2020年01月06日

全国の中小印刷業者約4500社が加盟する全日本印刷工業組合連合会(臼田真人会長)において、中小印刷業の持続可能な発展に向けた数々の課題に取り組んでいるのが産業戦略デザイン室である。今年3月に発表予定の新たな印刷産業成長戦略ビジョンには業界内外からも注目されている。そこで、滝澤光正委員長に新ビジョン構想をはじめ、令和元年度各種事業の進捗状況について語ってもらった。さらに、昨年11月に行われた次期(令和2・3年度)会長候補者を決める常任役員候補者選考委員会で推薦され満場一致で承認された滝澤氏に自身がめざす組合運営について語ってもらった。

(聞き手=市毛雅也)

「日本印刷新聞」2020年1月1日付掲載

 

地域をまとめる役割担う

 

滝澤光正委員長

滝澤光正氏

--はじめに、現在の景況感についてお聞きしたい。
滝澤 それまでもあまり荷動きはよくなかったが、ちょうど1年前の年末に製紙各社から印刷・情報用紙の値上げが発表されて以降、印刷物の出荷が低調に推移しているのは統計上の数値を見ても明らかである。
やはり用紙の値上げを機に紙メディアから電子メディアへの転換が市場で起きているのではないか。従来型の印刷物が厳しい状況であるのは否定できない。とはいえ、紙メディア以外にもさまざまなサービスを展開して業績を伸ばしている元気な組合員企業も全国各地にいるのも現実である。
 

--そういう中、今年度末に新産業成長戦略ビジョンを発表する予定になっているが、どのような内容になるのか。
滝澤 産業戦略デザイン室は、ことし3月までに新たな成長戦略ビジョンを提言しようと今年度(令和元年度)活動してきた。2013年11月に発刊した印刷産業成長戦略ビジョン2013『印刷道~ソリューション・プロバイダーへの深化~』の作成にあたって、ステークホルダーダイアログを全国5カ所で開催した。日々、業務の中でわれわれと密接に関わっている方々から印刷業に対するイメージや苦言、そして未来への期待などを含めて意見を伺った。
『印刷道』の発刊から約6年が経過して、働き方改革、IoT、AIなどわれわれ印刷業を取り巻く社会環境も変わってきていることから、新ビジョン策定にあたってもう一度ステークホルダーダイアログを実施したほうがよいという意見が委員からあがったことから、昨年9月から10月にかけて、北海道、東北、東京、中部、中国、四国の前回を上回る全国6カ所でステークホルダーダイアログを実施した。参加者の意見を聞いてみると、まだまだ印刷業に期待される部分が大きいことがわかった。とくに、地元の印刷業に地域のまとめ役としての役割を期待されているということは前回と同様だった。
 

--参加者から当時と異なる意見などはありましたか。
滝澤 こちらからお声掛けして参加してもらったので、われわれを前にして辛口の意見は言いづらかったと思うが、もう少し積極的に役割を果たして欲しいという意見が多かった。
 

--ステークホルダーが印刷業に期待する『役割』についてもう少し詳しく説明してほしい。

滝澤 情報コミュニケーション産業として印刷会社の持つ高い専門性や知識をもっと活用するべきで、印刷業界の存在価値は高い。もっと自分たちから発信したらどうかと、われわれに期待する意見が多くあがった。
 

--経済産業省は令和元年度戦略的基盤技術高度化・連携支援事業(印刷産業における取引環境実態調査)を実施したが、その目的は何か。
滝澤 わが国の印刷産業は、出版印刷、商業印刷などあらゆる分野における印刷を取り扱う重要な産業であるが、その大部分が中小企業であり、取引上の立場も弱い。従来は、大企業など取引先企業との長期的な取引慣行に基づく系列取引が一般的だったが、昨今デジタル化の進展に伴いペーパーレス化による国内需要の減少と新たな印刷サービスが登場する中で、系列取引は徐々に崩れ、取引先企業と印刷企業との取引上の問題が顕在化するようになった。一方で、これら企業の取引先の中心となる大企業などは、経営層やコンプライアンス部門は適正取引の知見や関心はあるものの、印刷企業と取引を行う調達部門などにおいては、下請法などの法的知識を十分持ち合わせていない場合が多いと考えられる。
また、地域では中小企業経営者の高齢化が進み、このような環境の変化への対応に限界があり、中小企業の維持や生産性向上のため事業承継の円滑化に向けた取り組みが容易に進まないという問題を抱えているというのが背景にある。
そこで、わが国の印刷産業を巡る市場環境の変化を踏まえ、中小印刷企業全般に共通する財務情報、経営情報および設備投資動向および取引実態の状況などを把握するための実態調査を実施するとともに、印刷産業の持続可能な発展に向けた方策について報告書を取りまとめるのが今回の調査の目的である。
とくにわれわれ中小印刷産業においては、以前から肌感覚として供給過剰、それによる価格競争が起きているということがいわれて久しいが、なかなかこの辺の実態をエビデンス(=証拠、根拠)をもって的確に供給過剰の実態を把握するところまでできていなかった。日頃からわれわれが経済産業省メディアコンテンツ課といろいろお話しする中で、印刷産業が供給過剰なのかどうか、需給の実態を国として調査して、その結果を今後の政策に活かして欲しいとかねてよりお願いしていたことが、今回このような形で調査していただけることになった。
国は、全国の印刷会社を対象にした実態調査を昨年12月に済ませている。また、全国の印刷会社10社程度を選定しヒアリング調査も実施すると伺っている。これらの調査内容を総合的に分析し、その結果を調査報告書として取りまとめる。さらにことし1~2月に有識者会議を開催し、これらの内容を踏まえた報告書を3月に作成する。
調査結果を今後の国の施策に反映させていただくと同時に、われわれとしても業界としてどういう方向を目指すべきなのか、新ビジョン作成の基礎調査にもなる。産業戦略デザイン室では、国の調査を横にらみしながら、われわれの新ビジョンを3月までに策定したいと考えているが、組合員に発表するのは新年度に入る4月もしくは、5月の総会になるかも知れない。

 

反響大きいCMYKプロジェクト「大喜利印刷」

 

--広報戦略の一環として、昨年7月からCMYKプロジェクト「大喜利印刷」第2期プロジェクトをスタートした。
滝澤 おかげさまで、一昨年、対外広報戦略の一環として発足した、実験的クリエイティブユニット「CMYK」が印刷業界のクリエイティブ力とポテンシャルを内外にアピールする取り組みの第1弾として『大喜利印刷』と題し、4社4チームが9つのプロダクトを開発発表し、テレビやマスコミでも報道されるなど、国内外で大きな反響があった。1年で終わらせることなく、現在、第2期プロジェクトメンバー11社が取り組んでいるところである。
『大喜利印刷』とは、世の中でつぶやかれている、『こんなもの欲しい』『こんなものがあったらいいな』という声を、われわれ印刷会社が持っているポテンシャルでそのつぶやきを印刷廃材を再利用して勝手に実現するという、少しくだけた企画である。第1期プロジェクトメンバーの努力のおかげで、いままでの組合が取り組んできた事業とは少し視点が変わって、ユニークなプロダクトをいくつも世に出すことができた。それに対して、NHKや大手新聞にも取り上げていただいた。
一見するとふざけた企画だが、われわれは世の中の人たち、とくに若い世代の人たちに、印刷会社は夢のある、柔らかい発想ができる業界であることをアピールすることを目的に取り組んでいる。
今回の第2期プロジェクトでは、11社のメンバーが一生懸命ツイッター上につぶやかれている世間の声を拾って、それをカタチにするという作業に取り組んでおり、2月にはできあがるというスケジュールで進めている。
2月にはプロダクト発表会を開催するとともに「大喜利印刷」専用サイト上にも公開する予定。
 

--前回は海外でもプロダクトを公開したが。
滝澤 第1期プロジェクトでは、経済産業省のお誘いを受けて、昨年3月に米国テキサス州オースティンで開催された「サウス・バイ・サウスウエスト2019(以下、SXSW2019)」の会期中、経済産業省主導で設営された日本館「THE NEW JAPAN ISLANDS」に、大喜利印刷で製作したプロダクトを出品したという経緯がある。現地でも非常に好評で、高い評価を得たという事実がある。米国人のみならず来場された世界の人たちにも日本の印刷の新しい力を示すことができたと思うが、SXSW2019には日本の著名なメーカーや、日本のマスコミの方々も大勢いて、海外展に出品することによって、日本国内でも再評価されるという効果があることも実感できた。
第2期プロジェクトメンバーにもグローバルなかたちで発信できるステージを用意したいと考え、毎年イタリア・ミラノで開催されるミラノデザインウィークに出品することを計画している。
 

--第2期プロジェクトの参加メンバーが11社になった理由は。
滝澤 参加メンバーには、質の良いプロダクトを製作してもらうため、前回同様に企画パートナー会社にもお手伝いしてもらっている。目の届く範囲ということで今回公募していただいた中から11社を選定させていただいた。
『大喜利印刷』プロジェクトは、組合主導で終わるのではなく、「ぜひ、当社でもこういうことにチャレンジしよう」という組合員が全国各地で自然発生的に取り組んでもらえるとうれしい。全国の印刷会社が夢とアイデアを自ら発信できるような取り組みに1社でも多くチャレンジしていただけると、総体として印刷会社に対する世間のイメージも変わってくるのではないか。
 

--ちなみに、SXSW2019で人気のあった第1期メンバーのプロダクトは何か。
滝澤 「早弁専用ゴーハン英和辞典」(nakabi)は、日本では弁当箱の中身が真ん中に梅干しを置いた日の丸弁当だったが、海外向けにサンドイッチに変えてみた。「パラパラまんがマシン『P16号』」(平山印刷)は動きがあるので非常に興味を持ったようだ。
 

--第1期プロジェクトでビジネスに発展したプロダクトはありますか。
滝澤 「ぜひ、当社で商品化したい」というようなお声掛けをいただいたケースはいくつかあると聞いている。

 

「SR調達」研究に力注ぐ

 

--成長戦略に関わる各種政策提言の一つとして、SR(社会的責任)調達の研究に取り組んでいる。
滝澤 全印工連では、以前からCSR認定制度を運営しており、業界団体でCSR認定制度に取組んでいる業界はほかにないと思う。全印工連では2019年12月現在、CSR認定企業は116社となっている。
成熟した日本社会において、行政、とくに地方自治体の調達に関して、従来は安ければいいというのが第一義だった。しかし、落札企業が不祥事を起こして議会から問題を指摘される事例が散見される中で、長い目で見た時に、多少価格が高かったとしても地域においてまじめに企業経営している事業者が評価されるべきである。調達側もそういう視点を持てば地域社会がよりよくなるのではないか。われわれももちろん、CSR認定制度をはじめ、JPPS(日本印刷個人情報保護体制認定制度)、環境推進工場登録制度など、いろいろ取り組んでいる実績があるわけだが、調達側にもっとそういう視点で評価してほしいということをわれわれ供給側から訴えることで少しでもそういう機運を広めるよう、デザイン室の中に「SR調達研究部会」を立ち上げてこれまで活動してきた。調達側の行政はじめ、地方自治体の議員、すでにSR調達に取り組んでいる大手メーカーなどからお話を伺ってきた。
たとえば、大手企業で海外に下請け工場がある場合、児童労働を行っていないか、劣悪な条件で働かせていないか、環境保護に努めているかなど、そういう視点が今非常に重要視されてきている。
東京都印刷産業政治連盟が昨年10月に自民党本部において自民党東京都支部連合会との定例ヒアリングにおいて令和2年度国家予算・税制改正等に対する要望の一つとして、行政における調達関係に関してSR調達の導入・推進を図ることを訴えた。
1つは、調達を経済合理性の側面だけでなく、温室効果ガス削減、男女共同参画の推進など、社会の諸問題への貢献を考慮した基準によって見直すことで、調達行為そのものが社会の諸問題を解決することにつながる「SR調達」の導入・推進を図ること。
さらに、環境に配慮した瑕疵のない安心・安全な製品の提供を担保するため、入札の際には、グリーンプリンティング(GP)工場認定、環境推進工場、CSR認定など各種環境関連資格の認定取得企業への優先発注を行うなど、インセンティブやアドバンテージの導入を積極的に図ることを要望した。
 

--SR調達研究部会を設置して1年が経過して具体的な成果が期待されていると思うが。
滝澤 CSR推進委員会が3月10日に横浜開港記念館で「全印工連CSRサミット」を開催するが、分科会の一つして、SR調達に関するシンポジウムを開催する予定である。ぜひ、自治体はじめ、企業の発注担当者、地域の方、これから社会に出る学生などぜひ多くの方にご参加いただきたい。シンポジウムの結果は、その後、冊子にまとめて各県工組の理事長に配布して、地元の自治体に対してわれわれのSR調達に対する考え方や取り組み姿勢を理解してもらうためのツールとして活用してもらう。
 

--令和元年度印刷業経営動向実態調査が今月末まで行われている。調査内容のポイントは。
滝澤 これは毎年実施している定期調査なので、調査の継続性を保つため、調査項目はあえて変えていない。毎年の傾向がどのように変わっているのかを把握するのも目的の一つである。さきほど、経済産業省が実施する「印刷産業における取引環境実態調査」は日本印刷産業連合会の会員10団体の組合員企業が対象だが、経営動向実態調査はあくまでも全印工連独自の調査なので組合員4500社を対象に実施することで組合員の現状を正しく理解する。その上で、組合事業にも反映させ、さらには行政や議会に各種政策要望する際の基礎、根拠となるわれわれの現状の経営指標という位置づけである。
 
--あらためて、新ビジョン策定にあたってのポイントを聞きたい。
滝澤 今回の新ビジョンは、あくまでも、経済産業省の取引環境実態調査が横にあって、印刷産業が供給過剰にある実態を明らかにする中で、われわれ中小印刷業が向かうべき方向性を考察するための提言である。
2018年に刊行した『全印工連2025計画 新しい印刷産業へのリ・デザイン』の次の成長戦略ビジョンというのは、次年度以降策定していかなければいけないと思っている。

 

「共創ネットワーク」が重要

 

滝澤光正委員長

滝澤光正氏

--最後に、昨年11月に行われた常任役員候補者選考委員会で次期(令和2・3年度)会長候補者に推薦され、満場一致で承認されました。そこで抱負とともに組合運営に対する考え方をお聞きしたい。
滝澤 水上光啓元会長がよく言われたことだが、「連帯」「対外窓口」「共済」の3つが組合の基本的な機能であり、これはこれからも変わらない。

 

「連帯」というのは、経営者がそれぞれ会社を経営する中で、やはり同じ立場の経営者が集い、情報交換していく中で貴重な情報を得られる場であることは間違いない。
「対外窓口」とは、社会、マスコミ、行政、議会の方々にわれわれ印刷業界が置かれている現状や要望を伝える、取りまとめ役としての役割がある。さらに対外的に今のわれわれの姿を正しく発信する「対外窓口」としての役割がある。
「共済」とは、その名のとおり、全国の中小印刷業者約4500社が組合のもとで結束することによって、そのスケールメリットを活かした各種共済事業はじめ、特別ライセンスプログラムなどの共同購入事業は今後も継続すべきであろう。
 

1999年に中小企業基本法が改正され、すべての中小企業の底上げを図る護送船団方式だった「中小企業近代化促進法」から、独立した中小企業の多様で活力ある成長・発展を支援する「中小企業経営革新支援法」へと国の中小企業政策が大きく方向転換した。つまり自ら経営目標に向かって進んでいく中小企業に対して国は援助していくという政策に変わった。
組合としては従来は構造改善事業等を通じて設備の近代化を行っていたという過去の経緯があるが、もはや、各社がめざすべき方向性というのは、各社が独自に判断して推進していくべきものであり、組合として行うことは、1社では解決し得ないさまざまな問題、たとえば官公需問題や共済などに対してサービス提供していくことに注力していくべき時代なのではないかと感じている。
今年度中にまとめる新ビジョンによる提言では、供給過剰の状態が続く中、全印工連では中村守利元会長時代に共創ネットワークを提言した過去の経緯がある。
そして、現在では経済産業省が「コネクテッド・インダストリー」を推進している。
しかし、印刷産業、とくにわれわれ中小印刷業においては、まだまだ各社のIT化が進んでいない実情がある。
供給過剰の中、今後各社が収益を上げていくには、それぞれが独自に得意分野を研ぎ澄まして、そこで利益を稼いでいく必要がある。各社がすべての生産設備を横並びで揃えるということはますます価格競争を招いてしまうことになる。
そこで必要になってくるのが、言い古された言葉かもしれないが「共創ネットワーク」である。お互いが横のつながりを利用して、たとえばプロダクトに強い会社、あるいは企画・デザインに強い会社、セールス・プロモーションに強い会社などそれぞれ独自の顧客接点を活かしながら、足らざるところを補っていくことが必要ではないか。協業する際に、最低限のデジタル化は仕事をやり取りする上で必要であろうと議論しているところである。まずはできるところからということになるが、組合としてまだITが導入できていない会社に対して、低廉な価格で導入できるMISの斡旋などはこれから検討していく必要があると考えている。
効率的なプロダクションが求められてくる。その中で考えられる最速の物理的ネットワークを構築すること。それは、昨年の全印工連フォーラムで臼田会長が提唱した『デジタルトランスフォーメーション(DX)』の構築である。MISの導入によって間接業務をなるべく極小化して、稼げる体質になってもらう。各社が適正な生産能力をもってそれをDXでつないで仕事のやり取りができるようになっていくお手伝いを組合がやるべきなのかと考えている。最初は工場間連携などのネットワークモデルを示すなどから取り組んで、将来的には物流効率化を推進する共同配送なども研究する必要がある。
以前から提唱している組合員1社1社がソリューション・プロバイダーになるということは引き続き各社がめざしていくべきだと思う。

 

 

 

 

PAGE TOP