2023年03月20日

印刷媒体の提供を中心に、顧客の販促・広報・業務改善活動のサポートをしている㈱共立アイコム(本社・静岡県藤枝市高柳1の17の23、小林武治社長)では、近年は印刷媒体の提供のみならず、Webソリューションを中心にデジタル先端技術を活用することで「情報価値創造業」として顧客の真のパートナー企業となることを目指している。その中で、SDGs達成に向けて積極的な取り組みを行うほか、DX認定、プラチナくるみんマーク認定を受けるなど、企業の社会的責任や社会課題解決にも力を注いでいる。

その一環として、印刷生産工程における環境配慮と、エネルギーや資源の無駄を削減すべく、2022年12月にKoenig&Bauer社製の最新鋭菊全判両面兼用8色機「Rapida106X」を導入した。なお、この「Rapida106X」は、両面印刷時に毎時2万回転を実現した国内最初の印刷機となる。

 

先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金の対象として

印刷機で唯一採択された省エネ機「Rapida106X」

 

同社は印刷業という既存の枠にとどまらず、Web・動画コンテンツ制作、システム開発にも範囲を広げ、情報発信に携わるあらゆる事業展開をしている。また、社内のさまざまな経営・生産活動やジョブごとの利益などについても数値による見える化をして、その明確化された数値に基づいてPDCAサイクルを回すとともに人事考課をすることが、高い従業員満足度にも繋がっている。

小林社長(中央)、大石取締役(右)とKoenig&Bauer JPの阿部野氏(左)

小林社長(中央)、大石取締役(右)とKoenig&Bauer JPの阿部野氏(左)

今回、「Rapida106X」を導入したことにも、この見える化が大きな要因となった。「当社では元々、SDGsへの貢献という面からも、積極的に環境に配慮した取り組みをしてきた。そしてこの印刷機を導入する際に、“先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金”を受けた。この補助金を受けるにあたって、“設備更新により関連事業所での電力使用量を30%以上削減する”ことが要件となった。現在は世界的にエネルギー不足の状況にもあり、またエネルギーと資源・材料の削減はリンクするので、それらも見える化しながらチャレンジすることにした。エネルギー高やあらゆる資材の高騰への対応は、すでに印刷会社にとって経営課題だ。先進設備に指定されたKoenig&Bauerの印刷機を選んだのは自明の理だったが、それはスタートに過ぎない。今まで当たり前にやってきたすべてのやり方を自責と他責で分析し、変えていかなくてはならない。これは現場のオペレーターだけでできることではなく、営業を含めた会社の活動すべてを見直していく取り組みだ」(小林社長)

 

「Rapida106X」は2台のオフ輪を含めた計4台の印刷機との入れ替え

総印刷生産量はそのままに、電力使用量3割以上削減という難題に挑む

 

共立アイコムで稼働する両面兼用8色印刷機「Rapida106X」

毎時2万回転で両面印刷をする「Rapida106X」

この「Rapida106X」導入は、菊全判8色機、菊全判4色機、B3判4/4色のオフ輪2台の計4台との入れ替えとなる。その結果、同社で稼働する印刷機は、菊全判8色機「Rapida106X」のほか、菊全判4色機、菊全判2色機のみの3台体制となった。要は、印刷機の数が6台34胴から3台14胴になっても生産数量は維持し、それに対して電力削減を達成するというチャレンジとなる。まさに「Rapida106X」に求められる貢献は多大なものとなった。

群を抜く高効率な生産性を有する「Rapida106X」をもってしても、その印刷準備時の消費電力量は家庭用電子レンジに換算すると数十台分にも達してしまうという。ということは、ジョブ替え時間は極力短くしなければならない。また、印刷物1枚あたりの電力消費量は、印刷機の稼働速度が速ければ速い程小さくなる。「使用電力量を30%以上削減するための試算をしたところ、前のジョブの刷了から次のジョブの本刷り開始までの時間は10分未満、そしてどのような仕事であっても毎時1万5000回転以上で印刷することが、要件達成に必須となることがわかった」と同社の大石修取締役製造統括は語る。この厳しい条件についてカタログスペックだけではなく、実際の現場で実践し続けられなければならないのだ。

 

超高速でも確実に安定してフィーダーから紙を送る「ドライブトロニックSIS」

フィーダートラブルが起こらずストレスフリーなワンマンオペレーションを実現

 

洗練された操作性と自動化機能により同社でのワンマンオペレーション運用を支えている「Rapida106X」のコンソール

洗練された操作性と自動化機能により同社でのワンマンオペレーション運用を支えている「Rapida106X」のコンソール

大石取締役は振り返る。「ある印刷会社で、Rapida106Xの前身機となるRapida106の稼働状況を見学する機会があり、そこで大きな衝撃を受けた。実際の仕事でその印刷機の最高速である毎時1万8000回転で安定した両面印刷を行っていたのだが、フィーダーにセットされた用紙は決してきれいとは言えない積まれ方だった。しかし、フィーダートラブルが起こることはまったくなかった」と。これは、用紙がインフィード部を通過する時に下から赤外線を当て、印刷機側がどの位置に用紙が来ているのかを1枚1枚検知し、それに応じてグリッパーを動かして用紙を正しい位置に調整して送っていく「ドライブトロニックSIS」機構によるもので、紙積みの状態に関わらず確実に用紙を印刷機に送り、かつ高い見当精度が得られる。フィーダートラブルが起こらないことは実生産性向上に直結するとともに、同社では基本的に印刷機はワンマンオペレーションなので、作業負荷・精神的ストレスの面でもとても大きな効果となった。

 

実際に「Rapida106X」を導入してみると、これまでの同社の8色機ではジョブ替えに平均で35分かかっていたが、ほぼすべてのジョブ替えで10分未満に抑えられ、5分未満で済むものも少なくない。また、機械組み付けからまだ日が浅いにも関わらず、印刷稼働速度についても毎時1万5000回転以上の案件が増えており、両面印刷時の最高速である毎時2万回転に迫るものもあった。このパフォーマンスに貢献しているのが、インラインカメラで撮像した全印刷物と入稿原稿(PDFデータ)を比較して色調管理と同時に欠陥検査も行うインライン検査装置「クオリトロニックPDF Check」だ。この機能を使うことで、ジョブ替え時の色合わせ作業が瞬時にできる。

この機能をさらに活用した、受け取った複数の印刷ジョブデータを完全自動運転する機能「エルゴトロニックAutoRun」も搭載しており、これも大いに活用していくことを予定している。また同社では、紙種・斤量ごとに使用する用紙を統一するように普段から顧客と交渉していることから、用紙替えをせずにジョブを連続させられる素地があるため、「エルゴトロニックAutoRun」を活用することでさらなる生産性向上を果たす余地が見込まれる。さらに、この「Rapida106X」にはAI機能が搭載されており、各用紙でもっとも良好な印刷時のエアー量などの諸設定値を記憶し、同条件での次回ジョブ時には自動的にそのセッティングをするので、仕事を重ねれば重ねるほど生産性が高まっていく。

 

超高速機のすべての能力を使いこなそうとする向上心が工場現場の意識改革に

この工場サイドの進化が社内全体に波及し、成長・改革への機運が高まる

 

実印刷速度が速いことで新たな課題も生まれている。同社の平均ロットが3000~5000通しなので、仮に3000部を毎時1万8000回転で処理すると本刷り時間は10分、1000部を毎時2万回転で処理したらわずか3分しかない。この時間内で8胴分の旧版を取り除いて次ジョブの刷版を差し込み、用紙を用意するのは至難の業となる。それに対し小林社長は「当社ではこれまでも、まず工場サイドのチャレンジから意識やレベルが高まり、仕事の流れの中で営業部門にそれが波及していき、結果として会社全体の意識改革を進めることできた。今回の“Rapida106X”の導入でも、印刷現場のオペレーター陣が印刷機の能力の高さを使いこなすべくモチベーションがあがっており、しかも電力量削減が見える化したことでそれに対する意識も芽生え、試算から弾き出した目標も達成できる見通しとなっている。この工場サイドの進化から、社内全体に改革への良い機運が生まれている」と最新鋭機の導入による会社の成長について評した。

 

日本印刷新聞 2023年3月20日付掲載

【取材・文 小原安貴、Interview・Article Writing Yasutaka Obara】

 

 

 

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