2021年01月06日

昨年は新型コロナウイルス感染症の地球規模での大流行により、世界も暮らしもこれまでとは一変した。労働環境においても、感染防止の観点から人との接触をなるべく少なくすることが求められ、作業の自動化・省人化、クラウドを活用したテレワーク対応、Web会議システムなどの整備が印刷関連会社にとっても急務となっている。また、人々の活動が少なくなることにともなって経済活動も縮小していることから、印刷経営者には即効性のある短期的対応と将来を見据えた中長期戦略の双方が求められている。そのような中、日本アグフア・ゲバルト㈱(本社・東京都品川区)では、印刷生産現場の自動化・省力化・コスト削減策といった足下の経営基盤を支える技術、そしてインクジェットを駆使して新規事業分野へ進出する技術も紹介している。このコロナ禍において生き残りを模索する印刷会社の戦略をサポートする姿勢などについて、同社の岡本勝弘社長に話を聞いた。

 

コロナ禍を乗り切るためには短期的に徹底的なコスト削減

すなわちファクトリーオートメーション化が効果的に

 

――まず、昨年を振り返ってどのような年でしたか?

岡本社長

岡本社長

岡本 昨年は新型コロナウイルス感染症が流行したことにより、感染予防の観点から人々が接触や活動を控えるようになり、その結果として印刷出荷量も3割程減少してしまいました。ある団体の昨年度の第2四半期の統計データによると、4割の印刷会社が赤字になっている状況で、このコロナ禍で印刷産業も大きなダメージを受けています。現在、経済規模が新型コロナウイルス感染症流行前の7割程になってしまっていることから、7割経済という言葉がよく使われています。この7割経済が続くと経営的に苦しい会社が多くなります。

このコロナ禍で経営が苦しい中、単純に売上を上げようと営業部門に頑張ってもらおうにも、感染予防の観点から営業スタッフも顧客訪問することがままなりませんし、経済規模が縮小している中で頑張りだけで売上を増やすことは難しいものです。売上をすぐさま上げることは難しく、また新たなビジネス分野によって収益モデルを作ろうにも短期間で成し遂げるのは難しいものです。やはり短期的にやるべきこととしましては、工場・製造現場のコスト削減といった目先の部分になります。コスト削減により採算分岐点を徹底的に下げることが重要だと思っています。そこで我々は、この経済状況がすぐに戻ることはないと思いますので、「徹底的なコスト削減をしましょう」というメッセージを継続的に発し、ファクトリーオートメーション化を提唱しています。

当社自身の状況としましては、主力製品であるプレートやプリプレス関連製品もコロナ禍による打撃を受け、決して余裕がある状況ではありません。その中にあっても、ファクトリーオートメーション化にまつわる製品群については「短期的に徹底的なコスト削減をする」というコンセプト・メッセージが市場でご理解を頂き、設置台数が順調に伸びました。

 

――具体的にはどのような製品に市場からの注目が集まったのですか?

岡本 まず、CTPプレートを1200枚積みのパレットで直接、CTPにロードするパレットローディングシステム「エキスパート・ローダー」に多くの引き合いを頂き、国内設置台数が間もなく20台を突破します。CTP業務の省力化を強力に推進する「エキスパート・ローダー」の導入が増えた理由としましては、やはり効率化と人員削減になります。これまでCTPにプレートを装填する際、多くのケースでは男性が2人がかりでプレート梱包の開梱およびプレート装填作業を行っていました。使用する版数にもよりますが、その作業が1日に4~5回も行われます。一方、この「エキスパート・ローダー」を設置して頂きますと、装填作業に肉体的負荷もかかりませんので女性1人でも簡単にできますし、その装填作業自体も2日に1回程で済みます。このようなメリットから、おかげさまで昨年は多くの台数を導入して頂けました。

それに加えて、CTPから排出されたプレートをインラインで自動版曲げした後、使用する印刷機ごとのスタッカーへ自動振り分けする「プレート・トランスポーテーション・システム」の新規採用があり、順調に稼働が始まっています。このような自動化、人員削減を目指したシステムに注目を頂きました。

プリプレスの工程を無人化することにより、現場オペレーターの「密」を防ぐこともできますので、コロナ感染対策としても大きな効果が得られると思っております。

 

――主力製品となるプレート製品についてはいかがでしたか?

岡本 現像レスCTPプレート「アズーラ」につきましては、コロナ禍による印刷需要の減少にともないまして出荷量は減少しました。その中でも継続的な拡販はしておりまして、昨年中にも新規ユーザーは数多く増加し、採用社数は右肩上がりに伸びております。やはり、印刷時に水が絞れるというプレートの特性、その結果としてインキマイレージの改善、生産性が向上するという部分に、これまでと変わらず高い評価を頂いています。また、今すぐに取り組むことができ、しかも大きな投資が不要ながら効果を得られるという点からも、「アズーラ」を導入して頂くケースが増えています。

 

ワークフローのクラウド化が加速

新聞印刷会社でも採用の動き

 

――プリプレスワークフローのクラウド化が進み、昨年は新聞印刷業界での初採用というニュースもありました。

岡本 昨年、「アポジー・クラウド」全体のジョブ処理数が120万ジョブを突破しました。月平均にしますと10万ジョブとなり、どんどんと普及が広がってきております。また昨年は、朝日新聞社の100%子会社で朝日新聞の朝夕刊の印刷などを手掛ける朝日プリンテック様に、新聞印刷業界では初めて「アポジー・クラウド」を採用して頂きました。もちろん商業印刷会社であってもそうではあるのですが、新聞印刷はトラブルによる停止が決してあってはなりません。そのような厳しい条件を抱える印刷会社から採用して頂けたのは、我々にとっても大きな自信となりました。

クラウド化を図ることでメリットを享受しやすいのは、ある程度のお仕事のボリュームがある会社、複数拠点で運用している会社だと思われ、現段階でそれに該当するのは印刷業界全体の2~3割と見ています。ですので、アポジーユーザーの中でクラウド化するとメリットが出ると思われる印刷会社においては、クラウドへ移行した比率は徐々に高まってきています。みなさまにクラウド化することの有用性をかなり理解して頂け、次のサーバーの更新時期に向けて計画されている印刷会社も多くなっています。

 

――昨年は大判インクジェット分野の動きも活発でした。

岡本 昨年は主に産業用途での導入が進み、おかげさまで2桁成長を遂げることができました。とくに、ワイドフォーマットUVインクジェットプリンターの「Jeti Mira」と「アナプルナ3200」といった印刷幅が3㍍超のモデルが好調でした。VLFの枚葉オフセット印刷機の代替としてこれらのモデルを活用している事例もあります。VLFの枚葉オフセット印刷機だと1枚の刷版を2人で運ばなければなりませんし、保守メンテナンスも大変です。一方、これらのインクジェット印刷機はボタン1つで動かせますので、熟練技術者も不要で人員採用も楽にできますし、無人での運用体制を敷けば夜間運転もできますので、枚葉オフセット印刷機を超える生産性も可能となります。そこで、DTP制作からプリプレスワークフローの「アポジー」まではオフセット印刷のジョブとまったく同じ処理をして、出力先を変えるだけでオフセット印刷(CTP)とインクジェット印刷機を併用するという、新しい収益モデルの提案もしてまいります。

また、社内のアフターフォローの組織も大きく変えてサポート体制にも力を入れています。そして、インクジェット印刷機ではあまりないリモートメンテナンス対応もしており、たとえば印刷中にノズル詰まりが起きた場合の補完対応もリモートで行えます。計画的なメンテナンスができますので。突発的な停止はほぼ起こりません。

 

遠隔地の印刷会社間での連帯感を生む工場長サミット

今年はインクジェット分野でも開催を予定

 

――展示会やセミナーといった多数の人が接触するイベントの開催が難しい状況となっています。今年、ユーザー会や見学会、また以前から好評を博してきた工場長サミットなどの開催計画はいかがですか?

岡本 その時の社会状況や新型コロナウイルス感染症の流行の収まり具合によって開催方法や開催自体の可否などを勘案しますが、基本的には頻繁に開催しようと考えています。印刷会社の工場長が集まって意見交換することで技術力向上だけでなく経営面にもプラスの効果が生まれる工場長サミットにつきましては、とくに開催のニーズをお寄せ頂いています。

さまざまな情報を共有してそれを自社に持ち帰って実践し、成果をあげて頂くことが工場長サミットの最終的なゴールだと思っていたのですが、実際に開催してみますと、これまでならば出会うことがなかった遠く離れた場所にある印刷会社の工場長同士で横の繋がりができるのです。スクール形式で一方的に発信されるセミナーや講演を聞くだけですと横の繋がりを作るのは難しいかもしれませんが、一緒になんらかの事柄を研究して取り組むと一体感・連帯感が生まれるのだと思います。遠隔地の印刷会社間の連携が生まれた結果として、たとえばどこかの会社が自然災害などで被災した際、その会社の仕事を引き受ける相互支援の段取りを組むネットワークも、この工場長サミットを通してできているようです。

プリプレスやオフセット印刷の分野のほかに、インクジェット印刷分野でも工場長サミット開催の要望がありますので、ぜひともやりたいと思っています。可能であれば3ヶ月に1回程のペースで工場長サミットを開催したいと考えており、多くの人が一堂に会することが難しい場合は、Web会議という形式も視野に入れています。

 

UV印刷対応、耐刷性向上を図った現像レスプレートを発表予定

ガム洗浄タイプと機上現像タイプの2種類から選択が可能

 

――drupa2021が中止となりましたが、そこで紹介する予定だった新技術を披露する機会はありますか。

岡本 drupa2021が中止となることが決まったばかりですので、現時点ではまだなにも決まっていません。ただ、drupa2021で発表しようとしたものではありませんが、日本国内ではpage2021でいろいろな新製品を発表する予定です。

その1つとして、2種類のプレートの新製品を、2月に正式発表する予定で準備を進めています。現在、市場で流通しているプレートは主に、アルカリ現像を要する従来型のもの、我々が提供している「アズーラ」のようなガム洗浄タイプ、そして現像を印刷機上で行う機上現像タイプがあります。2月に正式発表する製品はUV印刷での耐刷性を持ったガム洗浄タイプの現像レスCTPプレート「アダマス」という製品です。この「アダマス」は速乾印刷に定評のある「アズーラ」と並行して販売してまいります。「アズーラ」は速乾印刷に適した油性印刷向け、「アダマス」はUV印刷向けとして販売する方針です。「アダマス」はもちろん油性印刷でもご使用頂けますが、速乾印刷には向いていませんので、UV印刷向けと位置付けています。

もう1つの新製品のプレートは、機上現像タイプの「エクリプス」です。機上現像タイプのプレートは海外ではすでに多くの実績がでており、ノウハウは十分持っております。機上現像タイプではあるものの視認性がとても高いものとなっており、UV印刷での耐刷性も高くなっております。今後はUV印刷をする印刷会社向けに、好みや事情に応じてガム洗浄タイプ/機上現像タイプを選択して頂けるようになります。

我々としては、UV印刷でもガム洗浄タイプを第1にお勧めします。機上現像タイプのプレートは、自動現像機から印刷機にその場所が変わったというだけで、現像という不安定要素を経ることに変わりはありません。また、機上現像タイプのプレートは刷り出し時の損紙も余分に要しますし、現像によってプレートから取り除かれた非画線部の成分がローラーに付着してしまうこともあり、高価な印刷機に対して決して小さくはない影響を与えることになります。そのような点から、我々としましてはガム洗浄タイプの現像レスCTPプレートを第1にお勧めしたいと思います。

そのほかに、プリプレスワークフローシステム「アポジー」の最新バージョンとなる「アポジー12」、商業印刷やパッケージ印刷をターゲットとする全自動化された大型ワイドフォーマットのインクジェット印刷機「JETI TAURO」なども紹介する予定です。

 

――最後に今年の抱負をお聞かせ下さい。

岡本 このコロナ禍でも成功を収められている印刷会社の世界中での事例を集め、それをユーザーのみなさまに提供して、新規ビジネス創出のサポートをしていきたいと考えています。

これは極端な事例かもしれませんが、あるイギリスの大判インクジェットプリンターも備えたオフセット印刷会社では、どちらの事業領域でもコロナ禍の影響に見舞われていました。そのような中でイギリスでは、残念ながらお亡くなりになる人も増えていて、棺が足りないという事態に陥ったそうです。そこでその印刷会社は、棺を木材ではなく強化段ボールで作ってその表面に好きなデザインを印刷できるような仕組みを作りました。木材を使わないことによる森林資源へのやさしさ、出荷時は折り畳んで必要な時に組み立てられるため保管スペースや輸送コストがかからない点、そしてその人だけのオリジナルデザインが施せることから、現在はその生産に追われている状態になっているそうです。そのビジネスモデルを、他国の印刷会社が踏襲したところ、その会社もまた大きなビジネスに結びついたといいます。

このような、海外で成功を収めている事例を日本のユーザーにお伝えするとともに、必要となる設備や技術、ノウハウも含めた支援・提案をしていきます。産業の垣根は技術の進化によって低くなっていますので、これまでにはない新規ビジネスを展開してもらいたく思います。

新型コロナウイルス感染症が流行する前のような経済状況がいつか戻ってくるだろうという期待に頼らず、最悪の事態を想定して経営をしなければとならないと思っています。そしてユーザーのみなさまに向けても、最悪の事態を考えた経営をするにあたって、役に立てるような提案をしてまいります。最悪の事態であっても利益を出せるような事業基盤を作ることができれば、中長期的に安定した組織となりますので、それに沿った提案をしてまいります。

 

日本印刷新聞 2021年1月4日付掲載【取材・文 小原安貴】

 

 

 

 

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