2022年10月03日

印刷速度もジョブ替え時間も印刷品質も変わらずに印刷面積が2倍になると、実生産性は当然2倍になる。半裁の印刷機と全判の印刷機の比較をするとイメージしやすいだろう。この計算式は、半裁機と全判機だけでなく、全判機と倍判機でも同様に成り立つ。国内最大のシェアを持つコミックスをはじめとしてあらゆる分野の書籍・出版印刷におけるトップランナーである図書印刷㈱(本社・東京都北区、川田和照社長)では2019年1月、小ロットへの対応力を備えながらこれまでを凌駕する生産力を求めて、Koenig&Bauer社製の菊倍判両面兼用8色印刷機「Rapida145」を導入した。この「Rapida145」は、『倍判で表裏4色のLED-UV印刷』ができる世界初の印刷機でもある。他に類を見ないこの印刷機が、同社の生産効率と顧客提案力の強化に大きく寄与している。

 

高度な自動化と幅広い紙厚への対応力

倍判でもジョブ替え時間の短さは同じ

 

同社では国内トップシェアを持つコミックスのほか、書籍、雑誌、学習参考書、図鑑、絵本といった各分野の出版物に加えて、書籍の付き物までを印刷・製造するため、さまざまな紙厚や色数、判サイズに対応する枚葉オフセット印刷機およびオフ輪を数多く取り揃えている。

出版市場では、その昔は数十万部といった大ロットの仕事が多くあったが、今は1000部程度の仕事も増え、短納期化・小ロット化の波は大きくなるばかりだ。そこで同社ではこのような高度な要求に対応するため、超高速での安定稼働、迅速なジョブ替え、LED-UVによる即乾ができる枚葉オフセット印刷機を2015年に導入した。その印刷機はKoenig&Bauer社製の菊全判印刷機「Rapida106」(LED-UV4色機とLED-UV5色機の2台を同時に導入)だ。この2台の「Rapida106」は稼働を開始すると、すぐに期待以上のパフォーマンスを展開。ほとんどの仕事で機械最高速の毎時1万8000回転で稼働し、フィーダーに引き針がない独自機構に起因する高い用紙搬送性によってチョコ停が起こらないため実生産時間が長く取れて、またサーボモーターで各印刷ユニットを独立して直接駆動させることで刷版交換と同時に各種洗浄作業もできる「ドライブトロニックSPC」やインラインで自動色合わせや色調自動補正する機能「クオリトロニックカラーコントロール」によってジョブ替え時間が従来の半分以下になった。これらのメリットの相乗効果により、従来機と比較して飛躍的な実生産性を記録し続けている。その実績も踏まえ、さらにいっそうの飛躍を目指して新規導入したのが、菊倍判両面兼用LED-UV8色印刷機「Rapida145」だ。

 

大内取締役

大内取締役

この「Rapida145」は、同社にとって5台目となるKoenig&Bauer社製の印刷機となる。「当社は、一般的なものだけでなく、どのような特殊な製本形態でも生産することができる後加工機器をラインナップしている。したがって、印刷機もそれに見合った能力を備えたものを設備する必要がある。Koenig&Bauer社製の印刷機は、すでに当社内で実績を示している実生産性の高さはもちろんのこと、対応できる紙厚のレンジが広いことも大きなメリットとなる。書籍にまつわる印刷では紙の種類・厚さのバリエーションが多岐にわたるので、厚紙でも薄紙でも印刷できて生産現場の柔軟性が高まる。また、印刷機は1回止めると復元コストが大きくかかり、それが倍判機だとなおさらなので、できるだけ稼働させ続けたい。その点でも、1台でいろいろな仕事ができることは大きな意味を持つ」と同社で取締役生産統括本部長を務める大内哲夫氏は「Rapida」を選択し続ける理由のひとつを語る。

 

超高速機に対応するための準備は必須

ロール紙の使用は労力削減や環境配慮に

 

「Rapida145」の導入を決めた時に同社で大判印刷機は稼働していなかったが、以前に倍判機が稼働していたことがあるので、そのサイズに対応する断裁機はすでに設備していた。しかし「Rapida145」をうまく運用していくには、それよりも大事な要素があったという。「仮に倍判用の周辺機器を新たに導入しなければならなかったとしてもそれほど大きな額にはならないので、倍判機の生産性の高さによってすぐに採算は取れると思う。この“Rapida145”は、菊全判機の“Rapida106”と同じ自動化機能を搭載しているので、ジョブ替えもわずか数分でできてしまう。なので、操作についてはなにも問題ないのだが、オペレーターが印刷機のスピードや能力に合わせて作業することが大変になる。作業を円滑にこなしていくためには、効率的な手法を用意し、それに則った作業ルールを作り、全体への標準教育が必要だった。印刷機の能力・生産性があまりにも高いので、材料や印刷前後の用紙・パレットの物流などの仕組みとルールを整えることが重要となる。また、印刷機のジョブ替えが早くできてしまうことでオペレーターに焦りが生まれるので、装着すべき刷版を間違えるケースが出てしまう。そこで、すべての刷版の余白部にジョブ情報が入ったマトリックスコードを印字し、刷版を印刷機にセットするとそのコードをカメラで読み込んで正誤を判断する仕組みも搭載している」(大内取締役)

 

さらに同社では、「Rapida145」を運用するにあたって、ロール紙をシートカットして給紙するロールtoシートフィーダーを採用している。「通常、枚葉紙は一定枚数ごとにワンプで包まれて納入されることが多い。それを全部開梱する作業や積む作業はとても大変だが、ロール紙にすることで印刷現場の負担がとても軽くなる。また、枚葉紙を包装するワンプは年間を通すとかなりの量になるので、それを廃棄せずに済むことは環境面やSDGsへの貢献という点でもメリットになる」と大内取締役はその効果を評している。

 

CMSと色合わせの自動化により

印刷立ち会いの時間も大幅に短縮

 

Rapida145

Rapida145

大判印刷機は大ロットで使うものというイメージがあるが、同社では「Rapida145」のジョブ替えの早さを活かし、小ロットの仕事でフル活用している。小ロット化が進むと刷版の枚数が増えるが、刷版生産はCTPでデータ演算して出力をするので枚数が増えても人手を増やす必要がないため、刷版部門の人件費が増えることはない。大内取締役はこのことについて、「印刷機の能力の高さによって印刷部門の利益率が向上するのは当然のことだが、プリプレス部門に及ぼす好影響については意外と勘案されていないと思う。高効率な印刷機に投資した結果としてジョブ数(=刷版の出力数)が増えても人件費は変わらないので、プリプレス部門の収益性が大きく変わる」という分析を示した。また、顧客サービスという点でも「Rapida145」の能力は発揮されているという。「印刷立ち会いに訪れたお客様から、OKシートが出た時に“もうできあがったの?”と言って頂くことがとても多くなった。印刷機の基本性能であるインキの着肉性が良いことに加えて、刷版に入れているマトリックスコード(=ジョブ情報)で準備時間が削減でき、印刷機内のカメラで全印刷物のカラーバー測定をすることで瞬時にカラーコントロールができる点、さらにLED-UV印刷なのでドライダウンの影響が少ないことなどが相まって、色に関する信頼度が高まるとともに立ち会い時間も短縮化している」(大内取締役)

 

小回りが利いて実生産性にすぐれ

菊全判機2台分よりも高い収益性に

 

同社で7年前から稼働している2台の「Rapida106」についても、今なお性能が落ちる気配はなく、どちらの機械とも早くも累計印刷枚数が3億枚を優に超えている。「どのような機械であっても年月が経てば性能劣化をするが、できるだけ長期にわたって高いパフォーマンスを求めたい。投資効率が高い設備投資をするには、初期投資額だけでなく稼働期間全体での保全コストも見据えて選択することが大事になる。当社で最初に導入した“Rapida106”は、機械重量が従来機のそれをはるかに上回っていたため、設置時に床面の耐荷重を補強しなければならなかった。印刷機自体の重量は高速印刷時の品質安定性、そして高いパフォーマンスの維持に直結する。だからこそ、Koenig&Bauer社製の印刷機を、“Rapida145”を含めて短期間で5台導入した」(大内取締役)

 

その「Rapida145」はワンパスで両面カラー印刷ができてしかも即乾することから、インキ乾燥や裏面印刷を待たずに次工程へ回せるので中間製品のストックスペースも不要となり、かつ中間製品を運ぶ労力や人も不要となる。そして、菊全判8色印刷機を2台備えるよりも、印刷オペレーターの人数、機械設置スペース、光熱費やエネルギー消費量、損紙や材料費なども少なくて済む。「これほどの高い生産性を持つ倍判機を導入したことにより、工場運営について考え直すいい機会となった。同じ生産量であっても使用する工場容積を小さくできるので、そのスペースをほかの付加価値を生むような用途で活用することができる」と大内取締役は語る。また続けて、大判ながら小回りが利いて、かつあらゆる分野に適応する万能性があることから「今は出版印刷のみを行っているが、もし仮に大判印刷やパッケージ印刷などへ事業の幅を拡大展開することになったとしても、“Rapida145の多様性をもってすれば活用できるだろう」とその潜在的な可能性も表した。

 

月刊 印刷界 2022年10月号掲載

【取材・文 小原安貴、Interview・Article Writing Yasutaka Obara】

 

 

 

 

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