2022年04月07日

昨年末、マンローランド・シートフェッド社は創業150周年を迎えた。

その長い歴史の中では、時代を革新するような数々の技術開発を成し、印刷業界の発展に多大な貢献を果たしてきた。同社にとって記念となる節目の年を迎えた今、その日本法人であるマンローランド ジャパン㈱(本社・埼玉県戸田市)のサーシャ・バンセマー社長に、マンローランド・シートフェッド社がこれまで歩んできた足跡と今後の事業展開などについて話を聞いた。

 

--昨年末、マンローランド・シートフェッド社は創業から150年を迎えました。そんな節目の年を迎えたマンローランド社およびマンローランド ジャパンの現在の業績・状況はいかがですか?

バンセマー マンローランド・シートフェッド社が属するラングレーホールディングスは、これまでになく良い業績を残せた年となりました。グループ全体の売上が約8億1500万ユーロ、税引前利益は前年比5倍超となる1億2800万ユーロを記録しました。これはここ10年でもっとも良い数字で、マンローランド・シートフェッド社もこの記録に貢献しています。

バンセマー社長

バンセマー社長

マンローランド ジャパンについても、直近の10年間にわたって黒字を維持しています。ここ2年間は新型コロナウイルス感染症が流行したため、お客様先へ訪問しての対面営業をすることが難しい状況にあります。そのようなお客様とはオンラインでコンタクトを取らせて頂いております。ただし、既設ユーザー様への当社のエンジニアが訪問やパーツ供給については滞りなく行っております。

 

--マンローランド・シートフェッド社のルーツや足跡について、簡単にお聞かせ下さい。
バンセマー 当社のルーツは、1871年にドイツ・オッフェンバッハで、ルイス・フェイバー氏とアドルフ・シュライヒャー氏がFaber&Schleicher社を創業したことに始まります。初めて世に出した印刷機は、1875年に毎時700枚の生産性を持つアルバトロスというものでした。最初の枚葉オフセット印刷機は、1911年に開発・製造しました。その後、我々はつねに印刷産業の先端を走り、1972年には最初の大型機となるローランド800、1995年にはローランド900を上市しています。

近年での目を見張るような技術革新の事例としましては、IGAS2007において発表しました「ダイレクトドライブ機構」です。その頃からオンデマンド印刷機/デジタル印刷機が普及し始めており、枚葉オフセット印刷における課題として「ジョブ替え時間の短さ」を研究していました。それを突き詰めた成果となるのがこの「ダイレクトドライブ機構」で、全胴の全自動刷版交換作業やブランケット・圧胴などの各種洗浄作業を同時並行処理することで、デジタル印刷機と変わらぬようなジョブ替えの迅速さの実現を目指したものです。今日では、ジョブ替えにともなう各種作業を同時並行処理できる印刷機というものは、競合他社からも提供されてだんだんと一般的になりつつありますが、印刷産業においてその先駆けとなったのがこの「ダイレクトドライブ機構」でした。

 

印刷機単体だけを販売するだけではなく
サービスと組み合わせたソリューションを提供

 

--そして現在の最新鋭機として、菊全判の「ROLAND700Evolution」シリーズ、そして倍判機についても約1年前に新モデルとなる「ROLAND900Evolution」を発売開始しました。それらの特徴についてお聞かせ下さい。

ROLAND700Evolution

ROLAND700Evolution

バンセマー 菊全判機の「ROLAND700Evolution」は、2014年に新開発した最新鋭機で、日本市場でも第1号機は2015年に納入しております。この「ROLAND700Evolution」シリーズは現在、▽ライト、▽エリート、▽スピード――という3モデルをラインナップしています。「ライト」は機能を限定して初期投資額を抑えたエントリーモデル、「エリート」はより難しい印刷や特殊印刷にも対応するハイスペックモデル、そして「スピード」はその名の通り印刷速度が速いモデルとなります。

日本の印刷会社様は、迅速なジョブ替えができたり自動制御・検査ができるフルスペックなもので、かつ各社様ごとのニーズや用途に合ったカスタマイズを施したものとなりますので、やはり納入するほぼすべてが「エリート」となっています。

また当社では、印刷機だけを売るのではなく、印刷機とサービスのコンビネーションとしてのソリューションを提供することが大事だと思っております。そこでこの「ROLAND700Evolution」には、納入後2年間にわたる標準サービスメニュー「プロサーブ360°パフォーマンス」も付随されております。このサービスは、▽印刷機の点検とメンテナンスを毎年実施、▽機械の稼働停止要因になり得る点をリモート診断によって事前に分析し、能動的な対応やメンテナンスをするサービス、▽24時間対応のトラブルシューティングに対応するリモート診断サービス、▽印刷機の生産稼働状況に関する詳細な分析データレポートの提供とさらなる効率向上案の提案、▽期間中にスペアパーツを要した場合の提供--を無償で行うものです。

 

ROLAND900Evolution

ROLAND900Evolution

倍判機の「ROLAND900Evolution」は、「ROLAND700Evolution」のすぐれた機能はそのままに、印刷サイズを1450㍉幅に拡大したものです。これまでの大型印刷機とは一線を画す操作パネルや操作コンセプトを新たに開発し、またインラインの印刷品質検査装置や濃度計測システムも備えており、その結果としてハイレベルな印刷品質、短い準備時間、各種機能の搭載による自動化といった特徴を有しています。

 

既設機に最新機能を後付け搭載することも可能
長期間の稼働で市場ニーズが変わってもそれに見合った装備に

 

--貴社では既設機に最新機能を後付けできるパッケージも提供していますが、それは具体的にどのようなものなのでしょうか。

バンセマー 今この瞬間にも我々は開発を続けており、とくに機械のオプション、ジョブ替え時間の短縮、システムを統合するソフトウェアについて、進化を続けています。そして、新しいソリューションを開発・提供できるようになった時、それを稼働年数がある一定期間内の既存機にも後付け搭載できるようにしています。

FutureProofパッケージ」というこのサービスでは、たとえば本刷り中の印刷物の濃度を計測してそれに基づいて印刷機のインキキーを自動制御する「インラインカラーパイロット」が後付けできたり、またインラインでコールドフォイル加工ができる「インラインフォイラー」について箔のヤレを最小化できる「インデックスタイプ(間欠方式)」に変更ができたり、さらには迅速なジョブ替え機能を付けていない印刷機にクイックチェンジオプションを後付けすることもできます。

我々がご提供する印刷機はフレームが頑強なので、しっかりとしたメンテナンスと現代技術への拡張性があれば、稼働開始から一定年数が経過した印刷機であっても廃棄せず、比較的少額な投資で最新機に迫るようなパフォーマンスが発揮できるようになります。とくに日本の印刷会社様は、世界的に見ても印刷機を大事にお使いになって、とても長い期間にわたって稼働して頂いています。オーバーホールやリペアも含めたこのようなパッケージをご提供するのは、サーキュラーエコノミーという観点において、印刷機という巨大な装置を廃棄するまでの期間を延ばすことができれば環境へのやさしさにもつながるという当社の考えの顕れでもあります。

 

--マンローランド・シートフェッド社製の枚葉オフセット印刷機は長年にわたり、とくにパッケージ印刷市場で高い評価を受けています。その背景と機械の特徴についてお聞かせ下さい。
バンセマー まず、当社の印刷機は、接合部が少なくてとても強固なサイドフレームを採用しています。そのフレームの製造工程では、1ユニットごとの駆動側と操作側のサイドフレーム2枚を1対にして穴あけ加工をします。印刷機は精密機械ですのでズレがないことはとても重要となるからです。パッケージ印刷では厚紙を使用することが多いのですが、厚い紙は印刷機に振動を与えやすいからこそ、フレームの強固さと精密さが物を言うのです。また、厚紙は用紙搬送において紙が跳ねやすいのですが、それを制御するエアー技術や胴間のスムーズな受け渡しといった構造にも工夫が盛り込まれています。

また「ROLRAND700」は、印刷可能な紙厚は、標準仕様でも1㍉まで対応します。さらに、パッケージには、厚紙、フォイル、フィルムなど、さまざまな媒体がありますが、それぞれの特性にあわせた「パフォーマンスパッケージ」というオプションをご用意しており、印刷機をカスタマイズすることもできます。

 

--これからの日本市場での取り組みと、日本の印刷会社へのメッセージをお願いします。
バンセマー まず、4月にオンラインセミナーの開催を予定しています。またコロナ禍が収束したら、実際に実機の稼働状況をご覧頂けるようなオープンハウスなども開催したいと考えております。さらなる希望としては、今の状況ですと外国へ行くことは難しいのでしょうが、世界的な印刷産業におけるトレンドをご覧になって頂けるような、たとえば中国の先進印刷会社を見学するツアーも企画したいと思っています。環境問題や脱プラスチックという観点から世界的に紙器への需要が高まっており、7~9色に複数のニスコーターをつけるような多ユニット構成の印刷機が増えています。このような世界での印刷事情は、みなさまにとっても興味深いものでしょうし、そこからいろいろな刺激や影響も得られるでしょう。

また、当社ではこれから、印刷機を販売するだけにとどまらず、印刷会社のみなさまとしっかりと話し合い、印刷工場全体の仕事の流れ、資機材や製品の流れ・管理なども含めた、トータルなソリューションを提供してまいります。ユーザーのみなさまのビジネス全体をサポート・コンサルティングしていくことで、日本の印刷業界の成長・発展に貢献してまいります。

 

月刊 印刷界 2022年4月号掲載

【取材・文 小原安貴、Interview・Article Writing Yasutaka Obara】

 

 

 

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