2022年09月01日

 夏になると公営プールの脇におでんの屋台が出た。そこでおでんを買うか、プールのそばの肉屋で揚げたてのうすいコロッケをたべるのが夏休みの楽しみだった。2、3時間泳いで冷えた身体は、かき氷より、熱いもののほうを望んでいるようだった。屋台を引いていたおじさんは、冬になると石やきいもを売っていた。商店街のお姐さんたちに人気があった。やきいもは、新聞紙にくるんでわたされた。紙代を節約するために古新聞をつかっているものだとばかりおもっていたが、必ずしもコストの問題だけではないことを最近、教わった。

 ご承知のとおり、新聞用紙は通常、グラウンドパルプとリサイクルペーパーを原材料としている。グラウンドパルプは、回転する砥石に木材を押しつけ、ダイコン卸しのようにすりつぶしてつくる。砕木パルプの代表的なものだ。化学的な処理で素材を傷めていないため、熱伝導率が非常に低いという特徴がある。だから、あつあつのやきいもを包むのにつごうがよいのだという。たんなる廃物利用ではない、パッケージとしての合理的な理由があるとのことだった。たいやき屋でも新聞紙でつくった袋をつかっていた。古新聞はすぐれたパッケージだった。

 昭和の時代のことだ。いまなら軽トラで移動、SNSで居場所を告知しながら販売といったところだろうか。

 本に付箋がわりに紙片を挟んでおいたら、その紙が褪色していた。本文の用紙までその紙片のカタチに変色して跡がついてしまった。ふだんつかっている糊つきの廉価な付箋紙だと、糊の劣化で本文が汚れてしまわないか、気をつけて用いるが、何気なく挟んでおいた紙片のせいで、本紙が変色していて落胆した。質感、風合い、色の再現性、耐久性、さまざまな角度から素材を吟味してつくられた申し分のない印刷物も紙が劣化してしまえば、それまでだ。

 それでも、曲げる、折る、切るが自在で形を問わず包める万能ともいえる素材、紙の魅力は尽きることがない。

 日本に現存する最古の包装紙は、百万塔陀羅尼を包んでいた紙ということになるのだそうだ(増田晴美『百万塔陀羅尼の研究~静嘉堂文庫所蔵本を中心に~』汲古書院2007)。

 「世界最古の印刷物」を包んでいた紙のことなどおもってもみなかった。現存最古の国産紙は、正倉院文書の「戸籍」で、大宝2(702)年の美濃国山方郡三井田里戸籍などの用紙。 百万塔陀羅尼については、主原料は楮で、麻の混抄されたものもあると報告されてきた。包装紙についても、本紙と同じ原料構成と結論づけられている。包み紙の長さは、本紙を二重に包む程度の長さで6379㍉。上下は4860㍉。丸めた本紙が開かないよう糊どめがされていた。

 百万塔陀羅尼は、宝亀元(770)年に印刷されたので、「戸籍」の用紙とは68年の開きがある。しかし、この間に「包装紙」として知られている紙はなく、現存する包装紙として、百万塔陀羅尼のものが、最古と判断されるという。

(「月刊印刷界」2022.9月号)

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