独・ハイデルベルグ社は、枚葉オフセット印刷機「スピードマスター」シリーズが新世代機へモデルチェンジすることを発表した。
4月から製造・出荷されるこの新ジェネレーションモデルでは自動運転を実現するPush to Stop機能やプリネクトクラウドへのインターフェースをすべての機種で標準搭載し、生産性やプロセスの信頼性、利益率をさらに向上させるナビゲート印刷/完全自動運転印刷を可能にしている。
同社ではこの開発にあたって世界中の1000社以上の印刷会社を対象に調査し、印刷業界が次に解決すべき課題は、▽ますます増大する複雑さ、▽スキル不足、▽競争の激化、▽デジタルプラットフォームを含むバリューチェーンの広がり--の4つの領域に集約されると認識。
これらすべての課題を解決することを目指し、デジタル化されたスマート印刷工場にシームレスに統合するスマートな生産機として、インテリジェントかつ高度に自動化された新ジェネレーションの印刷機を開発した。
使用条件・印刷分野・機械仕様を問わず、世界中で稼働しているすべての「スピードマスターXL106」の総合設備効率(OEE:印刷機の生産性を測る指標)の現在の平均値は約27%となっている。
これは、理論的にはまだ73%の生産性向上の余地があることを意味している。
その余地についてデータを詳細に分析すると、理由のおよそ半分は機械的・技術的側面に起因するもので、残りの半分は人為的な理由・運用上の理由になる。
枚葉オフセット印刷機は最近15年間での技術/機能的な進化によって、理論的には準備時間を9割以上削減できるようになった。
しかし、実際の印刷現場ではそれだけの準備時間短縮効果は得られておらず、またOEEも同じようには向上していない。
このような現象が起きているのは、もっとも適切な操作や効率的な運用・使用法ができていないことによるタイムロスがあることに起因する。
同社ではこのような人為的な理由・運用上の理由の部分、使用法次第で改善可能な要因の部分を「イエローバー」と呼び、新ジェネレーションモデルの「スピードマスター」ではPush to Stop機能と印刷オペレーターの動きを助ける高度な自動化・操作性をもって「イエローバー」を減らすアプローチをする。
同社枚葉オフセット印刷機部門の責任者を務めるライナー・ヴォルフ氏は「イエローバーを最小限にしていくためには、インテリジェントに工場内をネットワーク化することが求められる。つまり、印刷オペレーターが現段階の能力から大きく拡大させられるように、作業負荷自体、そしてもっとも作業を効率的にするためにはどうすべきなのかという判断・思考を助けるような統合されたシステムが必要となる。これは陸上にたとえると、短距離走ではなくマラソンのようなものとなる。最高の生産性が短期間ではなく、機械の寿命が終わるまで継続できることが重要だからだ。このことこそが我々がユーザーに提案したい付加価値で、そのためのデジタルによる統合化、卓越した先進技術、最先端のサービスコンセプト、新しいアウトプット志向のビジネスモデルとなる」と語っている。
【インテリランソフトウェア】
印刷機側でできることはすべて自動で処理するデジタル印刷準備ソフト「インテリスタート3」が、「スピードマスター」の全機種で利用可能になる。
また、印刷機制御コンソール「プリネクトプレスセンター」に設置される24インチマルチタッチスクリーンでは、印刷作業中に以降のジョブ順一覧を使って次の仕事替えの準備もできる。
「インテリスタート」は準備プロセスを効率化するソフトとなるが、新しい「インテリラン」機能では印刷中の作業・行動についてのナビゲーションも可能としており、タイムロスを避けるために必要な作業や情報を、自動的に印刷オペレーターに状況に応じて指示・提供する。
たとえば、印刷中のジョブが完了する前に、次の仕事を準備するための画面が表示されて、印刷オペレーターはタイミングの良い時に必要に応じてその作業をすることができる。
新しい「プレスセンターモバイルアプリ」では、印刷オペレーターは接続されたすべての印刷機の現在状況、変更の概要も含めたジョブの一覧、印刷資材の状況などの情報をタブレットやスマートフォンで確認することができる。
【インテリライン】
遠くからでも機械の状況をLEDの色によって確認できるようなデザインを、各印刷ユニットとコーティングユニットに施している。
印刷機が良品を印刷しているときには青のLEDライトが点灯し、印刷機が自動で準備のプロセスにあるときには緑が点灯する。
また、人の介入が必要な時には印刷ユニット、コーティングユニット上のLEDライトが黄色に変わる。
【インテリジェントデジタルアシスタント】
新ジェネレーションの「スピードマスター」ではAIがいよいよ印刷現場でも利用され、印刷オペレーターの能力を大きく拡大させるためのサポートをする。
たとえばプリネクトスケジューラーのジョブプランナーを使うと、納期、用紙、絵柄面積率など、さまざまな要素や条件に基づいてジョブ順を最適化できる。
インクリメンタルメイクレディと呼ばれるこの機能によってジョブ間の変更をできるだけ小さくすることで、実際にテスト運用している印刷会社では、前ジョブの本刷り終了から次ジョブのOKシートが得られるまでの時間が約2分、その間の損紙は40~70枚で済んでいる。
また、印刷オペレータは一般的に、しっかりと洗浄するために洗浄プログラムを長めに設定する傾向にあるが、新しい「ウォッシュアシスタント」機能では、ジョブ内容や機械の状況に応じて最適な洗浄プログラムを選択する。
もちろん、濃い色から薄い色への色替えも認識し、そのような場合は自動的に長い洗浄を選択する。
これにより洗浄時間が削減できると同時に、洗浄液や洗浄布を節約することにもつながる。
さらに、印刷事故を未然に防ぐためにパウダーを多めに使う傾向もある。
過度のパウダー使用は、デリバリーでの洗浄のためのダウンタイムを増やすことになり、さらにポストプレスでのトラブルの原因にもなる。
そこで新しい「パウダーアシスタント」機能では、必要なパウダーセッティングを用紙や絵柄面積率に基づいて設定する。
【プリネクトインプレスコントロール3】
刷り出し時の色/見当合わせ作業を自動で行うインライン色調管理装置「プリネクトインプレスコントロール3」がさらに進化。
インラインで印刷物の欠陥検査を行う「プリネクトインスペクションコントロール3」による検品も含めて、印刷用PDFデータと比較して調整できるようになり、印刷品質がOKシートに到達すると自動的に良品カウンターがオンになる。
インキプリセッティングのための「カラーアシスタントプロ」の学習機能も自動化され、「プリネクトカラーマネジメントシステム」との組み合わせでインキのプリセッティングの完全自動学習を可能にした。
「カラーアシスタントプロ」の自己学習によって自動的にインキのプリセッティングを最適化し、セットアップのための時間と損紙を節約できる。