2012年12月、世界でもっとも長い歴史を有する印刷機メーカーであるKoenig&Bauer社が、日本法人となるKoenig&Bauer JP㈱(当時の社名はKBAジャパン㈱)を設立した。それから丸10年が経った今、日本市場ではKoenig&Bauer製の枚葉オフセット印刷機「Rapida106/Rapida106X/Rapida145」や、フラットベッドダイカッターやロータリーダイカッターといった後加工機の導入数が急速に増加。またその10年の間には、2017年に創業200周年を迎えてそれを機に社名をKBAから現社名のKoenig&Bauerへと変更、主力製品である枚葉オフセット印刷機「Rapidaシリーズ」のフルモデルチェンジ、本社およびラデボイル工場に新たにカスタマーテクノロジーセンター(デモセンター)を竣工、そして印刷産業の未来を支える新製品となるB1判枚葉インクジェット印刷機「VariJET106」や超広幅の輪転式インクジェット印刷機「RotaJETシリーズ」の開発など、長い歴史や伝統の上に胡坐をかくことなく、つねに次代をリードする進化と革新を積み重ねている。そんな同社が、近年の変化と進化を日本の印刷業界に紹介すべく、主要印刷専門紙の記者を招いたメディアツアーを催行した。
まず、Koenig&Bauer社の概要について簡単におさらいをしておくと、ドイツ・ヴュルツブルクに本社を置く世界的な印刷機メーカーで、主にパッケージングの分野で印刷機、後加工機、ソフトウェアソリューションを開発・製造・提供している。
同社が提供するシステムはほとんどすべての印刷方式に対応するほどの幅広い範囲をカバーしており、紙幣、板紙、段ボール、フィルム、金属やガラスのパッケージ、書籍、ディスプレイ、コーディング、ラベル、装飾、雑誌、広告、新聞など、あらゆる素材に印刷することができる。
デジタル&輪転印刷機、枚葉オフセット印刷機、特殊印刷の3事業部門からなるグループ全体で5400人超の従業員を擁し、2022年には売上高11億8600万ユーロを記録している。
同社が本社工場を構えるヴュルツブルクの施設は、デジタル&輪転印刷機と特殊印刷部門の本拠となる。
特殊印刷部門では、缶などへ印刷する金属印刷機、電気コードやケーブルに印刷するコーディング印刷機、マーキング印刷機、免許証やIDなどを印刷するカード印刷機、高級な酒類や香水などでよく見られるガラスへダイレクト印刷する印刷機の分野で世界トップシェアを占める。
またこの部門を代表する紙幣・証券印刷機については、全世界で流通する紙幣の9割以上が同社製の印刷機で生産されている。
国の信用の証でもある通貨の偽造は貨幣価値やその国への信頼の失墜につながることからあってはならない。
このような点からも、同社製印刷機が多色印刷でも保たれる高い見当精度を持つ点や、さまざまな箔・ホログラム・透かし・エンボスといった加工を組み合わせた高度な偽造防止技術が、世界各国の国家機関からきわめて高い信頼を寄せられていることがみてとれる。
もう1つの事業部門となるデジタル&輪転印刷機部門では、新聞オフ輪および商業オフ輪のほか、ダイレクトに段ボールへ印刷できるデジタル印刷機、軟包装向けのフレキソ印刷機、そして超広幅の輪転式インクジェット印刷機「RotaJET」などを取り扱っている。
Koenig&Bauer Digital&Webfed社(デジタル&輪転印刷機部門)で営業担当副社長を務めるステファン・セガー氏は「当社は世界でもっとも長い歴史を持つ印刷機メーカーで、最初の印刷機はイギリス・ロンドンの新聞印刷会社に納入された。それ以来、ここヴュルツブルク工場は200年以上にわたって新聞/商業オフ輪を生産したきたが、ここ近年の新聞印刷市場は世界的に成長が見込まれていない。そこで、主体だった新聞印刷機から新しいビジネスモデルを構築すべく開発されたもののひとつが、この“RotaJET”となる。また、“RotaJET”の技術を応用した、段ボールへダイレクトにインクジェット印刷ができる枚葉インクジェット印刷機“CorruJET”は、毎時5500枚もの印刷速度で厚みも8㍉まで対応していることから、成長を続けている世界的なメガEコマース企業が宅配便の伝票を不要とするような段ボールへのダイレクト宛名印字といった用途で着目しており、これからの伸長が見込まれている。そして段ボール印刷用途ではもう1つ、幅2.8㍍、厚さ9㍉に対応する枚葉フレキソ印刷機“Chroma X Pro”もラインナップしている。このように、市場環境に合わせた柔軟な事業展開をしている」と、同部門を取り巻く近況を語った。
建材・壁紙・化粧板・段ボール・パッケージなど
RotaJET:最大印刷幅225cmで活用範囲が多岐に
その中の最注目製品となる「RotaJET」は、印刷幅77㌢㍍から225㌢㍍までの各種サイズを取り揃えた、産業印刷用途の広幅な印刷基材に対応するモデルとなる。
インクジェットヘッドにはFUJIFILM Dimatix社製のSambaを採用した4色機で、最高解像度は1200×1200dpiを実現。
20㌘から450㌘/平方㍍の材料に印刷することができ、その主な用途としては、壁紙や床材といった室内装飾用の建材、家具などで使われる化粧板、また梱包用の段ボール、書籍、そして飲料/食料品も含めたパッケージ分野などで活用されている。
最大225㌢㍍幅に対応していることから、建装材業界から高いニーズがある印刷サイズにも応えることができる。
この大きな印刷幅に加え、毎分270㍍という最高印刷速度を有することから、きわめて高い単位時間あたりの生産性が得られる。
2017年に開催された同社の創業200周年を記念する祝賀イベントでは、この「RotaJET」の広幅で大サイズ対応ができることをわかりやすく示すサンプルとして、米国プロバスケットボールリーグのNBAで活躍した地元・ヴュルツブルク出身の英雄でもあるダーク・ノヴィツキー選手(身長213㌢㍍)の等身大ポスターの出力デモも行われた。
機械構成やオプション搭載は自由自在
ニーズや用途に応じてテーラーメイド
ヴュルツブルク工場内のカスタマーテクノロジーセンターには、「RotaJET130-Industrial」が常設展示されている。
この展示機は印刷幅130㌢㍍のモデル。
ただし、印刷幅77㌢㍍のモデルも225㌢㍍幅のモデルも筐体の大きさは同一となる。
「RotaJET」の大きな特徴のひとつが、ユーザーの希望や活用用途にあわせて機械構成を自由自在にカスタマイズできること。
この事業所で長く生産してきた新聞オフ輪の技術を転用し、それぞれの導入企業のニーズに最適化したテーラーメイドな機械構成を可能としており、印刷後はリワインダーによる巻き取り/各種折り出し/シートカット/製本ラインとのインライン接続/ミシン加工などが選択できたり、また印刷をするロール基材がなくなっても継続して次のロール基材に自動的につなげるスプライサーを設置できたり、さらにはワンパス両面印刷対応、ラミネート加工、ニーズや使用条件に応じた乾燥装置の設計、インクジェット印刷の前や後ろに固定イメージを印刷したりニス加工をするフレキソ印刷ユニットなどを組み合わせるといった、ありとあらゆる装置やユニット、機能を思いのままに搭載することができる。
食品パッケージ用途でも使用可能な水性インクを採用
この「RotaJET」は、軟包装や紙器といった食品パッケージ用途でも活用できるよう、食品パッケージに関するあらゆる法規制をクリアした水性インクを用意している。
セガー営業担当副社長は、このような「RotaJET」の特徴と市場からの評価について、「インクについては、現在は化学メーカーと共同開発したものを印刷機とセットで提供している。将来的には我々が提供する専用インクではなく、ユーザーが多くの適合製品の中から好きなメーカーの好きなインクを選べるようなオープン化をしていく。また、特色インクについては、ドットが小さいことから色再現領域がとても広いため、現在のユーザーの仕事の9割方は問題なく印刷できている。残りのわずかな割合の仕事のために“RotaJET”をさらに多色化して機械価格を高額にしてしまうよりは、そのような特色でなければならない仕事は従来印刷方式の印刷機を併用して生産する方が、投資面でも作業面でも効率的だと思う。もしくは、たとえば原反に白地を引く場合などでは、“RotaJET”のフレキシブルな機器構成が可能という点を活かし、フレキソ印刷ユニットをインラインで組み込むという方法もある。現在の市場傾向としては、生産の瞬発性やパーソナライズ・バリアブル対応ができるといったデジタル印刷機ならではの特徴と、ほかのデジタル印刷機ではなし得ないような広幅・大サイズ・高速印刷による桁違いの生産性、そして従来方式の印刷機よりもオペレーションが圧倒的に容易であることから、印刷会社だけではなくワールドワイドな展開をしている製品メーカー・ブランドオーナーが自社での内製化を検討すべく、ここのカスタマーテクノロジーセンターに訪れてテストをする例も増えてきている」と語っている。
広幅の段ボール用インクジェット輪転印刷機も製造
このヴュルツブルク工場ではもう1機種、広幅のインクジェット印刷機が生産されている。
それは同社のデジタル&輪転印刷機部門とHP社で共同開発をした、段ボールパッケージ市場向けの2.8㍍(110インチ)幅の超大型インクジェット輪転印刷機「HP PageWide Web Press T1100S」だ。
日本国内でも稼働実績があるこの印刷機は、最大印刷速度が毎分183㍍、生産性は最大で毎時5万1200平方㍍に及ぶもの。
ロール給紙される段ボールのトップライナーにインクジェット印刷をして、それを段ボールの中芯となる部分などとインラインで貼り合わせて製品を完成させる流れとなる。
これだけの広幅な原反を安定して高速搬送することができるという同社ならではの技術・強みが活かされて、この工場で機械が組み立てられている。
印刷機などで使う各部品もこの工場内で鋳造
こだわりの部品をひとつひとつ緻密に生産
このヴュルツブルク工場では、印刷機などで使われる各部品の製造も行う。
モノ作りに強いこだわりと情熱を持つドイツの製造業らしく、溶かして液体にした鉄などの金属を型に流し込み、それを時間をかけて冷やすことで部品の形状となるように固める鋳造工程から手掛けることで、1つ1つの部品を緻密に生産している。
そんな同社のお膝元であるドイツは、環境配慮について世界でも先進的な取り組みをしている国の1つとなる。
とくに、気候変動という問題の緊急性と市民の責任について、とくに若者の間で認識が高まっているという。
「政治的な決定や欧州グリーンディールのような対策は、環境保護やより持続可能な産業にするための重要なポイントであり、こうした取り組みは企業にとって大きな挑戦になる。その一方で、このような取り組みは、間違いなく企業にとっては大きな課題にもある。しかし、我々はこれからもそれを止めるつもりはなく、“時の精神”に立ち、気候保護に向けた施策を積極的に支援していく」とセガー営業担当副社長は語る。
2030年までにカーボンニュートラルの達成を目指す
太陽光発電システムで電力の自家調達比率を高める
ドイツでは電力の需給状況が今も逼迫していることもあり、同社ではこの課題に適切に対処するため、グループ全体のレベルでこのテーマを扱う独立した部署を設置し、すべてのビジネスユニットの可能性を探っている。
同社自身がより持続可能な活動を行うためにどのようなことができるかという問題とともに、環境に配慮した持続可能な生産を確立しようとする印刷会社をどのようにサポートできるかという点にも重点を置いている。
「我々は、自社のエネルギー消費と排出を削減するための選択肢を継続的に評価し、可能な限りこれらの手段を実行している。2030年以降、当社グループの全製造拠点において、Scope1およびScope2の排出量において完全なカーボンニュートラルを達成することを目標としている。CO2排出量が少なくてエネルギー効率が高い最新の炉に投資することで、鋳造工場はすでにはるかに持続可能な操業を行っている。また、主要拠点ではすべてグリーン電力による供給を受けているほか、ヴュルツブルク工場と枚葉オフセット印刷機の生産拠点であるラデボイル工場では設置可能なすべての屋根に太陽光発電システムをつけ、電力の自家調達比率を高めている」(セガー営業担当副社長)
【関連記事】
Koenig&Bauer JP、B1判枚葉インクジェット印刷機「VariJET106」がベールを脱ぐ【メディアツアーその2】
Koenig&Bauer JP、枚葉オフセット印刷機「Rapida」はここが違う 基本から先進技術まで【メディアツアーその3】