2023年05月02日

今やパッケージ印刷分野のみならず商業印刷分野でも、品質検査装置を活用した印刷製品の管理体制が印刷物発注者から求められるようになってきた。間違いのないたしかな納品体制が敷けるとともに、顧客からの信頼の獲得、そして印刷品質に関するトラブルによる刷り直しとそれにともなうコストや労力を削減できることから、品質検査装置は印刷会社にとって投資効果が得られやすい設備である。しかしながら、検知精度の高さから良品も過検知してしまうことがあるため、せっかく導入・設置をしたものの検知精度の設定を落として運用するなど、うまくその能力を活用できていないケースも散見される。そこで今家印刷㈱(本社・埼玉県戸田市早瀬1の5の1、今家裕久社長)では、過検知をAI的なアプローチで分析・判断して正しく分別できるジクス㈱(本社・東京都板橋区、高原良亮社長)製のインライン品質検査装置「Lab-vision」を導入し、厳しい品質要求にも応えられるたしかな品質保証・納品体制と印刷現場での実運用性を両立するとともに、その高い検知・分別精度を背景にした高品質印刷技術の開発にも突き進んでいる。

 

 

同社は、50年以上にわたってモノクロおよび2色物の書籍印刷・ページ物印刷を主品目に、顧客からの支持を集めてきた印刷会社。

本社およびその近隣にある工場では、四六全判2/2色機3台、菊全判2/2色機2台、四六全判1/1色機3台の計8台の枚葉オフセット印刷機が稼働する。

今家社長

今家社長

また2019年にはBCP対策の観点から宮城・名取に仙台工場を開設し、こちらでは四六全判2/2色機と1/1色機、菊半裁UV6色印刷機が稼働している。

 

同社では書籍印刷・ページ物印刷のほかに、品質要求度が高い品目の印刷・製造をもう1つの大きな柱としている。

その品目ではとてもシビアな品質管理が求められる。

「まず当然のことながら、納品したものの品質についてクレームを受けるようなことはしたくないという想いがある。プロの矜持として、きちんとした製品を刷り、顧客から信頼していただける会社でありたい。その中で、品質要求度が高いある品目の印刷については、肉眼で発見しにくいレベルの小さな点・汚れであっても顧客から指摘を受けるほどシビアなレベルのニーズがあり、それによって刷り直しをすることもある」と同社の今家社長は語る。

このような課題を抱えていた同社が、ジクスの販売代理店である㈱ワダコーポレーション(本社・神奈川県横浜市中区、和田治之社長)から提案を受けたのが、肉眼で見えないようなものも検知する機械の目、すなわちインライン品質検査装置による品質管理体制の構築で、8Kカメラによる高い分解能によって0.1㍉四方の汚れでも検知できる「Lab-vision」を印刷機に搭載することだった。

 

作業性の良さに配慮して出っ張りがほぼない状態で設置された下胴側のカメラ

作業性の良さに配慮して出っ張りがほぼない状態で設置された下胴側のカメラ

2022年8月に同社が「Lab-vision」を搭載したのは、品質要求度が高い品目での印刷をメーンとして稼働している、既設の㈱小森コーポレーション製の四六全判2/2色機「リスロンS44SP」だった。

この印刷機はダブルデッカータイプで、下胴側の作業スペースが決して広くはない。

プレートの脱着などで毎日何度も印刷オペレーターはそのスペースに入るため、下胴側のカメラが大きく出っ張って設置されると作業性とストレス面で支障が出てしまうが、とてもコンパクトですっきりと収められている。

 

検知した欠陥の内容をAI的アプローチで判断

 

同社が「Lab-vision」を導入するにあたって懸念していたのが、その高い精度によって欠陥ではないような細かい汚れまでも検知してしまい、本刷り中にその通知だらけになって印刷オペレーターが業務に集中できなくなってしまうことだった。

しかしこの「Lab-vision」は、このような実運用における課題にも対処する機能を備えている。

 

印刷機に設置したLab-visionのカメラ

印刷機に設置したLab-visionのカメラ

たいていの用紙では、印刷前の白紙の状態を8Kカメラによって検査をすると平均で20個超の夾雑物がある(ジクス調べ)。

同社における品質要求度が高い品目で求められるレベル、すなわち同社が品質検査装置に求めている0.1㍉以上の汚れを検知する精度だと、そもそも紙の中に含まれている夾雑物も検知してしまうのだ。

そこでジクスでは「Lab-vision」にAI機械学習から発想を得た、印刷検査向きの機械学習機能を搭載。

いわゆる純粋なAIではアノテーションと呼ばれる作業で正常品と欠陥品を学習させるため、いつも同じ図柄の場合には向いているが、印刷物のようにジョブごとに異なる図柄を生産する場合には学習に時間がかかりすぎてしまう。

そこで、機械学習に人の手で手助けする学習方法が搭載されているのだ。

この機能では、検知したものの面積、サイズ、発生頻度といった諸条件を踏まえて分析し、その検知したものがどのような原因でついたものなのかを瞬時に判断して、良品/欠陥品を分別する。

これによって、高い検知精度とより洗練した製造工程が実現される。

ジクスの高原社長は「品質保証によって今家印刷様が差別化できるように、ほかの会社では検知できないものも判断・分別できるようにチューニングをして納めさせていただいた。また、印刷機に堆積したスプレーパウダーが浮遊ゴミとなり、それが過検知の原因になるケースがよくあるが、今家印刷様では印刷現場の清掃が徹底されていたので、初めて訪問した時からうまく立ち上がるだろうと予測できた」と語っている。

 

運用もしやすく高いコスト効果も

 

同社は、ジクスに対してもう1つ要望を寄せていた。

それは、印刷物の比較元となるマスターデータとして、OKシートではなく入稿データ(=PDF)と照合することだ。

岩崎部長

岩崎部長

たとえば、プレートに最初から汚れや傷がついていたりブランケットにへこみがある場合、さらにはOKシートとしたものに実は汚れがあった場合に正しく検知ができないからだ。

それを防ぐには、大元となる入稿データのPDFをマスターにして照合する方法が最適となる。

しかし、デジタルのPDFの色と印刷物の色の鮮やかさはまったく違う。

そこでジクスでは、入稿データのPDFから検査・照合をするためのPDFを生成する色変換エンジンを開発し、その検査・照合用のPDFと印刷物を比較・照合することで高精度な検査ができるようにしている。

「導入してから1ヶ月程のわずかな期間で、印刷オペレーター陣が“Lab-vision”のさまざまな機能を覚え、使いこなせるようになった。汚れ、文字欠けなどのほか、針飛び、あて飛び、さらには印刷中の色調の変化まで、あらゆる種類の印刷不良を網羅している。それを全数検査するので、機長は安心感をもって作業を行うことができ、また目視検品という工程もなくなった」と印刷現場におけるメリットについて、同社第二工場を管掌する岩崎剛部長は評価している。

 

同社における品質要求度が高い品目では、要求されるレベルが並外れて高いため、刷り直しによる追加コストがこれまでは毎月30万円程あったが「Lab-vision」導入後はそれがゼロになったという。

「その頃よりも資機材価格が上昇しているので、今も刷り直しがあったとするとそれに要するコストはさらに増えているだろう。印刷事故を未然に防げているのは、コスト面でも大きな効果となる。また、紙質が悪くてダブりやすい仕事などでも、この印刷機があれば安心して受注できる」(今家社長)

 

湿し水量を絞った印刷の後ろ盾に

 

同社では今後、「Lab-vision」をほかの印刷機にも徐々に増設していく方針だ。「品質保証が図れて生産性も向上し、機長の負担も軽減されるのでワンマンオペレーション化もできるようになると踏んでいる」と今家社長は語る。

 

さらに同社では、砂目が浅くて湿し水量を絞った印刷に適したプレートを使うことで、インキ乾燥が速い上に高いインキ濃度と印刷面の艶にあふれる印刷技術を培ってきた。

その印刷技術にさらなる一工夫を加えた、迫力とリアリティにあふれて差別化につながる新たな高品質印刷手法を研究・開発している。

その点でも「Lab-vision」が大きな貢献を果たしているという。

今家社長は「高品質な印刷物というのは、欠陥がないというだけにとどまらず、印刷面そのものに人を魅きつける力があるものだと考えている。そんな高品質で美しい、リアリティや迫力がある印刷物を刷るには、しっかりと湿し水量を絞った印刷をすることが必須となるが、湿し水量をギリギリまで絞ると汚れが発生するリスクも出てくる。高みを目指していく上で付随するそのようなリスクも、この“Lab-vision”がしっかりと検知してくれるので支えになっている」と、同社の現在の事業の柱だけでなく、将来のさらなる柱も見守るこの装置の価値について表した。

 

日本印刷新聞 2023年5月1日付掲載

【取材・文 小原安貴、Interview・Article Writing Yasutaka Obara】

 

 

 

 

 

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