2022年01月28日

日本印刷技術協会(JAGAT、塚田司郎会長)は2021年11月25日、「JAGAT大会2021」をオンライン開催した。「今こそマーケティング!」をキーフレーズに、「page2017」の基調講演に登壇したアメリカのダイレクトマーケティングの大家、ロン・ジェイコブス氏を迎え、「アフターコロナを見据えた印刷業界」をテーマに、ビデオによる基調講演を視聴し、講演内容について登壇者がディスカッションを繰り広げた。大会は3部構成。ジェイコブス氏のビデオ講演を前半と後半に分け、それぞれ1部と2部とし、本間充、谷田貝正人、郡司秀明の3氏がディスカッション。第3部では、郡司氏の進行で塚田、網野、花井のJAGAT首脳3氏で議論をまとめた。

1月31日のpage2022プレセミナーでは、そのエキスを抽出した再放送バージョンを配信する。基調講演とセットで聞くと、マーケティング概論が良く理解できて、近未来の印刷ビジネスが想像できる。

 

【講演者】
ロン・ジェイコブス(Ron Jacobs、ジェイコブス&クレベンジャー社・CEO)
【登壇者】

本間充(マーケティングサイエンスラボ・所長)

谷田貝正人(フュージョン㈱・シニアアカウントプランナー)
塚田司郎(錦明印刷㈱・社長、JAGAT会長)
網野勝彦(㈱研文社・社長、JAGAT副会長)
花井秀勝(フュージョン㈱・会長、JAGAT理事)
郡司秀明(JAGAT・専務理事)

 

ロン・ジェイコブス

ロン・ジェイコブス氏

基調講演『ダイレクトメールはネクストノーマルに向けてどのように進化してきたか』の中で、ジェイコブス氏は「賢いマーケターは、利益に大きく貢献する既存顧客にアプローチし続けて、DMはテンションやロイヤルティのために使われ続けている」など、DMが回復傾向にあることを証明するとともに、まとめとして次のように提示した。
▽バリアブルデータ印刷が関連性の高い、ハイパー・パーソナライズ化されたDMの作成に役立っている。
▽マーケターは、DMの通数ではなく、DMの価値を認識すべきである。
▽経済状況、消費者行動の変化、インクジェットとパーソナライゼーションの成長がDMの形状を進化させた。
▽DMの対象者をベビーブーマーだけではなく、ミレニアル世代などのデジタルネイティブに見直す必要性。
▽パーソナライゼーションが単なる名前や住所から、興味やメッセージ、コンテンツ、オファー、場所などの個別化に移行している。
以上の講演をベースにDM、マーケティング、印刷などについて、論客たちが喧々諤々に意見を述べ合う、興味深いセッションであった。ここでは登壇者たちの印象的な発言を掲載する。

 

 ベネフィットは顧客によって異なる

【第1部】
郡司 講演でジェイコブス氏は「リターゲティングや、他のデジタルチャネルと組み合わせて、マルチエフォート型のマーケティングオートメーションプログラムの一環として、プログラム型やトリガー型のDMを利用するケースの増加」と述べていた。
リターゲティングとは、ターゲットにしたものがうまくいかなかったら次々に変えていくこと。多分にウェブ的である。間違えたら間違えたでいいじゃないか、新しいことをやっていこうぜ、という考え方である。ところが印刷会社は『うちに任せてくれたら絶対です』と営業トークする。これは今の時代に合わないのではないか。

本間充

本間充氏

本間 印刷会社はゴージャスなメッセージとピクチャーを一体化したら完璧だと思っていた。これはベネフィットが皆同じときはいいのだが、廉価がベネフィットな顧客もいれば、すぐ届くのがベネフィットな顧客もいる。顧客によってバリューが違う。ならば「安いよ」で響かないのなら、「届くよ」で送り直すのがリターゲティングである。インターネットでは割と普通である。印刷はこれまで「完パケ」という言い方があるが、間違いがない状態で納品というのが前提にあるので、考えられなかった。
米国では他のメディアとの組合せが多い。以前なら紙でずっとやっていたが、ウェブで資料請求して紙のカタログが届くとか、紙のカタログの中にEメールが明記されていたり、ウェブと紙の垣根がないケースが多い。
郡司 私が教えている大学生がそうである。カタログが楽しい、DMをもらうとワクワクするという。
本間 質がいいと言っている。手触りがあると言っていることが重要で、デジタルは便利になったけど質感がないのと、クオリティをどう判断していいかわからない。
谷田貝 米国のDMのレスポンス率は6%くらいと話があったが、18~21歳に絞り込むと12%まで上がる。彼らが一人前の人間として認めてもらっているうれしさと同時に、これまでにもらったことがないコミュニケーション手段である紙のDMが自分宛てに届く。これで今までにないレスポンスが叩き出されていると感じる。
郡司 印刷会社はやたら「わが社の品質が素晴らしい」と自分たちのメリットを話す。しかし発注する側はそれが欲しいものではない。ベネフィットというのは、そういう印刷物・DMを使用することによって、どれだけ結果が良くなるかということである。ベネフィットということを印刷業界としては、骨身に染みて考えないといけない。

 

 DMはターゲティングが重要

【第2部】

谷田貝正人

谷田貝正人氏

谷田貝 これまでの受身営業から、クライアントの企画部門に入っていけるように、マーケティングを熱心に学び始めた印刷会社、団体がある。そこで大口が取れるかは別として、DMはターゲティングが重要である。日本で一番欠けているのはオファーである。それは単なる特典などではなくて、ターゲットが欲しがっているものをタイミングよく提示できるかどうか、まさにベネフィットに届くかどうか重要な部門である。
このあたりは印刷会社にできなくて、広告代理店ならできるといったことではない。常にインサイトがどこにあるのか、様々なところでヒアリングする。自分の家族に聞いてもよい。身近なところからビジネスチャンスは広がる。通数に限らずターゲティングできるようなビジネスチャンスが生まれてくるのではないかと、印刷会社に期待する。

 

顧客と会話のできるような教育が必要

【第3部】

郡司秀明

郡司秀明氏

郡司 いまだに“印刷vsIT”とよく見聞きする。印刷会社は紙のほうがこれだけ優れていると喧伝する。ITをフル活用して、印刷ビジネス価値を高めるということでは理解できる。これに関して皆さんの考えを聞きたい。

花井秀勝

花井秀勝氏

花井 コロナ禍の中でウェブの比率は高まると同時に、カタログを作ってほしいという意向が高まっている。これは何十ページもあるものではなく、8~16ページ程度のもので、購買した客にサンキューレターと同時にカタログを送ることによって、継続して購入してもらおうという意図がある。印刷売上げは若干減っているので、周辺ビジネスを固めていくのがポイントではないか。それと同時にITを使用することによって、コールセンターに来る内容をAIで解析して、音声化することもテスト的に行っている。

網野勝彦

網野勝彦氏

網野 提案から仕事に入っていくとITを組込んで、印刷と連動させていく流れは不可欠だ。逆にデジタルの中でうまく印刷物を使用するスタイルに変わった。
ただ購買部門の印刷はコストが変わっていないので、そこはIT連携なしでも当面のところ、市場は存在している。直接エンドのクライアントと交渉すると、ITと連携させて提案型で切り込むと言いながらも価格競争、入札が存在するのである。
郡司 コロナ禍ではやはり印刷は高い。昔だったら今損して、将来的な得を取るであったが、現在は今得しないと、将来も得できない状態である」
網野 「今まではマスメディアに出すことを実現するために、会社に部門を作って、生産性を上げてきた構造だった。しかしITを取り込んでいこうとしたら、生産性を目的とした部門設計ではなくて、エキスパートを集めたチームにしていかないと、デジタルと印刷をセットにして提案していくような社内風土になってこない。そのあたり社内で試行錯誤している。

花井 ある団体の報告書の中で60%以上の経営者が、これからはマーケティングの人材の確保と教育だという結果が出た。今までとは違った資格などを持っていないと、マーケティングの支援はできないと感じている。小さな印刷会社だから難しいとは限らない。企業の教育のやり方次第だ。ハードよりどれだけ人材教育にお金をかけられるのかが、印刷会社のポイント。価格競争に巻き込まれてもいいから印刷に専念するという企業もあるが、印刷の付帯サービスというところを推し進めていく方が、中小印刷会社には明るい未来があるのではないか。

塚田司郎

塚田司郎会長

塚田 昔の印刷教育はJAGATでもそうだが、印刷について、製本についてなど、印刷物を作る画一的な教育だったが、今は現在のニーズに向かった、提供すべきサービスをもった人間を育てるべきである。
花井 日本郵便が働き方改革に伴い、昨年10月から土曜配達を取りやめた。東京宛は今年1月からは翌日配達がなくなる。おそらく今後、DMやカタログはスピード重視から、形状、デザイン、レイアウト、コピーが重要な要素になってくる。
とくにカート落ちDMなどの翌日配達は、今後できなくなってくるのではないか。さらに日本郵便は今後人員削減も検討しているということである。だからDMはスピード重視という側面もあったが、これからは本格的に企画力・データサイエンスが重要になってくる。
印刷会社で顧客とデータのやり取りの会話ができない人が多い。顧客の言っていることが理解できない。そういった新しい教育が必要ではないかと思う。

イベント-関連の記事

PAGE TOP