2023年01月24日

出荷額や収益性の低下、人材確保の難しさをはじめとした諸課題に対応するために、各印刷会社では自動化、効率化そしてデジタルトランスフォーメーションによる変革を遂げることが鍵となっている。

その中でハイデルベルグ・ジャパン㈱(本社・東京都品川区)では、印刷会社の全部門・全工程にわたったエンドtoエンドなデジタル化策について提案・推進をしてきた。

業界をリードするその姿勢や方策、そして同社の今年の展望についてヨルグ・バウアー社長に話を聞いた。

 

 

--昨年を振り返って、印刷業界を取り巻く市場環境についてどのように感じていますか?

バウアー社長

バウアー社長

バウアー まず全体的には、昨年は一昨年とあまり変わらなかったのではないかと思っています。ハイデルベルグでは世界中で稼働している機器の生産データから、IoTを駆使して市場全体の規模感について掴むことができますが、世界的には印刷生産量が一昨年よりも少し改善していることがわかっています。ただ、市場規模をきちんと判断するには公式な統計を待つ必要があります。

そのような中、現在の日本の印刷会社にとって最大の課題となっているのは、受注量の確保と紙や材料などの価格高騰ではないでしょうか。そのような課題を抱える中でも業績を残している印刷会社様では、ただ印刷物を売るのではなく、マーケティング・キャンペーンでより良い結果を出すための提案などをして、積極的に印刷物発注者にアプローチするようになっていると感じています。

また違う側面では、印刷機1台あたりの生産性が低くなっている一因として、印刷機の設置台数が多過ぎるということに気付いて、より少ない印刷機の台数でこれまでと同じ生産性を上げようとしている印刷会社様もいらっしゃいます。ただ、こうした印刷会社様の中には、働き方改革への決断と実行に苦心していらっしゃるケースも見受けられます。そのようなケースでは、マネジメントの方法を思い切って変えるという、強いリーダーシップが必要です。古い設備を新しいものへ変えても、働き方(DX)を変えなければ印刷物1枚あたりのコストが上がるだけだからです。

 

--昨年の貴社の業績はいかがでしたか?また、IGAS2022出展の手応えについてお聞かせ下さい。

バウアー 2022年3月期は売上高が過去最低となりましたが、デジタル化による社内でのコスト削減努力により、なんとか黒字を維持することができました。以前から進めてきたDXの効果もこれに貢献しています。

2023年3月期は、新しいソリューションとPush to Stopテクノロジーのさらなる進化があり、そして働き方改革を実行しようとする印刷会社様が積極的にこれらのソリューションを最大限に活用しようとする動きがあることから、コロナ禍直前となる2019年度レベルの良好な売上水準へとふたたび戻りつつあります。

IGAS2022では「H+」を中心に出展し、ドイツ本社の製品担当者からのメッセージを日本のみなさまへ直接お伝えするとともに、弊社の東京ショールームと中継したプレゼンテーションを行い、さらに体験コーナーなども設けました。そこでのプレゼンテーションは小さなブースだったにも関わらず、期間中に合計963人もの人にご覧いただきました。そのみなさまからは、新しい展示の仕方、そして私たちが進めようとしているDXについて強い関心を寄せていただきました。

 

--昨年10月、ドイツ本社で開催されたパッケージ印刷向けのオープンハウスで、「スピードマスターXL106」に毎時2万1000回転で厚紙印刷ができるオプションが発表されました。パッケージ印刷向けということですが、これが商業印刷用として展開される予定はあるのでしょうか?

バウアー 毎時2万1000回転という世界最速機は、すでにパイロットユーザーとしてオーストリアのパッケージ印刷会社で稼働しており、大ロットの仕事が多いパッケージ印刷用途でその威力を発揮しています。まだ正式な発表ではないのですが、商業印刷用途でもさらなる生産性向上に寄与する進化をご提供することについては間違いありません。

 

--印刷機のサブスクリプション契約の件数が国内でも増えてきました。この契約は5年ごとの契約更新で、その更新時に印刷機も新しいものに更新されます。すると、使用年数が短い中古機が市場に出ることになります。

バウアー このような使用年数が短くてかつメンテナンスが細部まで行き届いた、とても良質な中古機の市場というものが間違いなく存在します。そのような印刷機については、要求水準が高い日本の国内市場で販売することが可能だと思います。

 

--日本の印刷関連業界へのメッセージをお願いします。

バウアー 2023年、世界はさらに加速度的に変化し、印刷業界も根本的な変化をしていく局面に迫られるでしょう。このことは、私たちソリューションプロバイダーがそうであるように、みなさんの会社と顧客との関係にもあてはまると思います。印刷はパッケージングだけでなく、出版やマーケティングコミュニケーションにおいても重要な位置を占めており、印刷会社様は顧客(印刷物発注者)やマーケティング会社にその利点を認識してもらう必要があります。

変化しない企業は、若い人材、新しい人材、情熱的な新しいリーダーになり得る人材を集めるのに苦労していると思います。外から変化させられるよりも、自らによって中から変化させた方がいいに決まっています。ソクラテスの言葉に「変化の秘訣は、古いものと戦うことではなく、新しいものを構築することに全エネルギーを集中することである」というものがあります。「それは難しいから」だとか「そんなことはできない」などと言い訳をして現状維持のための戦いをするのではなく、新しい目的を設定し、道を作り、適切な人材を投入し、新しいものを構築していこうではありませんか。

 

日本印刷新聞 2023年1月16日付掲載

取材・文 小原安貴、Interview・Article Writing Yasutaka Obara

 

 

 

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