Koenig&Bauer社最大の事業部門となる枚葉オフセット印刷機部門は、ドイツ東部に位置するザクセン州の州都・ドレスデンからほど近い街、ラデボイルに工場を構えている。
今年で125周年を迎えたラデボイル工場は、その昔は同社が1990年代に買収したプラネタ社があった場所となる。
今は同社の枚葉オフセット印刷機部門の本拠となり、その長い歴史に自信とプライドを持ちながら、今日の枚葉オフセット印刷をリードするさまざまな革新技術が生み出している。
そんなこのラデボイル工場において、現在もっとも先進的な開発事項となっているのが、紙器パッケージ向けB1判枚葉インクジェット印刷機「VariJET106」だ。
正式には、Koenig&Bauer社とDurst社との合弁会社であるKoenig&Bauer Durst社にて共同開発をしている。
頑健さと精緻さで定評がある枚葉オフセット印刷機「Rapida106」をベースに
高速・高品質で厚紙搬送も可能なインクジェット印刷の長所を組み合わせる
ラデボイル工場内の厳重な立入禁止エリアにて開発・テストが進められている「VariJET106」は、頑健さと精緻さで定評がある同社製の菊全判枚葉オフセット印刷機「Rapida106」のフレームをベースに、Durst社が担当するデジタルインクジェット印刷部のほか、オフセット印刷やインライン仕上げといった、デジタル印刷とオフセット印刷の長所を組み合わせたこれまでにはない新しいモデルとなる。
前回に紹介した「RotaJET」と同様、ユーザーの希望や活用用途にあわせて機械構成を自由自在にカスタマイズすることができるが、もっとも基本的な構成となるベースモデルだと、用紙供給部となるフィーダーからDriveTronic SIS(=その技術詳報は次回にて)を経て用紙が印刷機内に入っていき、コーティングユニットでプライマーを塗布してから乾燥ユニットへと流れる。
ここまでが、枚葉オフセット印刷機「Rapida」の技術であるシリンダーによる用紙搬送となる。
ここからは紙跳ねがしないようにベルト搬送となって、中央部の機械高があるインクジェット印刷ユニットに入る。
インクジェットヘッドには「RotaJET」と同様にFUJIFILM Dimatix社製のSambaを採用しているが、「RotaJET」と異なるのは4色ではなく7色(C・M・Y・K・オレンジ・グリーン・バイオレット)印刷となる点。
最高解像度1200×1200dpiを実現しており、また印刷するインク1ドットの大きさについて、3サイズで階調表現することでなめらかで高品質な印刷をすることができる。
インクジェット印字をした後は、耐熱性の高い搬送ベルトに用紙を移し替えてから、水性インク(=食品の1次包装でも安全に使うことができる要件を満たしている)を90℃の熱をかける乾燥ユニットで乾燥させた後、コンディショニングユニットを通過させる。
その後はふたたび、「Rapida」の技術を使ったシリンダーによる用紙搬送になるため、DriveTronic SISを経てからコーティングユニット、乾燥ユニットと続き、デリバリー部に印刷物が排出される。
これがミニマムな機械構成となり、その全長は約28㍍となる。
インライン加工や印刷ユニットなどの組み合わせは自由自在
機械メンテナンスも自動化の範囲が広く、特別な作業はなし
機械長がある一方で、機械幅は逆に狭くなっている。
これは、一般的なインクジェット印刷機の場合、インクジェットヘッドのメンテナンスをする際にそのユニットを横にずらすためにとても幅を要するが、「VariJET106」ではそれを上にずらしている。
それがインクジェット印刷ユニットの機械高につながっており、このユニット内は加圧状態にしてあるためホコリなどが外から入り込まないようになっている。
実際に導入・運用していく上でとても重要なポイントとなる機械メンテナンスについては、▽5000枚を印刷する、▽4時間ごと--のうちの早く到達した際に自動でインクジェット部のクリーニング(その作業時間は約4分間)が行われるため、オペレーターは自身の手でなにか作業をする必要がなく、まったく新しい開発コンセプトとユーザーフレンドリーさが両立されている。
また、印刷中にノズル詰まりなどが起こってホワイトラインが発生した場合でも、インラインカメラによる検知によって7枚以内に自動補正をする。
一方、枚葉オフセット印刷機「Rapida」をベースにしたユニット部のメンテナンスについても特別なことはなにもなく、通常機と同様のメンテナンス方法となる。
基本的には紙器パッケージ向けとなっており、前述の基本構成に加えて、オフセット印刷ユニットやロータリースクリーン印刷ユニット、オペークホワイトの塗布、コールドフォイルユニット、ニスコーティングユニット、ロータリーダイカッティングユニット、穴開け、乾燥ユニットをはじめとしたあらゆるユニットを、インクジェット印刷ユニットの前後のどちらであっても、任意の場所に任意の数をインラインで設置・搭載することができる。
印刷速度は毎時5500枚で、最大用紙サイズはB1判対応の740×1060㍉、対応紙厚は0.2~0.8㍉となる。
色再現についてはPANTONEカラーの93%をカバーし、オフセット印刷よりも広い色域を持つ。
2023年末に量産1号機の納入を開始
量産後の年間出荷数は25台を見込む
5月からは最初のベータカスタマーとなるドイツの大規模パッケージ印刷会社で、「VariJET106」の印刷が本格的に開始。
6月からは2台目のベータカスタマーとなるスイスの印刷会社でも稼働が始まる。
Koenig&Bauer Sheetfed社(=枚葉オフセット印刷機部門)でプロダクトマネジメント/プロダクトマーケティング部でシニアマネージャーを務めるサーシャ・フィッシャー氏は「この“VariJET106”は、“Rapida106/145”などの従来機と入れ替えるためではなく、既設機と補完し合いながら稼働してもらうことを想定している。この印刷機で小ロットやバージョニング、バリアブルといった特別な仕事を任せて、既設機とすみ分けることで、工場全体の生産性や加工高向上につなげてもらいたい。投資額も大きくなるので、“VariJET106”の稼働については少なくとも月産70万枚を目安に、できれば2シフト運用も視野に入れてもらいたい。2社のベータカスタマーではどちらも後加工のコーティングユニットを2つ搭載しているが、業種や製作するアプリケーションは異なっており、化粧品や医薬品、食品、たばこなどのパッケージのほか、小ロットで付加価値のあるものなどを印刷している。同一製品のパッケージでも複数の言語表記によるバリエーションがあったり、また口紅のカラーバリエーション表現といった用途で活用されている。さらに、今年末には量産初号機の納入も予定されている」と語る。
なお、量産体制が軌道に乗った後の「VariJET106」の年間出荷数は25台を予定している。
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