世界一きれいな色の印刷物を作る会社になる。そう志し、川嶋印刷㈱(本社・岩手県西磐井郡平泉町平泉字佐野原21、菊地慶高社長)では50年以上にわたり、色表現を究めるべく、印刷技術、色再現のコントロール方法の習得に努め続けてきた。顧客から価値を認めてもらえるような世界一きれいな印刷物、たしかな色再現を実現するための設備として同社では、長らくマンローランド・シートフェッド社製の印刷機を選択し続けている。これらの印刷機群という基盤の上に、磨いた技術と高めたノウハウを載せ、志を遂げるための歩みを今なお進めている。
きれいな印刷物を刷れないと顧客から相手にされないと実感
同社は、1911年に化粧箱・紙器の製造に端を発して創業。1936年に初めて活版印刷機を導入し、印刷事業を開始した。現在は印刷事業に加えてWebサイト制作や映像制作にも事業範囲を広げ、情報伝達全般のサポートを事業ドメインとしている。その中心となる印刷事業においては直請けの商業印刷を主力業務として、岩手県内各所に支社・営業所を構えているほか、隣接する秋田県や宮城県、さらには東京にも営業所を構えて商圏を拡大している。
同社が世界一きれいな色の印刷物を作る会社になろうと志したのは、さかのぼること50年以上前。その時のことについて菊地慶矩会長は「私は当時、開設したばかりの東京営業所で営業活動をしていた。その頃の当社は帳票印刷をメーンとしていたのだが、東京の市場では“きれいさ”を意識する顧客が多く、その仕事は商業印刷物だった。当時の当社の印刷技術はまだ拙くて濃度ムラなども多かったため、東京市場で営業をしていくのならば外注を活用した方がいいと勧められる始末だった」と振り返る。そこで菊地会長は印刷技術の原理・原則を体系立てて学ぶために大学に聴講生として通うとともに、高い印刷技術を有する東京の印刷会社やインキメーカーに師事し、印刷を追求するための技術ポイントやきれいに刷るためのための方法を学んできた。「その頃の営業活動を通して、きれいな印刷物を刷れないようでは顧客から相手にしてもらえないと強く実感した。そこで社長として岩手の本社に戻る際、当時はまだあまり普及していなかった濃度計を印刷現場に導入するとともに、ハイレベルなものづくりをすることの面白さを社内で共有することから始めた」(菊地会長)
その段階ではチラシなどが同社の印刷事業の大きな柱となっていたが、「チラシという媒体の宿命なのかもしれないが、見られることもなく捨てられてしまうのがとても悔しかった。それならば、捨てられることがないような印刷物を作ろうと思い立つとともに、全社的に捨てられることがない分野の印刷製品の営業を重点的にするようになった。その過程で、いかにきれいな印刷物を作るか、ひいては世界一きれいな色の印刷物を作ることを追求するようになった」と菊地会長は語る。ここに、同社で現在まで脈々とつながるDNA・志の源がある。
ダイレクトドライブによる迅速なジョブ替えで生産力が格段に向上
そんな同社の印刷部門では、帳票印刷で活躍をしているフォーム輪転印刷機2台、オンデマンドプリンター3台、そして6台の枚葉オフセット印刷機が稼働する。6台のうちの2台はA3判のいわゆる軽印刷機で、主力機となる残りの4台についてはすべてがマンローランド・シートフェッド社製の印刷機群(菊全判両面兼用8色印刷機、菊全判油性/UV兼用7色コーター付印刷機、菊全判両面兼用4色印刷機、菊半裁4色印刷機)となる。「マンローランド製の印刷機は一般的にパッケージ印刷用途で評価が高いが、きれいな印刷物を刷る上で大切となるドットゲインコントロールがこれほど自在にできて理屈に合っている印刷機はほかにないと思うので商業印刷用途としても長けている。また、当社では厚紙・薄紙の両方の仕事があるが、その面での対応力もあるので、当社が追い求める理想に応えられる能力がある印刷機だと判断した」(菊地会長)
同社でもっとも新しい印刷機は、5色印刷機「ROLAND705」との入れ替えで2015年に導入した菊全判両面兼用8色印刷機「ROLAND708SW DirectDrive」となる。この印刷機に搭載されているダイレクトドライブ機構は、各印刷ユニットに独立した個々のモーターを搭載することにより、それぞれを直接駆動できるようにしたもの。単独で動かすことができるので、圧胴や版胴、ローラーの各洗浄作業と刷版交換を同時に処理することができる。同社では元々、菊全機3台については2交代制を敷いていたので、1日あたり3台×2シフト=6台分が稼働していた。それがこの「ROLAND708SW DirectDrive」導入によって実生産性が飛躍的に向上したことで、ほかの菊全判機2台は夜勤がなくなり、同機の稼働も1.5シフトで収まるようになった。つまり、1日あたりの稼働台数は6台分から3.5台分に減らせたのだ。また、「ROLAND708SW DirectDrive」には30枚ごとに印刷物のコントロールストリップを印刷機内のカメラで読み取り、印刷物の濃度と見当を自動補正する「インラインカラーパイロット」も搭載しており、その効果により本刷り開始から刷了にいたるまで安定した色再現ができることから、高級多色印刷でも高い対応力を持っている。
「コロナ禍によってとくに観光関連需要が停滞したが、近時はようやく観光客も増えてきた。海外の有力紙で盛岡市が観光地として薦められて注目されたり、県沿岸部を舞台としたドラマが再放送されて脚光を浴びるなどしていることから、県内の各市町村から多国語分のパンフレットの仕事などもいただくようになってきた。このような供給力が求めれる状況でも、余力をもってそれに応えられる生産体制になっている」と同社を取り巻く市場環境と、それに応えられる印刷部門の能力について菊地社長は語る。また、現場における印刷機の貢献について、「マンローランド製の印刷機は、仕事の幅の広さ、汎用性の高さという点もメリットとなる。また、“夜勤明けだとなかなかしっかりと眠れない”という印刷オペレーター陣の声もあったが、夜勤がなくなったことでそのような身体的負担が減ったことも喜ばしい。さらに、工場の操業時間短縮によってエネルギー消費量が減らせることは、コスト面だけでなく環境配慮でも大きな意味がある」と同社の橋階由里子取締役生産本部長は述べている。
頑強な造りで長期間にわたる稼働でもパフォーマンス低下が少ない安定性
同社で稼働する印刷機は、最新鋭機ばかりというわけではない。たとえば菊全判両面兼用4色印刷機「ROLAND704SW」は2004年に導入したものなので、20年近く稼働している。同社印刷部の岩渕辰男部長は「マンローランド製の印刷機は、総じて丈夫にできていると感じている。長期間にわたって安心して稼働させることができ、長期間稼働させてもそのパフォーマンスの低下が少ないのではないだろうか。また、マンローランド ジャパン㈱のサービスメニューのほか、技術スタッフから受ける助言を踏まえ、計画的にメンテナンス時間を設けて自分達でそれに沿ったメンテナンスをしていることも大きな要因になっていると思う」と語る。また、印刷現場スタッフの姿勢について菊地社長は、「当社の印刷オペレーター陣は印刷機を愛してくれていて、それが日々の行動となることで、長く、きれいに、大切にして、次代の印刷オペレーターに引き継いでも使いやすいようにバトンをつないでくれている」と評している。
濃度と透明感にあふれた高級多色印刷も、稼働率アップに寄与する両面4色印刷も
同社では3台の菊全判印刷機について、2/2色や1/1色の仕事は両面兼用4色印刷機「ROLAND704SW」で、非吸収原反などのUV印刷に適した仕事は2013年に導入した油性/UV兼用7色コーター付印刷機「ROLAND707LV HiPrint」で、そして4/4色の仕事および高級多色印刷の仕事は菊全判両面兼用8色印刷機「ROLAND708SW DirectDrive」という基本的な仕事の割り振りをしている。「7色機を導入したのはパッケージ印刷分野への進出を視野に入れたものだったが、商業印刷分野でのニスや疑似エンボス加工、またクリアファイル製作などでも活用でき、さまざまな付加価値技術や特徴が営業活動において有利に働いた。それに続いて導入した8色機については4/4色の仕事の効率化もあるが、片面での高級多色印刷を油性印刷ならではの濃度と透明度にあふれたハイクオリティで仕上げること、すなわち世界一きれいな色の印刷に近づくことも目的のひとつとして導入した。世界一きれいな色の印刷を目指すという当社の志に近づくこともさることながら、両面/片面の両方の仕事ができることで高い稼働率を保つという経営的側面も満たしてくれ、当社にとってなくてはならないものとなっている」と菊地社長は同社における存在感を表した。
世の中で困っていることを察知し、それにどう対応して助けられるか
同社ではさきごろ、地元国立大学の岩手大学が女性活躍とダイバーシティーを目的に設立した「すずらん基金」に寄付金を贈った。これは同社創業111年記念事業の一環で、この寄付金を原資として、同大学に赴任する女性教員・研究者に対して奨励金を授与するフェローシップ協定となる。そしてこのフェローシップは、同社の礎を作った菊地会長の祖母である菊地ロク氏の名前を冠し、「川嶋印刷株式会社創業111年記念菊地ロクフェローシップ」という名称としている。
このような取り組みは、「世の中で困っていることを敏感に見つけ、それにどうお役に立てるか」という同社の企業姿勢からくるもの。当然、その姿勢はビジネス面でも展開されており、その範囲は印刷に関わることだけにとどまらないという。「最近だと、手加工を要するアッセンブリーの仕事が増えている。どこの企業でも働き方改革を進めており、それにともなって内製していた手作業をアウトソーシングする傾向が出てきており、当社もその部門を拡大している。そのような世の中の人にとって面倒なことを我々が取り組むことで、みなさんのお役に立てる存在であり続けたい」と菊地社長は語る。
世の中で困っていることに取り組み、地域教育発展への土壌を作り、そして世界一きれいな色の印刷物作りに変わらず邁進する。同社ではこれからも、地域や顧客の成長・発展をサポートしながら、自社のありたい姿に向けた成長も追求し続けていく。
月刊 印刷界 2023年6月号掲載
【取材・文 小原安貴、Interview・Article Writing Yasutaka Obara】