2019年11月26日

同業者からの下請けを専門とした営業展開をしている㈱境英印刷(本社・東京都荒川区南千住3の6の4、大野秀一社長)では、同業者が外注に出す傾向にある小ロットの仕事を小回り良く生産するべく、4色機6台と2色機1台の計7台26胴すべての印刷機を菊半裁で統一するというユニークな設備構成をしている。そのような同社では昨年3月から、インキ乾燥にまつわる印刷事故の低減と印刷品質向上を図ることを目指して、油性印刷による速乾印刷に取り組み始めている。そして、速乾印刷に取り組むための最適な材料として、使用するプレートをアグフア社製の現像レスCTPプレート「アズーラ」へと切り替え、その高い印刷技術を習得した。

 

初めて見た速乾印刷の品質と技術力の高さに感嘆

さらなる高みを目指して速乾印刷技術の習得に乗り出す

 

菊半裁機が整然と並ぶ工場

菊半裁機が整然と並ぶ工場

同社は昭和44年に創業し、今年で50周年を迎えた印刷会社。創業時から今まで一貫して、仲間仕事を専門とした営業展開をしており、同業者というプロの目にも適う品質の印刷製品を提供し続けてきている。あらゆる印刷製品を受注するものの、これまではチラシやパンフレット、名刺といった薄紙印刷が中心だったが、近年では市場傾向がそのまま同社の受注内容にも反映され、小型の箱・紙器・POPといった厚紙印刷の仕事が増加しているという。ただ紙の薄厚に関わりなく、すべてが菊半裁機という同社の特徴的な印刷機のラインナップからもわかる通り、平均通し枚数は2000~3000という小ロットの仕事が主となっている。

これまでの仕事においてとくに問題があったわけではなかったが、ちょっとしたきっかけで速乾印刷をしている印刷会社へ見学をする機会があり、そこで大きな衝撃を受けたという。「当社は多くの印刷会社からさまざまなデータを受け取っているので、目視による検版・確認は必要となる。機上現像のCTPプレートは視認性が低いという事前知識があったので、当社では使うことはないという意識だった。しかし、誘いを受けて速乾印刷をしているという、東京・三鷹にある㈱藤和に見学に行かせてもらった。普通の用紙で裏付きをさせないことは当社でもできるが、特殊紙やトレーシングペーパーなどであってもまったく裏付きが起こらないところを目の当たりにした。当社では考えられないし、信じられないことで、しっかりと知識を学んで速乾印刷技術を習得し、適切な材料を選択し、印刷機のメンテナンスをすればこれほどまでに素晴らしい印刷物ができるのかと感嘆した」(同社・大野社長)

 

大野社長

大野社長

同社の決断と行動は早かった。藤和の仕事ぶり、すなわち「アズーラ」を使って印刷時に湿し水量を限りなく絞った速乾印刷を実現したいという雰囲気が社内に充満し、それが同社の目標となった。そして、すぐに藤和に教えを請うたところ、快く引き受けてもらったので、セミナーを開講してもらって必要となる知識を習得したり、材料の選定、印刷工場環境の作り方、メンテナンスの方法など、さまざまなノウハウを教えてもらい、すぐにそれを自社工場で採用・実践・挑戦をしていった。同社にとって「アズーラ」に切り替えた理由は、現像レス化ではなく速乾印刷の習得のため、言い換えれば藤和を追いかけてのものだった。

同社では平均的な月で1ヶ月に約2000版を1台のCTPで出力するが、それを全量「アズーラ」へと変更し、そのCTPラインは「アズーラ」を出力するための専用ラインとしている。「巷では扱いにくいプレートだと言われているようだが、当社では単に自動現像機をガムクリーニングユニットと入れ替え、CTPの出力カーブを変え、プレートを替えただけで、刷版側でも印刷側でもなにも問題なく運用できている。機上現像方式の現像レスプレートとは違って、版面の絵柄がしっかり見えるので使い勝手もいい。現像液の交換をしなくてもいいし、また現像液の購入費や現像廃液の処理費の負担もないのでコストダウンにもなっている」(大野社長)

 

印刷オペレーターの意識向上にも速乾印刷が一役

これまでにはできなかった仕事の取り込みにも成功

 

速乾印刷に取り組んだことで、印刷オペレーターの意識も変わり、湿し水を絞った印刷ができるという「アズーラ」の性能を引き出そうとするようになった。藤和が示してくれた姿が全員の記憶にあるので、自分達にもできると信じて実践していくことができ、その効果としてパウダーの購入額は以前の半分以下になったという。これも同社の実力アップの証であり、目に見える形での速乾印刷の成果なので、印刷オペレーターにとっても励みになっている。また、印刷物の品質にも変化が現れている。「速乾印刷をするようになってインキの裏付きがなくなったこともあるが、インキの付きも良くなって見栄えがする印刷物ができるようになった」(大野社長)

もちろん、インキが速く乾くことについても大きな効果があり、コート紙だけではなくファンシーペーパーであっても1日で両面印刷することが可能になったということだ。これまでならば納期の関係で断らざるを得なかった仕事も取り込めるようになり、同社がそのような対応力を備えたことが徐々に顧客に認識され、その手の仕事も増加している。

 

アズーラ用のCTPライン

アズーラ用のCTPライン

印刷機のメンテナンス頻度は月1回程度だが、これまでと大きく変わった点としてインキローラーの交換頻度を早めている。「これまではローラーの表面がガサガサになるまで使っていたが、それではいい印刷物を作ることはできないと悟った。どのようなものであっても、できればギリギリまで使うと経済的ではあるが、きちんと替えるべき時に替えることが大事だ。もし印刷事故があれば検品や刷り直しなどで大きなダメージを負う。これまではそういうケースもあったが、速乾印刷に取り組み、メンテナンスや材料の交換もきちんとするようになってからというもの、印刷事故は激減し、材料の交換頻度が上がったことによるコストアップよりも印刷事故による損害が抑えられた効果の方がはるかに上回っている」(大野社長)

同社では今後、さらなる印刷技術向上を図り、パウダーレス印刷化を目指していくという。また、近い将来に5色印刷機を導入することを決めていることから、品質が高い多色印刷物の製作もできるようにして、印刷のスペシャリストの道を志向していく。現像という不安定要素がないためデータに忠実な網点出力ができ、かつ湿し水量をしっかりと絞ることができる「アズーラ」をもって、同社ではそのスペシャリストへの道を突き進んでいく。

 

日本印刷新聞 2019年11月25日付掲載【取材・文 小原安貴】

 

 

 

 

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