チラシや雑誌、ポスター、パンフレットといった商業印刷物のほか、紙器パッケージ、さらには軟包装フレキソ印刷と、㈱近代美術(本社・沖縄県南風原町、大城恵美社長)では沖縄県内のあらゆるジャンルの印刷物の製作を担っている。
その印刷部門で核となっている枚葉オフセット印刷では全機にインライン印刷品質検査装置を後付け搭載して、たしかな印刷品質の製品のみを出荷する製造基盤を確立し、顧客からの信頼を集めている。
同社の印刷部門では、4/4色のオフ輪2台、今年3月に導入したフレキソ印刷機に加えて、印刷部門の核となる枚葉オフセット印刷機については、㈱小森コーポレーション製の菊全判コーター付5色印刷機「リスロンGL-540」と三菱重工製の菊全判両面専用(タンデムパーフェクター)表5/裏4色印刷機「New DAIYA309TP」の2台が稼働中。
その枚葉オフセット印刷機では商業印刷物とパッケージ印刷物の製作をしている。
年間で100万円強にのぼっていた刷り直しによる追加コスト
同一ロット内での品質・色再現のブレも課題に
輪転印刷機にはインライン品質検査装置が標準搭載されており、機械の目による精度の高い全品検査を行っていた。
一方の枚葉オフセット印刷機については、これまではオペレーターの目視による抜き取り検査に任せていたが、ピンホールやゴミ付きなどによる印刷事故が時々発生していた。
「納品後に指摘を受けるケースも少なからずあり、刷り直しによる追加コストは年間で100万円強にのぼっていた。そのコストも痛手だが、それよりもお客様から寄せて頂いた信頼を損ねてしまうこと、リピートジョブを失う可能性があることの方が大きな問題となる。また、直接の受注案件だけではなく同業者からの仲間仕事の場合、その同業者の看板も汚すことになってしまう。商業印刷物でも印刷事故があってはならないが、とくにパッケージ印刷では品質についてシビアに問われるし、さらにはロット内で色再現の一貫性についてブレることもあった」と、以前の枚葉オフセット印刷機部門の状況と課題について、同社の大城進工場長は振り返る。
そこで平成30年に、まずは稼働開始から7年が経過していた菊全判コーター付5色印刷機「リスロンGL-540」に、後付けでインライン印刷品質検査装置を後付け搭載することを決めた。
この印刷機は1㍉までの紙厚に対応することから紙器パッケージ印刷用途でも活用しており、品質検査体制の強化が急務となっていた。
搭載したシステムは、地元の沖縄県内で印刷機材を取り扱う㈱総合資材(本社・沖縄県島尻郡、八巻徳幸社長)を通して㈱ワダコーポレーション(本社・神奈川県横浜市中区、和田治之社長)から提案を受けた、ジクス㈱(本社・東京都板橋区、高原亮介社長)製のオフセット印刷品質検査装置「Lab-vision」だ。
大城工場長は、「オフ輪では印刷品質検査装置のおかげで印刷事故が発生していないことから、それと同等の検査精度となるシステムで比較・検討をした。その水準をクリアしつつ、投資額が抑えられるものだったのが採用のポイントとなった。また、この“Lab-vision”は、本刷り中に色調に変化があると警報で教えてくれる機能を備えているので、印刷オペレーターがすぐにインキキー操作をして対応できる。印刷中の色の変化は、急に起こるとわかりやすいが、じわじわと変わっていく場合は気付かないこともあるので助けられている」と、印刷品質検査装置を採用した時の背景を語る。
Lab-visionを後付け搭載して以降、印刷事故はゼロに
コスト削減にも品質安定性にも、オペレーターの心理的負荷軽減にも大きな貢献
その導入効果は絶大で、「Lab-vision」を後付け搭載してからは印刷事故がまったくなくなった。
そこで、その翌年に導入した三菱重工製の菊全判両面専用(タンデムパーフェクター)表5/裏4色印刷機「New DAIYA309TP」には、導入と同時に「Lab-vision」を搭載している。
「印刷品質検査装置を導入してみると、水タレや油タレ、紙剥けを検知するケースが多々あった。このような本刷り中のある枚数部分だけに現れて、すぐに消える現象も検知してくれる。これまでならば見逃していたはずなので、こんな現象が起きていたということを知り背筋が凍る思いになった。今では、印刷事故が起きる心配がないので、印刷オペレーターにとって安心・快適な作業環境になった。また、印刷事故の対応で要していた無駄なコストが一気に削減されるので、印刷品質検査装置の導入コストを超える効果となっている」と大城工場長が語るとおり、今となっては同社にとってなくてはならないアイテムになっている。
印刷品質検査装置はこれからの印刷会社にとって必須アイテム
顧客からの信頼、そして仕事を失わないための重要なツールに
確実な検査体制による印刷事故の削減、色調の安定性・一貫性から、クライアント企業や仲間仕事を発注する同業者からも評価の声を受けているという。
「クライアント企業の要求品質も上がっており、紙器パッケージ分野だけでなく商業印刷分野でも、もはや印刷品質検査装置を活用することは時代の要請となっており、印刷会社にとって必須アイテムになりつつある。近い将来には、印刷発注の条件にインライン品質検査装置の活用が求められるようになることも考えられる。仕事を獲得するためのアピールツールではなく、仕事を失わないためのツールになるのではないかと思っている」(大城工場長)
たしかな印刷品質の製品のみを出荷する製造基盤を確立した同社では、今年3月に軟包装パッケージ製作事業を立ち上げ、それにともないフレキソ印刷機を導入した。
「現在、沖縄県内の軟包装パッケージは、ほとんどが県外の会社で生産されている。当然のことながら発注者にとっては、県内で生産した方がコストの面でも納期の面でも都合が良い。そこで、県内の食品メーカーをサポート・貢献すべく、軟包装印刷事業を始めることにした。県内の需要で大きなロットのものは多くないので、グラビア印刷ではなくフレキソ印刷の方が適していると判断し、県内初となる印刷から加工までの設備を整えた。コロナ禍で印刷需要が落ち込んでいるが、新規事業を手掛けることで夢が広がっている」と同社の次なる発展の方向性を大城工場長は表した。
日本印刷新聞 2021年8月2日付掲載【取材・文 小原安貴】