昨年は7割経済という言葉が示すとおり、国内経済の規模も印刷業界の市場規模も、コロナ禍前と比べると2~3割減となった。そのような逆風の状況下ではあるものの日本アグフア・ゲバルト㈱(本社・東京都品川区)は、UV印刷にも対応する2種の現像レスプレートの新製品の発表、また3.3㍍幅のハイエンドUVインクジェット印刷機の国内初納入など、印刷業界にさまざまな新しい刺激を与えてくれた。そして今年は、コロナ禍による落ち込みからの反攻をする年となる。そんな同社の展開や印刷業界への新たな提案やサポート策などについて、同社の岡本勝弘社長に話を聞いた。
――まず、昨年を振り返ってどのような年でしたか?
岡本 年明け早々に緊急事態宣言が発令され、地域によっては1年のうちの半分近くが緊急事態宣言下という状況になり、とても厳しい年となりました。コロナ禍によって国内全体の経済規模が2~3割縮小していますが、宿泊業や観光業、飲食業など、それ以上に大きな影響を被っている業界も数多くあります。それらの業界と比較をすれば、まだ印刷業界はコロナ禍による影響が小さかったと言えるのではないかと思っています。
昨年はコロナ禍でも、弊社として大きな動きがあった年でした。その1つが新製品の現像レスCTPプレート「アダマス(Adamas)」と「エクリプス(Eclipse)」を7月に発表し、販売を開始したことです。
ガム洗浄方式のプレートで高い耐刷力とUV印刷適性が付与された「アダマス」については、第1号ユーザーとして東京の富沢印刷㈱様や大阪の㈱フジプラス様に採用して頂き、その後も順調に採用件数・出荷量が伸びています。一方の、機上現像方式でUV印刷にも対応する「エクリプス」も全国各地の印刷会社様で採用して頂き、順調に出荷量が伸びています。コロナ禍においても新製品が順調に採用して頂けていることは、我々にとってとても良いニュースです。
--それでは、事業分野ごとの業績についてお聞かせ下さい。まずは主力となるプレート分野については、その2種類の新製品の発売開始もあり、昨年も活発な動きがあった印象でした。
岡本 弊社の場合、全プレート出荷量のうちのほとんどを現像レスプレートが占めています。これは、市場から現像レスプレート「アズーラ」の良さ・魅力を認知して頂けている証と自負しております。その現像レスプレートのラインナップとして、▽高耐刷性とUV印刷適性も備えた『ガム洗浄方式』の「アダマス」、▽UV印刷適性を備えた『機上現像方式』の「エクリプス」--の2種類のプレートが加わりました。速乾印刷で定評のある「アズーラ」に加えて、UV印刷にも対応する2種類の新プレートを提供できるようになったことで、とくにアルカリ現像タイプのプレートを使用されている新規の印刷会社様からのお問い合わせが急増しています。
実際、新製品の発売を開始して以降、全国各地のお客様で導入が進んでいます。今後もアルカリ現像を要するような現像ありタイプのプレートを使用し続けていこうと考えていらっしゃる印刷会社様は、決して多くはないと思います。そこで、それぞれの印刷会社様の状況やニーズをしっかりとお聞きした上で、ガム洗浄方式と機上現像方式という2つの選択肢があること、そしてそれぞれの方式の特徴を丁寧かつ正確にお伝えしていき、今年も「アズーラ」に加えて「アダマス」「エクリプス」ともに出荷量を増やしてまいります。
--ソフト製品群については近年、クラウドソリューションやサブスクリプション方式など、新しい手法を提案されています。
岡本 ソフト製品につきましてはコロナ禍においても好調で、前年比で大きなプラスとなりました。とくにサブスクリプションモデルについては、新規・既存のアップグレードの双方で採用が進みました。業界初のクラウドワークフロー「アポジー・クラウド」のサブスクリプションモデルをローカルサーバーでも月額制で提供できるようにした新サービス「アポジー・サブスクリプション」は、月額料金の中でつねに最新バージョン/最新のRIPコアが利用できて、最新の制作環境に対応できるものとなります。従来のようにPCサーバーから入れ替えると導入費用が高額になってしますケースもありますが、サブスクリプション方式ですと大きな投資を要することなく月額利用料のみでお使い頂けます。その中で、最新のエンジンが使えるという点に高い評価を頂けました。
ハードウェア製品に関しては、コロナ禍によってデモンストレーションや見学会を行うことがままならなかった面もありました。一方、ソフト製品につきましては、Webを通してのデモンストレーションが容易にできましたのでコロナ禍による影響が少なかったこともあり、好業績を収められたのかと思います。
また、投資をされるお客様様側の考え方につきましても、もともと印刷量が減っている中、さらにコロナ禍によって減少しており、そのような状況においては機械設備への投資をして生産量を上げるよりも社内効率を上げることを選択されるケースが増えていると感じます。具体的には、先進的なソフト製品を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)による社内省力化に注力していこうとする動きです。そのような傾向から、プリプレスワークフローシステム「アポジー」やクラウド型ファイルストレージサービス「アポジー・ドライブ」の新規採用、さらにはこれらを連携させて、これまでならば人手を介していた作業や効率的な仕事の流し方の判断などもRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)によって自動化・無人化する案件が数多くありました。このような傾向は今年以降も続いていくと予測しています。
--貴社ではインクジェット印刷分野が、プレート分野に続く第2の柱に成長しているとのことですが。
岡本 昨年は、3.3㍍幅のハイエンド・ハイブリッドUVインクジェットプリンター「JETI TAURO」の国内初号機を大阪のキングプリンティング㈱様に納入させて頂きました。また、「JETI TAURO」を披露するオープンハウスを3日間にわたって開催しましたが、各日とも満席となる程の盛況ぶりで、紙以外のメディアへ印刷することへの興味が印刷業界全体で湧いてきていることを実感しました。VLF(大判)のオフセット印刷機やフレキソ印刷機の導入や入れ替えには高額な投資を要しますので、コロナ禍で先行きが不透明な中で大きな投資をすることに躊躇されるケースもあるようです。そのような点からも、そして製作物全般が小ロット化している点からも、それらの印刷機から「JETI TAURO」に置き換えたいという引き合いを多く頂いています。
--今年も引き続き、インクジェット分野の動きには期待ができそうですね。
岡本 インクジェット分野に関しましては販売記録を毎年更新していますので、今年もそれを継続して、昨年をさらに上回ることを目標としています。また市場シェアにおいては、ワイドフォーマットのハイエンドクラスでのトップシェアも狙ってまいります。
弊社のインクジェット分野における強みは、インクを自社で製造・開発している点です。それに加え、その独自の特徴を持ったインクをうまく印刷に表現するソフト「アサンティ」も進化しています。その特徴を駆使し、たとえば「JETI MIRA」の厚盛り印刷機能や3Dレンズ印刷機能を活かして、ユーザーのみなさまがいろいろな工夫をして新たな印刷製品を生み出していらっしゃいます。従来のプリンターを入れ替えるだけですと多少スピードが速くなるだけで、やれる仕事の内容は同じままとなります。一方、弊社のお客様は、このような機械およびインクの特徴的な機能をベースに、いろいろな工夫をすることで付加価値をあげられるような製品を開発し、新規顧客獲得につなげています。
概して印刷会社様は、自社のアピール・宣伝が得意ではないかと思われます。そこで、誰から見てもわかりやすいアピールツール・技術がありますと、その後押しとなるでしょう。わかりやすいサンプルを見てもらうことは興味を引くためのきっかけとして十分なものになります。もしその案件・商談についてはうまくいかなかったとしても、ほかの印刷会社にはできないようなことができる魅力的な印刷会社だという印象付けには成功します。このような形で弊社のインクジェット製品は、通常の仕事はもちろん、自社の宣伝といった面でもご活用頂いています。
--国内では昨秋頃から、新型コロナウイルス感染者の新規感染者数に落ち着きが見られています。そのような状況を受け、ユーザー会やセミナー、見学会、また以前から好評を博してきた工場長サミットの開催計画はいかがですか?
岡本 アグフアユーザー会は、設立当初は30社程の小さな会でしたが、年々会員数が増え、今では会員数が300社近い大きな会に成長しました。業種についても商業印刷会社だけではなく、パッケージ印刷会社や新聞印刷会社、サイン&ディスプレイ業など、分野の垣根を超えた交流ができることにも喜んで頂いています。そのユーザー会は今年で発足20周年となりますので、その歴史を振り返った記念誌を製作することにしました。
また、ユーザー会の価値の1つは、有益で実体のあるコミュニケーションができることです。そこで、ユーザー間のさらなる連携、そしてユーザー同士がそれぞれ学び合えるような環境作りとして、ユーザー会セミナーや『工場長サミット』を定期的に開催しています。昨年の第3回『工場長サミット』は、「コロナ禍とその後を見据えた自社の取り組みについて」というテーマで開催しました。そこでの情報交換でとくに盛り上がったのは、多能工化についてでした。多能工化をしてシフト勤務を組んで従業員の労働時間を減らすことで、密や接触頻度が減って新型コロナウイルス感染症の感染防止対策になる点に注目が集まりました。これまでは速乾印刷を極めるといった技術面の話題が多かったのですが、今回は工場経営の方にも話題が広がりました。今年もまた、テーマを変えながら『工場長サミット』の開催を予定しています。
また、この『工場長サミット』が技術交流だけではなく、参加者同士によるBCP対策を視野に入れた交流にもなっています。ここ数年、お客様が自然災害などで被害に遭ってしまい、生産ができない状況に陥ったケースがありました。そのような時、遠く離れた地域の会社間でBCP対策として連携しておき、お互いがアグフアのワークフローシステムやインクジェット印刷機のお客様でカラープロファイルを共有することができたり、クラウドやファイルサーバーなどで情報共有ができるなど、困った時に助け合おうという話もあがっています。
今年は、見学会やオープンハウスも活発に行おうと考えています。そのひとつの分野がファクトリーオートメーションです。このような売上を伸ばすことが簡単ではない時勢ですので、徹底的なコスト削減をするための提案をしてまいります。とくにファクトリーオートメーションについては、現場を見て頂かないとみなさまに伝わりにくいでしょうから、やはり実際に体感して頂く場を設けたいと思っています。
たとえばパッケージ印刷会社様の事例を挙げますと、クリーンルーム内の省力化や無人化はほぼ達成していたものの、CTPにプレートを装填する際、プレート50枚入りの段ボールをクリーンルーム内に入れていたそうです。それを、CTPプレートを1200枚積みのパレットでCTPに直接ロードできるパレットローディングシステム「エキスパート・ローダー」を採用し、かつパレットを木製から樹脂製に替えたことで、ファクトリーオートメーション化に加えて、真の意味でのクリーンルーム運用もできるようになったということです。このような、さらなるメリットも創出されるファクトリーオートメーションの事例を、見学会などを通していろいろとご紹介していきたいと考えています。
--最後に今年の抱負をお聞かせ下さい。
岡本 速乾印刷で定評のある「アズーラ」に加えて、昨年発表したガム洗浄タイプのプレート「アダマス」と機上現像タイプのプレート「エクリプス」を積極的に拡販し、CTPプレートの環境対応を強力に推進していきます。
また、商業印刷分野に加えて、パッケージ印刷分野へもさまざまな新しい提案を行っていきます。プリプレスワークフローシステム「アポジー」で、パッケージ印刷に特化した機能を追加した新しいソフトを発表します。パッケージ制作では独自のソフトを使用することが多いのですが、それをRIPの部分で補うものとなります。そして、ガム洗浄タイププレート「アダマス」が、パッケージ印刷会社でも採用がスタートしました。パッケージ印刷で使用されるプレートは、UV印刷や特色インキの使用が多いなどの要因から、アルカリ現像を要する高耐刷プレートが主流となっています。したがって、パッケージ印刷で現像レス化することは難しいというのがこれまでの定説でしたが、それが「アダマス」を使うことで現像レス化へ一歩踏み出せるという判断の下、テスト印刷もクリアして採用して頂きました。これらをうまく絡めることで、パッケージ印刷の現像レス化やファクトリーオートメーション、クリーンルーム化など、新しいパッケージソリューションを提供できると考えています。
製品の提供だけでなくユーザー会などの活動についても活発に展開していき、お客様の満足度向上、さらには弊社とお客様との連携やお客様同士の連携を深めていき、みなさんとともにこの困難な時代を乗り超えていきたいと思っております。
日本印刷新聞 2022年1月17日付掲載【取材・文 小原安貴、Interview・Article Writing Yasutaka Obara】