2019年11月13日

東京都印刷工業組合の臼田真人理事長に組合創立70周年を迎えた現在の心境とともに、東印工組の現状と課題、新たなビジョン構想について聞いた。

 

(「日本印刷新聞」編集部)

 

 

 多くの先達の知恵と行動の結果、現在がある

 

――創立70周年を迎えられた現在の心境は。

 
臼田 創立から今日に至るまで、多くの先達たちが知恵のみならず行動を共にし、その結果、現在があるということをわれわれは決して忘れてはならない。そして、そこから学びを得なければならない。

 
われわれが肌で感じることのできるバブル崩壊後の1990年代後半から振り返ると、1999年に国の政策方針が中小企業近代化促進法から中小企業経営革新支援法に変わった。これは護送船団方式を止めて、それぞれの企業が自分たちで経営目標に向かってアクセルを踏み、ハンドルを切っていかなければいけないという国からの発信である。これは決して印刷産業だけに求められたものではなく、その先の今まさに起こっている人口減少、少子高齢化をすでにデータとして持っていた国の方針であり、そのための準備期間が1999年にもうすでに始まっていた。
 
 

臼田真人

臼田真人理事長

 
それから約20年経った今、製造業の中で印刷産業はその準備をスタートするのが非常に早かった。これも当時の中村守利第15代理事長が未来を見据え、現状を掌握した上で、組合員に対する将来ビジョン、そして国の方策を示した上で進めた全印工連2005計画、そして、それに基づいて出てきたキーフレーズ「共創ネットワーク」を推進した。その流れを受けて、浅野健第16代理事長のもとに業態変革の推進、その次の水上光啓第17代理事長の時には業態変革の実践を経て、島村博之第18代理事長の時に改めて業態変革を具体化させる方向性、いわゆるソリューション・プロバイダーとしての6つの方向性の具現化について研究し、組合員に対して時代の変化に適切に対応すべく、ロードマップを展開してきたという経緯がある。

 
過去20年を振り返っても、まさに目まぐるしく変革するわれわれの経営環境、そして国の経済環境に適した事業推進が行われてきたことについてもここまで導いてくださった先輩方に対する大きな敬意と感謝の気持ちしかない。

 
70周年を迎えて、われわれも時代の当事者として、未来を見据え、組合員が今後10年先、20年先まである程度見通せるようなロードマップをお示ししなければならない。執行部のみならず、東印工組22支部の支部長と一丸となって事業推進して、さらに後世につなげていく責務がわれわれにあるという思いで70周年を迎えたい。

 

 

市場規模は大きいが小規模性が高い

 
――東印工組の現状と課題に触れる前に、改めて東京都の市場特性を聞きたい。

 

臼田 さまざまな点において全国各地域とは違うものがあるというのはみんな分かっていると思う。たしかに市場規模は日本で一番大きい。しかし、東印工組の組合員約1100社のうち、従業員4人以下が41・2%を占め、さらに10人以下となると63・3%と、組合員の6割が10人以下である。全印工連の平均をみると、10人以下は約5割(53・2%)なので、非常に小規模性が高いといえる。都市型印刷業の特性として昔から製版業、刷版業、印刷業、製本業と分業化構造の素地があり、現在でもわれわれの業態の有り様の背景がそこにあると推測できる。

 

 

事業承継・労働環境整備から

 

――そういう中で、東印工組の重点事業は。

 

臼田 各地方においては、官公需、環境問題、労務問題に重点が置かれているが、われわれの政策の1丁目1番地は、事業承継ならびに労働環境の整備である。従業員にとって安心して、そして夢を持ちながら働ける職場づくりに重点を置いている。

 
官公需については、実は東印工組の組合員で官公需取引をされているところはそう多くないので、個々の企業の事業承継問題、いわゆる経営者の高齢化、後継者不在による事業承継問題、人手不足問題が最重要課題である。

 
とくに東京都はあらゆる業種の企業が多く、転職の機会も多い。現実的に雇用単価が高く、東京都の最低労働賃金は1013円と1000円を超えるなどかなり地方格差がある。新たな人材を登用するためのリクルーティングについてもそれ相応の活動を行わなければ、現状では人材確保が非常に困難を強いられる時代に入ってきている。

 
そういうことからも事業承継ならびに労働環境の整備のための事業推進が大変需要な問題である。加えて環境問題、いわゆる法令遵守、コンプライアンス遵守の問題、個人情報保護法の問題など、やっていて当然であるとの認識のもとに今までと同様に事業推進していく予定である。

 

 

幸せな働き方改革を推進する

 
――今年度から東京都「業界団体連携によるテレワーク導入促進事業」にも着手した。

 
臼田 テレワークだけに重点を置いた取り組みということではなく、今、全印工連事業として推進している、幸せな働き方改革の一環事業としての位置づけで取り組んでいる。実は国が発信している働き方改革による生産性向上という言葉を聞いて多くの人が理解されていないという現状がある。製造業としてものづくりを生業としてきたわれわれが生産性向上という言葉を聞くと、ものづくりを今までと同じ時間でどれだけ多く作れるかという間違った理解がまだある。ここをきちんと組合員に本当の意味を伝えていきたい。

 
生産性向上とは生産効率を上げるのみならず、いわゆる従来の生産性をさらに上げることによって新たな価値と新たなサービスを作り出すことである。ただ単に現場の製造力を上げて、いわゆるものづくりの製造力を上げたところで、売り方を知らなければ、モノが余って、よりいっそう単価が下落し価格競争に陥っていく。東京における印刷産業の事業団体としてミスリードするわけにはいかない。組合員には国が発信している働き方改革を正しくご理解いただく努力と印刷産業特有の働き方改革の研究と推進を進めなければならない。

 
印刷産業における働き方改革の課題は、国が発信している働き方改革ではよく時短とか、有給休暇の取得率の向上ということをよく耳にする。われわれ製造業である印刷企業がそこの部分だけを切り取って実践したら、間違いなく売上が下がる。それによって利益が減り、従業員に対する給与手当が今よりも下がるなどマイナスの方向に入っていく。

 

われわれとしては、印刷産業の生産現場を持った事業特性を基にした新たな働き方改革、印刷産業独自の働き方改革を研究開発し発信していくことが、現在進めている印刷産業における幸せな働き方改革である。
 

印刷業において利益の源泉はいうまでもなく製造である。しかし、いまはただ製造しているだけでは利益はほとんど出ない。そういった中で何が必要かというと、付帯サービス、いわゆる付加価値をつけていくサービスを行っていかないとこれからの印刷産業は一企業としての永続的な経営は難しい。
 

新たなサービスの開発による価値の創造を具現化できない企業に未来は難しい。
 

ものづくりありきの企業体質、企業の構成では新たな価値は生みにくい。そのため、働き方改革を実行するため、ステップ1「働き方改革の必要性」、ステップ2「目標・計画設定」、ステップ3「業務革新」、ステップ4「就業規則の整備」、ステップ5「人事考課・給与規程の整備」の5段階での取り組みを考えている。これらをセットで行わないと、われわれが提唱する印刷業界における幸せな働き方改革は成功しない。今年度中に制度設計して、次年度以降、啓発活動を続けていく。
 
 

大きく異なってきた組合の目的

 
――青年会から組合活動に参加してきて感じることは。

 

臼田 私が執行部に参加して9年経って感じていることは、経営者である組合員が組合に求めることがこの10年で少しずつ変わってきた。より一層、具体的な情報、たとえば経営環境に関する具体的な指数、国や東京都の施策方針、新たな雇用関係に関する情報、新たな技術や付帯サービスなど、より具体的な情報を求められるようになってきている。これは、よく質問される組合のメリットの話になる。組合事業や組合のネットワークを経営者がいかに利用されるかによって価値のリターンの量が大きく異なってくる気がする。組合員から求められる情報についてはできる限り、執行部や各委員会の委員長が中心となってさまざまな情報を収集し発信している。組合のメリットも護送船団の頃の組合の目的と、護送船団が終わった後の組合の目的というのは大きく異なってきたと実感している。
 
 

協創ネットワークの具現化に向け計画描く

 
――年度内に新たなビジョンを発表する。

 
臼田 まだ正式な名称は考えてないが、今の時代に合った共創ネットワークの具現化に向けた計画書をまとめたい。中小・小規模事業者の印刷産業が今後永続的な経営をしていくために何が必要なのか具体的なプランを描きたい。
 

当時、なぜ具現化できなかったかというと、まだ各社がそれなりの利益があり、製造業としての仕事がまだ残っている時代だった。共創といっても分業構造と変わらない自社が持っていない作業だけ同業者にお願いするというレベルにとどまっていた。
 
共創ネットワークの具現化とは、印刷産業におけるバリューチェーン、川上から川下まで一気通貫で共有していくことである。仕事を共有していくことである。これを今の時代に合わせて実装させるための大きなツールがまさにICTである。印刷産業、とくに中小・小規模事業者を中心としたデジタルトランスフォーメーション(DX)を構築することによって、地域、町、業種などさまざまなグルーピング化によるネットワーク化を具現化させる、未来に向けての提言である。

 
――最後にひとこと。

 
臼田 今回の70周年記念事業のメインは、70周年を皆さんとお祝いするとともに、未来への可能性を語り合える場にしたい。また、合同慰霊祭について、東印工組では約30年間開催していなかった。過去の先達の方たちによってこの70周年を迎えられたことに対する感謝をこめて執り行いたい。

 

 

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