも、「Rapida」の頑強さがよくわかる。

 

稼働中の振動も制御する土台の強さ:すべてのモデルで一体成型された箱型フレームの採用

 

この頑強さを実現している理由の1つが、前々回に紹介したヴュルツブルク工場内の鋳造工場で作られた部品にある。枚葉オフセット印刷機の土台部について、一般的な印刷機のように両サイドの別々のフレームをつなぐ形ではなく、一体成型された箱型の鋳物を採用しているのだ。

これは、ある特別なサイズやグレードの印刷機だけだったり新型機だけで適用しているのではなく、長年にわたって半裁機から四倍判機までにいたる全機種でその構造を採用。

自らが信じるもっともすぐれた工法を、さしてアピールすることもなく実直に作り続ける。ただひたすらなまでの同社のものづくりの精神がその根底にある。

 

フィーダートラブルによるチョコ停を防いで

実生産性の極大化に貢献する「DriveTronic SIS」

 

Rapida106X

Rapida106X

この「Rapida」シリーズには、そのような印刷機としての本質的な部分の強さに加え、他に類を見ない先進技術も搭載されている。その大きな特徴のひとつが、フィーダー部に備えられている「DriveTronic SIS( 解説動画 )」だ。

この装置は、従来のような引き針を使って見当を合わせる方法ではなく、用紙の端をセンサーで読み取り、それに応じてトランスファードラムのファーストグリッパーが左右に動いて用紙を掴むもの。

「グリッパーの可動範囲は左右に6~7㍉もあり用紙1枚ごとにゼロポジションに戻って紙を送っていくので、積載された用紙のコンディションによる見当不良の心配もない。また、用紙が加速しながら印刷機内に入っていくため最高速度となる毎時2万回転での稼働にも対応し、フィーダートラブルによるチョコ停を抑えられるので、圧倒的な実生産性の高さにもつながる。これから“Rapida”の導入を検討する印刷会社から、“長く使用していくうちに数千万通し・数億通しと稼働する間、毎回グリッパーが動き続けてもこの機構は耐えられるのか”という懸念を示されることもある。しかし、我々がこの“DriveTronic SIS”を発表した2004年から、この機構が壊れたり精度が落ちたといった報告例はいまだ存在していない」とKoenig&Bauer Sheetfed社(枚葉オフセット印刷機部門)でラデボイル工場カスタマーテクノロジーセンター(=デモセンター)の責任者およびシニアマネージャーを務めるウォルフガング・レイ氏は説明する。

 

完全自動運転機能「ErgoTronic AutoRun」

 

給紙機構を含めた用紙搬送の優位性に加えて、2017年に発表された完全自動運転機能「ErgoTronic AutoRun( 解説動画 )」も実生産性の極大化に貢献する先進機能のひとつだ。

Rapida145

Rapida145

具体的には、MISから送られてきたジョブ情報を基に、印刷機が自律的に自動でジョブ替えや用紙に応じた各所のエアセッティング、刷り出し調整、本刷りを行い、その間に印刷オペレーターはプロセスをモニター監視するだけで、なにも操作や作業をすることなく進んでいく。

そして、そのジョブの本刷りが終わると次のジョブへのセット替え、色/見当合わせなどの調整も最短・自動で行われ、印刷オペレーターはふたたびなにも操作や作業することもなく本刷りが始まっていき、印刷機側が受け取ったすべてのジョブが終了するまでそれが繰り返されていく。

その間にもし、インキ替えや次ジョブの刷版のセットをはじめとした印刷オペレーターによる手作業が必要となることがある場合は、それをもっとも効率的にできる順番・タイミングで印刷機が指示を出してくれる。

「2013年の段階で、“ErgoTronic AutoRun”という名称はまだなかったものの、自動的に刷り出し時の色合わせや本刷り中のインキキー制御を行うインライン色調管理システム“Qualitronic ColorControl”や、入稿原稿となるPDFデータを自動的に引き出してそれと比較するインライン欠陥検査装置“Qualitronic PDF Check”、サーボモーターで各印刷ユニットの版胴を独立して直接駆動させることで刷版交換と同時に各種洗浄作業もできてジョブ替え時間の極小化が図れる“DriveTronic SPC”といった要素と、それらを連携して自動でジョブを流していくというの仕組み・基礎を我々は築いた。そして今でも、より自動化を図ることができないかと、日々開発を推進し続けている」(レイ・シニアマネージャー)

 

ラデボイル工場のカスタマーテクノロジーセンターでは、世界中から訪れる印刷会社からの求めに応じて、年間350件程のテストやデモンストレーションが行われている。

今回、日本の報道陣向けに行ったデモンストレーションでは、①インラインコールドフォイル加工装置「Vinfoil Optima2.0」を搭載した菊全判8色Wコーター付UV印刷機「Rapida106X」、②ダブルデリバリーを搭載した菊倍判7色Wコーター付UV印刷機「Rapida145」、③Koenig&Bauer Duran製の製函機「OMEGA Allpro110」--を使用して行われた。

OMEGA Allpro110

OMEGA Allpro110

「Rapida106X」のデモンストレーションでは、▽コールドフォイル加工の上に4色+ニス加工を施した高付加価値印刷、▽4色+疑似エンボス加工+ニスでの細線表現を加えた高級印刷、▽毎時2万回転による高速印刷--という3種類のパッケージ印刷のジョブを、完全自動運転機能「ErgoTronic AutoRun」を用いて印刷。

ジョブ替えから本刷り開始まで5分未満でできる能力、印刷中にスピードを上げても爪抜けして見当がズレたり色が変動することがない高い安定性、刷了までの色変動を制御する品質保持力、厚紙でロットが長めなジョブでも印刷中に積紙されたパレット交換ができるノンストップなフィーダー/デリバリーなどの有用性が示された。

また、最新機の「Rapida106X」は、刷版の版曲げが不要で各ユニットについているカメラでセット位置の管理やジョブ情報の取得ができたり、メンテナンス時のグリスポイントが同じ機械構成の従来型機から280ヶ所も自動化によって減少していて負担が軽減されている点、刷版交換は胴数の多少にかかわらず40秒(Rapida145では60秒)で済むこと、入稿用PDFと全印刷物をインラインカメラで撮ったものを2400dpiの超高解像度で照合する「QualiTronic PDF HighRes」による高精度な品質管理ができる点などもあわせて紹介した。

 

「Rapida145」のデモンストレーションでは、食品のパッケージと日用品のパッケージの2種類のジョブを、「ErgoTronic AutoRun」による自動運転で印刷した。

インライン欠陥検査装置「QualiTronic PDF HighRes」が検知したものに関しては、「Rapida106X」のデモではフィーダーボード上に設置したインクジェット装置で全紙に余白部へナンバリング印字したものを通知する形を示したが、この「Rapida145」はダブルデリバリーを備えていることから、正紙と欠陥を検知したものを別々のデリバリーに排出。印刷後の分別作業の削減を提案した。

 

アニロックスロールの交換も迅速・簡単にできる仕組みに

 

Rapida145のアニロックススリーブ交換

Rapida145のアニロックススリーブ交換

また、「Rapida106/106X」では、ニスコーターユニット内にアニロックスロールを3本収納でき、ボタン1つでそれらの交換作業が簡単にできる(交換時間は2分30秒)ような仕組みとなっている。

一方、「Rapida145」を含めた大判機ではユニット内にそのサイズのものを納めきれないことから、アニロックススリーブをワンタッチで印刷機の操作側へ排出させてから90°回転させてラックに立てて収納し(写真の左端)、そのラックにある入れ替えをしたいアニロックススリーブの位置をコーティングユニットのすぐ横の位置にスライドしてから90°回転させて真横に寝かせ、ワンタッチ作業で印刷機に挿入するという、印刷オペレーターの操作性・利便性、そしてアニロックスロールを簡単に替えられることで印刷品質に妥協をしないで仕事を進められることをも考えた機構を採っている。

 

パッケージの未来:脱プラスチックによる板紙需要の増加

全判機で毎時3万6000回転に相当する、毎時1万8000回転の倍判機への関心が高まる

 

ドイツをはじめとした欧州では、環境にやさしいということがパッケージの未来に向けてのキーワードとなっているという。

そこで、脱プラスチックという観点から外装を省いたパッケージ形態が増加していることはもちろんのこと、蒸着紙やラミネート紙を使用することについても議論が始まっていることから、板紙の需要が高まりつつあるという。

そのような背景から、紙厚2㍉に対応する「Rapida145/164」への関心も高まっている。

「drupa2012において“Rapida106”について毎時2万回転モデルを発表したが、現在の我々のレベルはそこに立ち止まったままではない。今はこれ以上のことを話すことができないが、その点について期待をしていてもらいたい。ただ、生産性の高さという観点に立てば、毎時2万回転の“Rapida106”よりも、2倍の印刷面積で毎時1万8000回転を実現している“Rapida145”やそれよりもさらに大きな印刷面積を持っていて毎時1万7000回転の“Rapida164”の方が格段に高いので、大量生産をするならばこれらの方を勧めたい」とレイ・シニアマネージャーは語った。

 

ハイダック上級副社長(左)とレイ・シニアマネージャー

ハイダック上級副社長(左)とレイ・シニアマネージャー

Koenig&Bauer Sheetfed社で営業担当上級副社長を務めるディエットマー・ハイダック氏は「日本法人であるKoenig&Bauer JP㈱の立ち上げから10年が経ち、日本の印刷業界にたくさんの印刷機を納入させていただき、そして中にはすでに複数台のリピート発注をしていただいた例もあり、このハイレベルな市場に浸透できたことをとても嬉しく思う。日本の印刷会社のみなさまから寄せていただく品質や技術に関する意見はとても高度で、我々にとってもとても刺激的で、かつ製品開発に反映すべき点も発見できている。そのような、印刷技術に対してたしかな目を持ったみなさまから支持を受けられたことを誇りに思うとともに、これからも日本市場にコミットしていくことを固く約束する」と、日本法人設立から現在にいたるまでの順調なすべり出しに対して謝辞を表した。

また続けて、「当社のアンドレアス・ペスケCEOがdrupa実行委員会の委員長を務めていることもあり、Koenig&Bauerはdrupa2024に総力を傾けた最先端のものを出展する。まだ詳細を発表することはできないがひとつだけたしかなことは、当社のグループ戦略“Exceeding Print(印刷を超えて)”に沿った、エキサイティングなものとなるので期待してもらいたい」と語った。

 

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