自動販売機のダミー缶や透明原反を使ったクリアパッケージ、電飾看板をはじめとした特殊で高級な印刷物の製作を強みとしている㈱大成(本社・東京都新宿区新宿2の9の22、大野敏社長)は、その分野で市場から確固たる評価を得ている。パッケージ製作においては、売り場で並ぶこととなる競合製品と差別化するため、デザインや製造面で先端的かつ多様化するニーズが寄せられ続ける。そのような日々刻々と進化していくニーズ、そして今後に寄せられるであろう現在にはないさらなる高度なニーズを製品・印刷物として具現化するため、2020年2月に新たな印刷機を導入した。それが、Koenig&Bauer社製の菊全判印刷機「Rapida106-8+LT+1+L SPC ALV2」だ。同社の次なる一手が、8色オフセット印刷+ニスコーター+UV乾燥ユニット+1色オフセット印刷+ニスコーターという構成の12ユニットからなる、この特殊カスタマイズ機から始まっている。
パッケージ印刷を主とした営業展開をする同社は、競合企業との差別化や先進的なニーズに応えるために、これまでにはなかった印刷技術の開発も行ってきた高付加価値創造企業だ。パッケージ製品の印刷・生産のみならず、企画・設計・デザインからアッセンブリーまでを総合的に担う。そんな同社では現在、菊全判の8色UVコーター付印刷機、A倍判の6色UV印刷機、コールドフォイル加工もしくはホログラム加工がワンパスでできるインラインフォイラー搭載の菊全判8色UV印刷機、そしてこの「Rapida106-8+LT+1+L SPC ALV2」の計4台の枚葉オフセット印刷機が稼働している。
そのうちの1台となるインラインフォイラー搭載の菊全判8色UV印刷機は、幅広い表現技巧や高付加価値を創造して目覚ましい活躍をしている。これもKoenig&Bauer社製の「Rapida106」で、2013年3月に導入したものだ。この印刷機を導入したことで、透明原反にインラインで微細な表現の箔を打つ技術、また箔の上に印刷・グラデーションを施す技術、さらにはインラインでホログラム加工ができる技術を獲得し、デザイン表現の可能性を格段に広げた。
「化粧品をはじめとした高級パッケージ用途でコールドフォイル加工はかなり多くの実績を積み、当社の高級印刷・高付加価値創出というブランドイメージ構築にも貢献してくれている。この“Rapida106”は、日本で初めて導入されたKoenig&Bauer社製の印刷機で、もう稼働開始から10年が経とうとしている。当社は24時間体制で稼働しているのでかなり厳しい使用条件なはずなのだが、爪台の交換・調整などもしていないにも関わらず、抜群な見当精度の高さや印刷速度などに落ち込みはいまだに見られない。そのタフさは導入当初の説明に違わぬもので、期待を超える投資効果が充分に得られている」と同社の田沢純工場長代理は語る。その高いパフォーマンスを踏まえ、同社にとって2台目となる付加価値創造機にもKoenig&Bauer社製の印刷機を選択した。
厚盛りニスの立体感で触覚にも訴える
その「Rapida106-8+LT+1+L SPC ALV2」を導入したもっとも大きな狙いは、高級パッケージにおいてよく活用される立体的なニスの厚盛り加工において、Wコーターを活用することで脱シルクスクリーン印刷化を図るためだ。
「店舗への来店者・消費者に製品を手に取ってもらうことの第1歩となるのが、視線を惹きつける印刷物(=パッケージ製品)を作ることとなる。そのための手法の1つがニスの厚盛りになるが、それをオフラインのシルクスクリーン印刷で施すのではなくワンパスでやればコストダウン提案につながる。また、ニスの厚盛り加工だけにとどまらず、コーターユニットで金・銀の加飾、さらにはインラインフォイラー搭載機も使った2パスによるコールドフォイルと組み合わせたりして、より人目を惹く、より付加価値のあるパッケージを製作することもでき、営業提案力強化にもなる」と同社の行木義太郎取締役製造本部長は導入の意図を表す。
一般的に、自社内で生産対応しきれない案件の受注を営業スタッフはためらいがちになるが、同社の場合はあらゆる複雑な仕様でも対応できる環境が整っていることから、営業スタッフもそれを強みとして積極的に受注してくる。このような製造対応力・印刷表現力が、同社の営業提案力の裏打ちとなっているのだ。
先進自動化機能と洗練された操作性で
性別・体力・年齢を問わず活躍が可能に
10年前に導入した「Rapida106」を導入した際、ジョブ替え時の版交換や各種洗浄の同時並行作業機能、フィーダーの前当て部で横針を使わない機構「ドライブトロニックSIS」による高速安定給紙、紙厚変更があっても一切調整が不要な点、そして迅速な見当および色調整などにより、ジョブ替え時間の驚異的な圧縮が図られた。この「Rapida106-8+LT+1+L SPC ALV2」は、その「Rapida106」と比べ、その能力がさらに洗練されているという。そこで同社では、「Rapida106-8+LT+1+L SPC ALV2」の印刷オペレーターの1人に、入社から約半年の新人女性を登用している。
「印刷はおろか製造業に就いたのが初めてで、最初は印刷のルールもわからなかったが、デザインが好きだったこともあって印刷オペレーターの仕事に挑戦してみた。今は、生産機械設備を扱っているというよりはアプリケーションソフトのような感覚でやれている」と同社印刷課の荻原氏は語る。
また、このような人員配置をしたことについて行木取締役は、「紙積みに関しては筋力がないので男性スタッフがサポートするようにしているが、それ以外の作業については女性であるがゆえにできないことや不都合な点はない。アニロックスローラーの交換についても、コーターユニット内に線数が異なる3本のローラーを格納でき、ボタン操作1つでその交換ができる。そのほかにも、この印刷機に搭載されている各種自動化機能がサポートしてくれることもあるため、オペレーターは色や品質の管理に注力できるので、仕事を覚える意志さえあれば性別の差や体力の有無、年齢などに関わらず活躍してもらえると思う」と語っている。
営業提案力向上にも製品の差別化にも
新たな高級表現で次代の市場を切り拓く
これだけの多ユニット構成な印刷機だが、その仕事内容はまだ全胴をフルに活用するものばかりではないという。そこで同社では、この印刷機の能力を存分に発揮できるような、同社ならではの印刷表現技巧や新たなアプリケーションの開発を進めていく方針だ。脱プラスチックという世界的な潮流は同社の受注状況にも変化を与えており、以前はプラスチック原反を使う仕事が7割程を占めていたが現在は5割程になっているという。
「ブランドイメージが確立された高級化粧品などでは、製品の姿が見える透明原反のパッケージではなくても手に取ってもらえるので、紙のパッケージを選択する傾向がある。そのような時流も踏まえ、この“Rapida106-8+LT+1+L SPC ALV2”をベースにして、次代の高付加価値となるような高級な印刷表現を開発・創造し、当社の営業提案力向上とお客様の製品の差別化につなげていく。この印刷機の能力をフルに活用できるような製品を開発することによって、今よりもさらに付加価値がある印刷物を生産でき、当社の業績向上にも寄与でき、そしてパッケージ市場にまだ見ぬインパクトを与えることもできると確信している」(行木取締役)
月刊 印刷界 2022年11月号掲載
【取材・文 小原安貴、Interview・Article Writing Yasutaka Obara】