Koenig&Bauer社では、drupa2012でフルカラー輪転インクジェット印刷機「RotaJET」を発表して以降、印刷品質、印刷速度、そして最大で2.25㍍幅にもおよぶ基材対応の広幅化といった進化を続けてきた。
通常の紙だけでなく産業用途のデジタル印刷機として、建材や化粧板、段ボール、紙器パッケージなど、これまでのデジタル印刷機の用途のイメージを超えたさまざまな分野で活用されている。
その特徴や活用シーン、今後の市場傾向などについて、Koenig&Bauer Digital&Webfed社(デジタル&輪転印刷機部門)で営業担当副社長を務めるステファン・セガー氏に話を聞いた。
--貴社では輪転式インクジェット印刷機「RotaJETプレス」を提供しています。77㌢㍍幅から225㌢㍍幅まで、広幅の印刷基材に対応する機種を取り揃えていますが、これはどのような用途をターゲットとしているのでしょうか?また、その用途分野に着目したポイントについてもお聞かせ下さい。
セガー 「RotaJETプレス」は商業印刷や出版印刷の代替という用途で活用していただくことも可能ですが、主眼を置いているのは産業用途です。たとえば、壁紙や床材といった室内装飾用の建材、家具などで使われる化粧板、また梱包用の段ボールなどになります。そして近年では、飲料・食料品も含めたパッケージ分野からの引き合いが急増しています。
なぜ、これらの分野でデジタル印刷のニーズが高まっているか、そして「RotaJETプレス」への興味が集まっているかについてお話しします。 「RotaJETプレス」を中心とした視点で私たちが生活をする世界を見渡しますと、建材や化粧板など、いたるところに「RotaJETプレス」が得意とする対象印刷物が溢れており、限りない拡大の可能性があると感じています。たとえば壁紙を製作する場合、従来工法ではグラビア印刷機のシリンダー長を限界として、同じデザインを数十㌔㍍にわたって繰り返し印刷されていきます。「RotaJETプレス」を活用していただけば、必要な分ごとにデザインを変えながら壁紙を製作していくことが可能になります。これまでだとコストが高くてできないことを、「RotaJETプレス」が可能とします。世界中の消費者は、他人とは違うこと、オリジナリティを表現したり選択できることに付加価値を感じて対価を投じますので、アンテナの感度が高い建材や家具メーカーから、「RotaJETプレス」についての問い合わせが増えています。
--近年、パッケージ用途での引き合いも増えているということですが、その傾向についてお聞かせ下さい。
セガー わかりやすい分野で例をあげます。たとえばタバコでは、昔は1銘柄あたりのフレーバーはスタンダードなものとメンソールなど、2~3種類程でした。それが今では、いろいろなフレーバーやバージョンが何種類もあり、またさまざまな新規銘柄も増えています。また、いろいろな国で販売する場合は、国ごとに規制内容や表記事項が異なりますので、それぞれに合ったパッケージにする必要があります。すなわちメーカー側は、瞬発力をともなった多品種対応をしなければならないため、「RotaJETプレス」によるデジタル印刷への興味が高まっているのです。
このような傾向は、もちろんタバコだけに限ることではありません。私たちにとって身近な食料品でも同様です。ブランドの一貫性を保つためにベース部は共通デザインとしながらも、それぞれの味ごとに一部の色や文字を変えたり、また時期や季節ごとのスペシャルバージョンに変更するといった、カスタマイゼーション、パーソナライゼーションしたものは増えています。このようなものパッケージを効率良く、そして発売のタイミングに合わせて柔軟かつ瞬発的に製作するための手法として、「RotaJETプレス」に注目が集まっています。
--「RotaJETプレス」の特徴についてお聞かせ下さい。
セガー 「RotaJETプレス」の大きな特徴のひとつが、いろいろな基材に対応する柔軟性があることです。20㌘/平方㍍の薄紙から450㌘/平方㍍のパッケージ用の材料にも印刷するこができます。これにより書籍から建材など、さまざまな産業で活用していただけます。フィルムやフォイルといった基材についての対応も、現在開発をすすめています。使用するインクは環境に配慮した水性タイプで、食品パッケージの一次包装用途にも適合するものを用意しています。
「RotaJETプレス」のもうひとつの特徴は、ユーザーの希望や用途にあわせて構成を自由自在にカスタマイズできる点です。Koenig&Bauerグループには、枚葉オフセット印刷機部門、特殊印刷事業部門、デジタル&輪転印刷機部門という3部門があり、我々はデジタル&輪転印刷機部門に属しています。この部門には新聞オフ輪も含まれており、この業界の技術が「RotaJETプレス」に活かされています。と言うのは、新聞オフ輪では同じ構成の機械を納入するような例はほぼなく、それぞれのユーザー様に向けてテーラーメイドなのです。それを踏襲し、各ユーザー様のニーズにとって最適な構成ができるようになっています。
たとえば、印刷後の後加工ではリワインダーによる巻き取り、各種折り出し、シートカット、製本ラインとのインライン接続もできます。ロール基材がなくなっても継続して次のロール基材に自動的につなげるスプライサー、インクジェット印刷の前や後ろに固定イメージを印刷したりニス加工をするフレキソ印刷ユニットなど、あらゆる装置や機構、自動化機能を搭載できます。また、書籍のモノクロ印刷ならばそれほど乾燥装置はいらないでしょうし、熱に敏感な基材を使用するならば乾燥装置1つあたりの出力を下げて個数を増やすといった、ユーザー様の希望・運用方法に寄り添った柔軟で細やかな対応もすることができます。
基本的な構成としては、アンワインダーから基材を送り出し、インクジェットユニットの前にプライマー(下地)の塗布・乾燥をし、インクジェット印刷ユニットでは1つの共通圧胴にCMYK4色分のインクジェットヘッドが搭載されています。プリントヘッドは最高1200dpiで、各色とも2列のヘッドを基材の流れ方向につけており、このプリントヘッドの洗浄作業は自動で行われます。最高印刷速度は毎分270㍍で、印刷品質管理についてはインクジェット印刷ユニットの後にカメラで監視し、色差や色抜けがあれば自動補正する仕組みとなっていますので、つねに良好な印刷結果が得られます。
--具体的な「RotaJETプレス」の活用事例があればお聞かせ下さい。
セガー 建材分野での導入例が多く、たとえば凸版印刷の子会社でもあるドイツ・アルンスベルクに拠点を置く建装材印刷会社のInterprint社では、RotaJET138、RotaJET168、RotaJET225の3台が稼働しています。この3台を揃えたことで、さまざまなジョブへの対応力や可変印刷によるデザイン、新しい色の組み合わせなどについて、建装材市場で求められるすべての一般的なフォーマットについてデジタル印刷で製作できるようになりました。
そのほかにも、たとえば通信販売業者や宅配業者などでは、配送先などの宛名やその情報が記されたバーコードをラベルに印刷し、段ボールに貼っています。それらを段ボールに直接印字することも可能なので、そうすることでたくさんの資材やラベルを貼るための時間削減につながります。
また、食料品のパッケージにQRコードを印刷し、消費者にそれを読み取ってもらうことで、メーカーと消費者が直接コミュニケーションを取ることができるようにもなります。たとえば、消費期限情報や製造・運搬に関するトレーサビリティ情報、そのパッケージの廃棄方法、レシピ情報といった消費者がコードを読みたくなるもので誘導することも考えられます。
ドイツ・ヴュルツブルクに新設した当社のデジタル印刷機のデモセンターには「RotaJETプレス」が設置されており、世界中の印刷会社やブランドオーナーが自社で実際に使用する基材を持参して、導入の可能性を検証しています。デモセンターの来訪者ははっきりと増加傾向にあり、そのお問い合わせや実際に来訪されるのは印刷会社や建材会社ばかりでなく、パッケージ製作を発注する商品メーカー側の人というケースも少なくありません。世界中の商品メーカー・ブランドオーナーがデジタル印刷によるパッケージ製作の潜在的能力、そして「RotaJETプレス」によるパッケージ製作への可能性に興味を示していることがみてとれます。
--ブランドオーナー側の興味の方向性について、具体的にお聞かせ下さい。
セガー ブランドオーナー側が持つ新たな視点として、Time to Market(製品を企画してから市場投入するまでの時間の短さ)が重視されています。たとえば、全世界で一斉に期間限定品を発売するといった際、世界の各商品生産拠点の近くにある印刷会社を手配し、アナログ印刷方式で大量にパッケージを製作するようでは、期間限定品という瞬発性が求められるものであるにも関わらず時間がかかってしまいます。そこで、各商品生産拠点の近くで稼働するデジタル印刷機を活用すれば、瞬発性をもって商品の供給が可能となります。裏を返せば、そのような仕事に対応できるデジタル印刷設備を持つ会社に、そのような仕事は発注されるということにもなります。
また、高級な飲料やソースなどの紙製パッケージにみられる傾向なのですが、その商品自体はたくさん製造できないものなのですが、とても人気があるため長年にわたって製造したものはすべて売り切れているという商品があります。このような商品の場合、パッケージ製作はどうしても小ロットになってしまいますので、従来からのアナログ印刷技術ではコスト・手間がかかり過ぎてしまっているのです。
デジタル印刷を活用する方法について、印刷発注者・ブランドオーナー側のニーズの高度化、そして我々の技術進歩によって、議論がどんどんと深まっています。単に既存アナログ印刷方式の置き換えをするということではなく、実際に運用する上での実現性、新たなビジネススタイルの確立、ビジネスをする上での新たな武器にするといった点を踏まえ、デジタル印刷機「RotaJETプレス」の活用を検討していただいています。
日本印刷新聞 2023年1月30日付掲載
【取材・文 小原安貴、Interview・Article Writing Yasutaka Obara】