2021年01月05日

昨年はコロナ禍によって印刷業界のみならず世界中のあらゆる経済活動が停滞して厳しさが増すとともに、変容した社会状況に合ったビジネスモデル・ビジネススタイルを構築することも求められる1年となった。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の確率を少しでも下げるため、人との接触を極力少なくするべく、自動化・デジタル化を推進することが印刷会社にとっても急務となっている。コダックジャパンでは以前からITの価値を訴え続け、印刷業界のデジタル化へのサポートを展開している。そのような同社の今年の経営方針について、藤原浩社長に話を聞いた。

 

――まず昨年を振り返って、印刷業界を取り巻く環境や新型コロナウイルス感染症の流行による影響についてお聞かせ下さい。

藤原社長

藤原社長

藤原 新型コロナウイルス感染症が流行していることにより、ビジネスの世界だけではなく、社会・生活のあり方全般が一変し、その出口がいまだに見えないことによる閉塞感が社会全体に漂っています。そのような中でもさまざまな工夫をして、このコロナ禍が明けたらどのような事業を展開すべきかを模索し、現状の経済・社会環境でも利益が出るような企業努力をされていらっしゃる企業も多くあります。もちろん、我々も同じ立ち位置におり、これは全産業で共通のチャレンジになります。

印刷業界では、5月頃の最悪期には売上が各社とも前年比で半減まで落ち込みましたが、その後は少しずつ持ち直し、直近では前年比7~8割位にまで回復していると感じています。今後、効果的なワクチンなどの予防策ができて市場が一気に回復するのか、それともさらに大きな感染流行の波がきてしまうのか、その予測をすることは難しいのですが、このコロナ禍によって社会やビジネス形態が大きく変わりましたので、売上や業績を回復させるにはそれにあわせて印刷会社でも新しいビジネスモデルを作らなければならないでしょう。

当社の主力製品であるプレートの需要は、印刷物の流通量が減少するとそれと歩調を合わせて影響を受けるものですので、みなさんと同じ目線に立ってビジネスや将来を見ています。そこで、印刷会社のみなさんのコストダウン、そして新たなビジネス創出にお役に立てるような活動を強化していきたいと考えております。

 

無処理版の割合が5割に到達 時代の主流は無処理版に

 

――昨年の貴社の業績はいかがでしたか?

藤原 まず、プレートのビジネスに関しましては完全無処理CTPプレート「KODAK SONORAプロセスフリープレート」の出荷量が継続的に伸びており、昨年初めは当社の全プレート出荷量の約3割程度を「KODAK SONORAプロセスフリープレート」が占めていたのですが、年末にはこれがほぼ5割にまで達しました。完全無処理CTPプレートの存在や有用性がオフセット印刷業界全体に認知・浸透しつつあり、今年中には6割位になるだろうと予測しています。この位の出荷率になりますと、「プレートの主流は完全無処理CTPプレートになった」と言えるのではないでしょうか。

機器販売に関しましては、コロナ禍による先行不透明感からか印刷業界でも投資意欲が減速し、投資や導入の決定を延期されるケースが多くありました。そのような厳しい状況の中でもインクジェット分野につきましては、将来のビジネスをしっかりと見据えた投資意欲が強い企業から引き合いを多く頂きました。drupa2020で発表を予定していました、より小さなインク液滴を高精度で着弾させることで最高品質な画像を生成するULTRASTREAMライティングシステムを初めて採用した「KODAK PROSPER ULTRA520プレス」という小型の新しいインクジェット印刷機の世界初号機を受注することができ、今春から日本国内の印刷会社で稼働する予定となっています。これまでのインクジェット印刷機よりも大幅なコンパクト設計を実現しましたので導入のハードルが下がったことでとても多くのお客様より引き合いを頂戴しています。また、「KODAK PROSPER6000プレス」は一昨年に導入頂いたお客様から2台目の増設発注を頂き、今月から実際の生産がスタートします。さらに、昨年初めには軟包装対応高速インクジェットシステム「UTECO Sapphire EVO プレス」の世界初号機を㈱金羊社様に導入して頂き、順調に稼働しています。おかげさまでインクジェット分野は当社にとっての大きなビジネスの柱へと成長しつつあります。

ワークフロー製品につきましては、新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点から、人と人との非接触が求められていることや合理化・IT化を図りたいというニーズから、ワークフローシステムの「KODAK PRINERGY」やWebポータルソリューションの「KODAK INSITE」への引き合いが増えてまいりました。また、ワークフローシステムのクラウドソリューションを導入いただく企業も徐々に増えてきております。

 

――昨年に開催される予定だったdrupa2020が延期され、そのdrupa2021までもが中止となりました。その影響と対応についてお聞かせ下さい。

藤原 我々は元々、drupaでは毎回、その時点ですぐに販売できる製品とソリューションを紹介するということを基本方針としています。したがいまして、昨年6月に発表しました全製品はすでに日本国内で販売しております。drupaが開催されないことはとても残念なことですが、それによって当社の顧客のニーズが減退することはないと考えております。

 

――ニューノーマル、新しい生活様式に対応した貴社自身の取り組みについてお聞かせ下さい。

藤原 当社は米国系企業ですので、そもそも外勤のスタッフはこれまでもリモートワークができるインフラの下で営業活動をしていましたので、あまり違和感はありません。それぞれの状況や必要に応じて出勤/リモートワークを使い分けています。

また、営業方法も変化しています。日本の印刷業界における営業スタイルは人の強いつながりが重視されていると感じます。しかし、コロナ禍によって直接訪問ではなくWeb(オンライン)面談を望む人が、印刷会社の経営者や意思決定者層でも増加してきており、そのような営業プロセスで受注にまでいたるケースもございます。やはり、みなさまの考え方も大きく変わってきていると感じています。

マーケティング活動につきましては、展示会などのイベントも少なくなっていますのでなかなか実際の製品の稼働状況をご覧頂くことができないという課題もありますが、Webなどを活用してなるべく多くの人に製品の魅力や情報をお伝えしてまいります。

また、イーストマン・コダック社は今年で創立140周年を迎えます。長い歴史の中で、環境活動や社会貢献を意識してさまざまな取り組みを行ってまいりました。直近の例では、昨年ですが米国・ニューヨーク州に手指用消毒液の材料を提供しましたし、さらに米国政府の支援を受けて医薬品の基本材料を生産するプロジェクトも準備しています。

 

今、DX化が喫緊の課題 時代に乗り遅れる危機

 

――いろいろな産業においてデジタルトランスフォーメーションが推進されています。印刷業界における対応について、どうお考えですか?

藤原 印刷産業はこのコロナ禍による社会変化とは関係なく、IT化が遅れている産業だと感じています。国内には建築や病院など、ERP(統合基幹業務システム)が適応しにくい産業がいくつかあり、印刷産業もその1つに挙げられています。しかし、このコロナ禍によってあらゆることの合理化が求められていますので、このタイミングを逃してしまいますとIT化・効率化の波に乗り遅れてしまう危惧もあります。印刷業界全体でデジタルトランスフォーメーションを推進すべく気運が盛り上がっていますので、今こそITを使ってビジネスを加速させる絶好のチャンスと言えます。

ただ、印刷業界全体に適応するスタンダードなソフトはありません。ERPパッケージは経営者の目線で決めるものですので、ベンダー任せではなく経営者がご自身の判断で進めていかないとうまくいかないでしょう。

 

――印刷会社のデジタルトランスフォーメーションを推進する、貴社のソリューションについてお聞かせ下さい。

藤原 枚葉オフセット印刷機の設備稼働効率は、平均すると3割台しかないと言われています。効率化・自動化を進める余地はまだまだたくさんあるのですが、そこに取り組む以前に人海戦術で対応する方法を取る印刷会社はいまだに多く、そのための多くの人員を抱えていらっしゃいます。ここにメスを入れることが大事なのですが、新しい取り組みに抵抗を示す保守的な考え方をされる経営者も多くいらっしゃいます。

とくにそれを感じるのは、完全無処理CTPプレートの「KODAK SONORAプロセスフリープレート」を採用するさまざまなメリットについて、頭ではご理解頂いても、なんらかの懸念や抵抗があるのかテストすらされないケースを散見します。テストをした結果として採用されないのであれば、それも経営上の1つの判断ですのでよろしいかと思います。ただ、無処理版はテストをする上で新たな設備や追加投資などは一切かかりません、言わばノーリスクなのです。コスト、現場での実運用、環境配慮といった点でのメリットが多々あり、しかもノーリスクであるにも関わらずテストをされないのは、せっかく新しい事柄・会社の進化のきっかけに触れる機会を逸してしまうことになります。

このような保守的なスタンスによって会社が進化する機会を逸してしまうことは、デジタルトランスフォーメーションやIT投資についても同じです。ぜひ早く取り組んで頂きたいと思います。

デジタルトランスフォーメーションというのは、簡単に言えばIT化のことです。先程も触れましたが、昨年はワークフロー製品への引き合いが増えました。顧客や取引先、また社内のやり取りなどをリモートでやりたいというニーズは、印刷会社内だけでなく社会全体のニーズとして間違いなく増えています。ユーザーである印刷会社のみなさまがデジタルトランスフォーメーションの実現へとつながる機器、システムの製品力やサポート力を強化していく方向で我々も取り組んでいます。

 

――それでは今年の貴社のビジネスにおける目標をお聞かせ下さい。

藤原 コロナ禍の影響がどのくらい続くのか、それによって状況は変わるのでしょうが、戦略は明確です。まず1つは、完全無処理CTPプレート「KODAK SONORAプロセスフリープレート」をさらに市場で拡大し、無処理版を使用するメリットを印刷業界で広く享受してもらうことです。「KODAK SONORAプロセスフリープレート」の国内累計顧客数は、現段階で累計650社に到達しており、毎年100~150社増のペースで拡大してきています。今年もさらに100~150社増の拡大を目指してまいります。

そして、インクジェット分野のビジネスをもう一段階加速させたいと考えています。社会のペーパーレス化はこれからも進むので、印刷物の減少傾向は続くと思われます。それを見越して印刷物の付加価値を高めていかなければならないでしょう。そこでお役に立てるのがインクジェット印刷機です。バリアブル印刷による高付加価値化、効率的な生産によるコストダウンに貢献する提案をしてまいります。

 

ユーザーのビジネスの成長を支援する経営パートナーに

 

――最後に、印刷業界へのメッセージをお願いします。

藤原 印刷業界の進化にはいくつかの重要なポイントがあると思っています。

まずは世代交代です。世代交代を促進しないと印刷業界がIT化を図る上での障害になってしまいます。高齢層だけで指揮をとってデジタルトランスフォーメーションをするのは難しいので、迅速な世代交代が必要になると思います。それに付随しますが、デジタルトランスフォーメーションを図る上で必須となる、従業員にITリテラシーをつける教育、組織、方針を作ることも鍵となります。

次に、デジタル化が進んでいる他産業・他社との人材交流です。先進的な企業と交流しなければ孤立してしまいます。他業界の企業と一緒になって、なにができるのかを考えることが、新しい事業の創出や企業の成長につながります。そして、もっと積極的に他産業とのアライアンスを働きかける風土を作り、それを印刷と組み合わせることによって生まれる宝の山があることを認識しなければなりません。

印刷業界内での協業や統合も重要なポイントとなります。国内の印刷会社は供給過剰な状況ですので、その能力を組み合わせることによって強化が図れると思います。また、BCPという観点からも、なんらかのトラブルや災害が起きた時の備えをしておき、ソーシング先についても1社だけに頼るのではなくマルチでソーシングすることでセキュリティーを強化しておくことを考える必要があると思います。

元々、印刷業界を取り巻く状況は厳しいものがありましたが、そこにコロナ禍による影響が大きくのしかかってきています。そんな状況にあるみなさまに対し、少しでもビジネスの将来性や希望が見えるよう、新たな付加価値創造法やコスト構造の改善策など、たくさんのポケットをもって支援・お手伝いをしていきたいと考えております。

 

日本印刷新聞 2021年1月4日付掲載【取材・文 小原安貴】

 

 

 

印刷業界 インタビュー 印刷業界最新情報-関連の記事

PAGE TOP