昨年は、日本アグフア・ゲバルト㈱(本社・東京都品川区)にとって激動の年となった。
不安定な世界情勢の影響から、主力製品であるオフセット印刷用プレートの原料となるアルミニウムが世界的に不足したため、製品の生産量拡大ができないことから新規拡販活動を抑制。
また、主力事業部門であるオフセット印刷事業がアグフア・ゲバルト社から分離・独立して、今春からは新たなブランドとしてスタートを切ることが発表された。
2023年は、世界的なアルミニウム不足が解消される見通しが立つとともに新ブランドも始動し、反攻に踏み出す年となる。
そこで同社の岡本勝弘社長に、昨年の活動の振り返りと今年の展望、さらには新たな事業体制の詳細などについて話を聞いた。
--昨年8月、アグフア・ゲバルトグループがオフセット・ソリューションズ事業をドイツの投資グループ・AURELIUS(アウレリウス)に譲渡するという発表がありました。その経緯や詳細、今後の予定、そして日本市場およびユーザーへの影響についてお聞かせ下さい。
岡本 アグフア・ゲバルト社には主に、▽オフセット印刷用のプレートやプリプレス工程のソフトウェアなどを提供するオフセット印刷事業、▽大判インクジェットプリンターの提供やUVインクの製造・開発などを行うインクジェット事業、▽X線撮影システムや電子カルテなどのヘルスケア事業--があります。
このたびの発表は、そのうちのオフセット印刷事業部門について、本社の経営陣から研究部門、製造工場、従業員なども含めたすべてが、アウレリウスグループに移るということになります。すなわち、オフセット印刷用プレートやCTP、プリプレスワークフローシステムや各種ソフトなどを取り扱うオフセット印刷事業部門が、インクジェット事業・ヘルスケア事業を展開するアグフア・ゲバルト社とは別の会社として運営されます。
ほかの会社と合併などをするケースですと、いろいろと経営や営業の体制、人員などに変化があったり、痛みがともなうこともあるのでしょうが、今回は事業譲渡ですのでオフセット印刷事業部門の社長を含めた全員がそのままアウレリウスグループに移ることになります。この事業譲渡は法的な手続きなどを経て、今年の春頃に完了する予定です。その段階で、オフセット印刷事業部門は新たなブランドを掲げてスタートします。
日本法人である当社、日本アグフア・ゲバルトにつきましても、オフセット印刷事業部門の一員として、今春に新たなブランドをもってスタートを切ります。大判インクジェットプリンターやUVインクの販売、さらにはそのアフターサービスなども引き続きこれまでと同じように行ってまいります。したがいまして日本のお客さまに対しましては、これまでと変わらぬ体制とスタッフで、みなさまの事業のサポートや提案などをさせていただきます。
--アウレリウスグループがアグフア・ゲバルトのオフセット・ソリューションズ事業を取得した狙いはどのような点にあったのでしょうか?
岡本 アウレリウスグループでは、世界的な印刷市場の縮小に対し、コロナ経済からの市場回復をはじめ、オフセット印刷ビジネス成長エリアにおけるプレートビジネスの伸びに魅力があると見ており、ポストパンデミックにおけるプリプレス市場の成長を取り込み、印刷業界の再編をリードしていく考えを示しています。投資意欲も旺盛で、最近ではフィンランドの大手製紙メーカーを買収するなど、印刷関連企業を傘下に収めていることからその相乗効果も期待できます。
--それでは、昨年を振り返り、貴社にとってどのような年でしたか?
岡本 2022年も1月からまん延防止等重点措置が実施されるなど、引き続き新型コロナウイルス感染症によって振り回される年となりました。またさらに2月には、ロシアのウクライナ侵攻により、コロナ禍以上に社会情勢および世界情勢が大きく揺るがされる事態となりました。
これらを要因とする影響は印刷業界にも例外なく波及し、いろいろな原材料費の高騰や物流面での問題などが発生しました。当社においては、オフセット印刷用プレートを製造する上で欠かすことができない原料であるアルミニウムの価格高騰が深刻な問題となりました。当社に限らずどのプレートメーカーも同じように悩んでいることと思いますが、アルミニウムの価格が歴史的に類を見ないレベルで高騰しており、かつ世界的なアルミニウム不足にも陥っています。
アルミニウムはその精錬過程で大量の電力を要するため、全コストの中で電気代の割合がとても高くなります。そのためエネルギー価格が著しく高騰しているエリアでは、アルミニウムの精錬メーカーが減産調整や生産停止をしていることやロシアからのアルミ供給課題など複合的な理由によって世界的なアルミニウム不足に陥りました。当社の主力製品であるオフセット印刷用プレートを製造する上でアルミニウムは欠かすことができませんので、とても大きな影響を受けました。
当社では2021年から、高い耐刷力とUV印刷適性を備えたガム洗浄方式の「アダマス(Adamas)」と絵柄がはっきり見える視認性を実現した機上現像方式の「エクリプス(Eclipse)」という2つの新しい現像レスCTPプレートの販売を始め、2022年はその普及・販売を加速させようとしていました。その矢先に、アルミニウム不足に起因してプレートの供給制限をせざるを得ない状況となってしまいました。販売促進をする前に、既存ユーザー様への供給が滞らないようにすることが重要です。見学会をはじめとした各種イベントの開催など、営業拡大に向けた事業戦略をプランしていたのですが、それを抑制したのが昨年でした。
しかし、ようやく秋頃からはアルミニウム不足が解消されつつあるので、当社でも供給制限は打ち切って新規営業活動を再開しました。「アダマス」と「エクリプス」の出荷割合はおおよそ半々となっており、既ユーザー様が「アズーラ」や「エナジー・エリート」から変更されたケースも、そして他社製プレートから変更されるケースも多くございます。
--プレート以外の分野はいかがでしたか?
岡本 ワークフロー製品につきましては、初期投資を抑えられて月額制の中でつねに最新バージョンの利用が可能となるサブスクリプションモデルを2020年に発表して以来その採用が進んでおり、当社の売上割合もサブスクリプションモデルが増えてきています。また、クラウドワークフローにつきましても、継続して引き合いが増えてきています。その背景としましては、サーバー運用の電気代が高騰していることに加えて、こちらも世界的な問題となっている半導体不足によるPCサーバーの入荷遅れもあるようです。どちらもクラウドワークフローを利用すれば解決できる問題です。
インクジェット部門につきましては継続的に好調で、新規導入・既存機の入れ替え・既ユーザーでの増設と、あらゆる形でご採用いただいています。印刷アプリケーションも、商業印刷、パッケージ印刷、サインディスプレイと、製品レンジの幅広さもあることから多岐にわたっています。
--今春からは新たなブランドでスタートを切るということですが、そんな今年の展望と期待についてお聞かせ下さい。
岡本 新しいブランドの発表は早くても春頃になる予定で、その立ち上がりにともなって新製品・新サービスを展開してまいります。
ただし当社の基本路線として、オフセット印刷用プレートのビジネスをしっかりとやっていくという思いは変わりません。2022年は新規のご提案を抑制・我慢せざるを得なかった「アダマス」と「エクリプス」の現像レスCTPプレートの2製品については、とても手応えを感じているので、力を入れて販促していきたいと考えています。
機上現像方式の「エクリプス」は、印刷適性の高さや刷り出しの早さに高評価をいただいております。ガム洗浄方式の「アダマス」は、商業印刷分野からパッケージ印刷分野まで幅広いお客様からの引き合いが目立っております。プレート自体がアルカリ現像を使用しない環境対応であること、そして耐刷力やUV印刷性能が向上したことによって多くの引き合いをいただいており、今後の販売に手応えを感じています。昨今の印刷業界におけるケミカルレス化・環境対応ニーズは今後も加速していくと考えており、業界の環境対応に弊社も力をいれていきたいと思っています。また、CTPプレートを1200枚パレットで搭載可能であり長時間無人運転を実現する「エキスパート・ローダー」やCTPから出力された現像レスプレートの自動版曲げや印刷機ごとの自動振り分けまで含めたトータルなオートメーションシステムについても力を入れてご提案していきたいと考えています。
当社の社名やブランドがどのようになれども、ユーザー様の現場におけるコスト削減や環境対応を強力にサポートしていきたいという我々のスタンスは不変です。そこでまず、東京・池袋で2月に開催されますpage2023への出展でも、プリプレスは単なる製造工程の一部ではなく、そこから経営改革をすることができることを示す、さまざまな発表をしてまいります。エネルギー価格をはじめとしたコストが高騰する中でも印刷会社様が利益を出していくためには、コストを抑えることが大事になります。それにつながるような提案、たとえば速乾印刷の実践や、クラウドワークフローによる電気代削減なども提案していきたいと考えています。
また、今回の事業譲渡にあたり、全世界的にオフセット事業において150年以上の歴史を誇る「アグフア」というブランドはなくなることになります(製品名は変更なし)。この事業譲渡契約は2023年第1四半期に完了する予定で、今後、早くて春頃には新たな会社名、ブランドが発表される予定です。
なお、インクジェット事業は引き続き「アグフア」ブランドとなりますが、日本では我々の新ブランド会社が取り扱いを当面継続します。
日本印刷新聞 2023年1月1日付掲載
【取材・文 小原安貴、Interview・Article Writing Yasutaka Obara】