2023年01月31日

オフセット印刷領域においては視認性、耐刷性、耐傷性、露光感度をさらに高めた現像レスプレートの新製品「KODAK SONORA XTRA」の販売を昨秋に開始。デジタル印刷領域においてはIGAS2022でオフセット印刷に匹敵する品質と生産性を低ランニングコストで実現するインクジェット印刷機「KODAK PROSPER ULTRA520プレス」を紹介。

コダックジャパン(本社・東京都品川区)はオフセット印刷/デジタル印刷の双方を最適に組み合わせることで、厳しい市場環境に置かれている印刷業界で勝ち残っていく手法を提案している。そんな同社の今年の方向性について、小泉正典セールスヴァイスプレジデント(プリント事業部プリント営業本部長)と河原一郎プリント事業部デジタルプリンティング営業本部長の2人に話を聞いた。

 

 

--まず、昨年を振り返り、印刷業界を取り巻く環境はいかがでしたか。

小泉 オフセット印刷分野については、日本の印刷市場では新型コロナウイルス感染症の流行による影響を多大に受けており、国内の印刷ボリュームが減少しています。私はコダックの韓国市場についても管掌しているのですが、韓国市場の落ち込み幅は日本市場ほどではありません。その差異の理由を考えますと、日本市場はチラシ、ポスター、カタログといった分野の印刷物が市場で大きな割合を占めています。とくにチラシについては、生活者の外出自粛、そして小売店側でも店舗内で密を作らないための配慮といった背景がありました。一方、韓国ではチラシがありませんので、印刷ボリュームの落ち込み幅が比較的少なかったと考えられます。また北米や欧州では、2022年の印刷ボリュームがコロナ禍前(2019年)のレベルに戻ってきています。このような点を踏まえますと、日本の印刷市場の落ち込みは他国と比べて大きく、また市場の回復状況も遅れ気味だと感じています。

河原 デジタル印刷の動向については、その主力アプリケーションとなっているデータプリント事業は定期物が多くを占めていることから、商業印刷市場のように急激なボリューム減という現象は見られません。市場全体として通知系の印刷物をデジタルメディアへ移行する動きが進んでいますが、たとえば新型コロナウイルス感染症のワクチン接種券といった特需もあり、印刷ボリュームはおおむね同じくらいで推移しています。

 

--昨年の貴社の業績はいかがでしたか?

小泉 昨年のオフセット印刷用のプレート出荷量につきましては、オフセット印刷市場が縮小していることにともなって減少となりました。また昨年は、プレートの主原料であるアルミニウムが世界的に不足していることから価格が急騰したり、またエネルギー価格の上昇などもあったため、プレート価格の改定を実施いたしましたが、それによってユーザー様を大きく失うことがなかったのは、みなさまのご理解の賜物と思っております。

エネルギーや資材価格のさらなる高騰は続いていますが、日本、中国、ドイツ、北米にある我々のプレート生産拠点については閉鎖・移転・集約などをすることなく、それぞれの拠点で各地域向けに製品を最適化しながら、腰を据えて安定的に供給してまいります。当社のプレートをご使用していただいているみなさまから安心してもらえるような供給体制を続けていきます。

また、CTPなどの機器類につきましては、2022年は前年よりも出荷台数が増加しました。これは、今後の市場回復を見込んだ動きが活発化している表れだと思います。その傾向が引き続いていることから、今年の出荷台数はさらに伸ばせると見込んでいます。この傾向は日本市場だけでなく世界的にも同様でして、市場が回復傾向にあることと印刷産業に底堅さがあることの証なのだと思います。

河原 デジタル印刷分野につきましては、消耗品の出荷量が順調に伸びました。これは、市場でデジタル印刷の活用シーンが増えていることの表れとなります。

ただ、通知系の印刷物をペーパーレス化するという流れは現実としてありますので、その分野については縮小傾向になることが予測されます。そこでユーザーのみなさまは、それに対する次の一手を打とうとしていらっしゃいます。データプリント事業をしている会社ではパーソナライズ技術や個人情報をハンドリングできる技術を有していますので、それを活用した新たなアプリケーション開発をする傾向が見受けられます。

そのひとつがカラーリッチなダイレクトメールです。大量のダイレクトメールについては、これまではオフ輪で固定部分を先に印刷して、可変部のデータをデジタル印刷で行うハイブリッド形式が主となっています。このような生産方式を採っているのは、オフセット印刷とデジタル印刷では品質に差があるという認識からなのですが、デジタル印刷の品質がオフセット印刷のそれに迫っている状況にある今、ダイレクトメールの全面を白紙からデジタル印刷で行うという提案ができるようになりました。

そのほかにも、デジタル印刷で軟包装も含めた各種商品パッケージを製作することにより、そのパッケージにQRコードを印字することができ、そのQRコードからデジタルメディアに誘導してキャンペーンに参加してもらうといった、DXの取り組みの一翼をデジタル印刷が担う事例も増えています。また、肌に直接触れても大丈夫なパーソナルケアインクを開発したことで、おむつなどの生産にデジタル印刷を活用する例もございます。

 

--昨年は「KODAK SONORAプロセスフリープレート」の新バージョンとなる「KODAK SONORA XTRA」を発表しました。着々と「KODAK SONORAプロセスフリープレート」の普及が広がっています。現在の普及状況、出荷するプレートのうち完全無処理CTPプレートが占める割合を教えて下さい。

小泉セールスヴァイスプレジデント

小泉セールスヴァイスプレジデント

小泉 おかげさまで「KODAK SONORAプロセスフリープレート」の採用率はかなり高まっており、当社の国内プレート出荷量のうち新聞印刷分野では75%、商業印刷分野では51%、全体では55%を占めています。過半数が「KODAK SONORAプロセスフリープレート」を活用しており、オフセット印刷で無処理版を使用することは時代の趨勢となっています。

無処理版については、視認性、耐刷性、耐傷性といった点を懸念し、とくに大ロットのジョブをする印刷会社様では切り替えに慎重な判断をされる傾向がありました。そこで昨年、新しい製品「KODAK SONORA XTRA」を上市しました。オフ輪では従来品の1.3倍、UV枚葉オフセット印刷では従来品の1.5倍となる耐刷性があることから、ロングラン印刷やパッケージ印刷でも受け入れていただける製品となっております。この新製品のご提案をとおして、無処理版の普及・拡大がさらに加速すると思っております。3年後に「KODAK SONORAプロセスフリープレート」の出荷割合を80%にするという目標を立てているのですが、それよりも早く達成できる感触も得られています。

 

--10年前のdrupa2012での「KODAK SONORAプロセスフリープレート」の発表、そして2015年からは日本で販売開始し、機上現像の無処理版のパイオニアとしてメリットを啓蒙して普及を広げてきた活動が、出荷量の過半数を占めるという形で結実しました。この普及の経過において、環境負荷軽減に寄与したインパクトは計り知れないものがあると思われます。

小泉 「KODAK SONORAプロセスフリープレート」の誕生から10年目に発表した新しい製品「KODAK SONORA XTRA」は、繰り返しとなりますが、これまでの無処理版の弱みとされていた点をほぼ解消したものとなっており、オフセット印刷用プレートの無処理化をさらに進めていく大きな布石にしたいと考えています。また、この「KODAK SONORA XTRA」は、従来の無処理版と比べて感度が上がっていますので、CTPで露光する際のレーザー出力を下げることができます。現在、電気代の高騰が印刷会社様において大きな負担となっています。プレートを改善したことで電力量を抑えた低エネルギー化という面でも印刷業界に貢献できることを嬉しく思います。

 

--間もなく開催されるpage2023での見どころについてお聞かせ下さい。

小泉 「KODAK SONORAプロセスフリープレート」については、そのブランドが市場でかなり認知されてきたと感じています。そこで今回のpage2023では、ワークフロー製品にもフォーカスして出展します。昨秋に「KODAK PRINERGYワークフロー」の新バージョンを上市しており、そのほかにも今年のしかるべきタイミングで新しいソフト製品を発売しますので、それらを紹介します。「KODAK PRINERGYワークフロー」に搭載されている自動化機能のRBA(Rules Based Automation)は、印刷業界のDX化・省力化という面で貢献するシステムとなります。我々はユーザー様のワークフロー分析からRBAの設計までをトータルにサポートしながら、デジタル印刷とオフセット印刷を適切に組み合わせた形となる、経営効率を向上していただけるような提案をしていきたいと思っています。

河原 昨年に開催されたIGAS2022で、第4世代Ultrastreamヘッドを搭載してオフセット印刷に匹敵する品質と生産性を低ランニングコストで実現するインクジェット印刷機「KODAK PROSPER ULTRA520プレス」を、日本で初めて紹介しました。「KODAK PROSPER ULTRA520プレス」は、600×1800dpiの解像度で毎分150㍍のスピードで印刷できる用紙幅520㍉のインクジェット印刷機です。それで印刷したロール紙を持ち込み、ブースでシートカットして来場者のみなさまにサンプルを配布しました。みなさまからは、インクジェット印刷でもオフセット印刷にかなり迫る品質だと評価していただき、我々としても大きな自信が得られました。今回のpage2023でも引き続き、その訴求をしてまいります。

河原本部長

河原本部長

「KODAK PROSPER ULTRA520プレス」は、枚葉オフセット印刷機と同レベルの印刷速度と印刷品質をもって、かつバリアブル印刷もできるものとなります。また、オフセット印刷をする上で必須となるプレートは、主原料となるアルミニウムの価格高騰が続いています。他産業も含めた世界的なアルミニウム需要はますます旺盛になっていくことが予測されることから、不足傾向にあるアルミニウムを原料とするプレートを使ったオフセット印刷について、将来的な代替手段として視野に入れていただくべく、ハイボリュームと高品質に対応するデジタル印刷機の有用性を提案します。

さらにデジタル印刷機の稼働率を高めるには、ジョブを集めることが重要となります。たとえばアメリカでは、フォトブック制作は実は数社の会社に集約されています。実際に顧客からWebなどで受注をしている各印刷会社は、制作についてはそれらの会社に発注をしているのです。その結果、制作側の会社ではデジタル印刷機の稼働率が高まるとともにそのノウハウが蓄積され、また受注をしている印刷会社側ではデジタル印刷機への設備投資をしなくてもその能力を背景とした営業品目や受注機会の拡大を図ることができています。

そのような提案として、「KODAK PROSPER6000Cプレス」を導入していただいている㈱KDC様とタイアップし、Web上で誰でも簡単にバリアブルDMが制作できる受発注システム「OCL(オクル)」を紹介します。KDC様では、この「OCL」を全国の印刷会社様にOEM提供することを予定しており、それによりダイレクトメール制作のノウハウがない印刷会社でも受注できるようになります。そこで受注したジョブはKDC様の「KODAK PROSPER6000Cプレス」で行うことで、デジタル印刷機への設備投資をしなくてもそのメリットが享受できるという提案をいたします。

 

--今年の貴社のビジネスにおける目標、そして印刷業界へのメッセージをお願いします。

小泉 まず大前提となるのは、プレートの主原料となるアルミニウムの確保です。既ユーザー様への供給体制を崩さないようにした上で、「KODAK SONORAプロセスフリープレート」を新規の印刷会社様へ提案してまいります。

また、米国・コダック本社のジム・コンティネンザCEOは、「Future is digital print」という方向性を示しています。我々はオフセット印刷をする上で欠かすことのできないプレートやCTPなどを提供してきていますが、将来的には印刷業界にとってデジタル印刷・インクジェット印刷がなくてはならないものになっていくとみています。その中で、デジタル印刷をバランス良く、みなさまが採り入れてもらえるように活動していきます。これまでは、デジタル印刷とオフセット印刷の間には、印刷会社様にとっても印刷発注者にとっても少なからず垣根がありましたが、これからは双方を最適に組み合わせて共存していく流れになると思います。

河原 デジタル印刷の品質が向上したことで、印刷発注者側がデジタル印刷の品質に抱いていた偏見がなくなってきていると感じられます。ハイエンドな印刷物もオフセット印刷とまったく同じようにデジタル印刷で行うということではなく、デジタル印刷とオフセット印刷をいかにして効率良く組み合わせるか、その共存方法を各印刷会社様で模索する段階になってきています。当社では、出力先をCTPかデジタル印刷機かを指定するだけで、あとは自動的に処理ができるハイブリッドワークフロー、真の意味で両印刷方式を並列で使いこなせる生産環境もご提供しています。

小泉 印刷会社様の経営的観点では、現在は人材確保が難しくなっております。とくに印刷現場の熟練技巧を持った人はなかなか採用できませんし、育成をしていくにも相当な時間がかかります。その点でデジタル印刷は、そこまで高度さや熟練さを要さずに操作ができたり品質の安定再現ができますので、経営判断をする上で多角的なメリットを有した選択肢となります。そのようないち早くデジタル印刷を経営に採り込み、事業の刷新に取り組む印刷会社様を、デジタル印刷/オフセット印刷の双方のエキスパートである我々が、パートナーシップを組んで全力でサポート・貢献してまいります。

 

日本印刷新聞 2023年1月30日付掲載

取材・文 小原安貴、Interview・Article Writing Yasutaka Obara

 

 

 

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