2019年04月03日

近年の枚葉オフセット印刷機は生産性が飛躍的に向上していることから、老朽化にともなう入れ替えをするにあたって、2台の既設機を廃棄して1台の新台を導入するというケースが増えてきている。それだけでも大変な効率化になるが、セキ㈱(本社・愛媛県松山市湊町7の7の1、関宏孝社長)では自社の仕事内容を鑑みた上で、最大90%の損紙削減、最大50%の前準備時間短縮、最大50%の生産性向上を謳う、ハイデルベルグ製のアニロックスローラーを使ったキーレスインキング装置搭載の「アニカラー」機を昨年5月から導入し、3台の既設印刷機を廃棄してこの1台に集約することに成功した。「アニカラー」による実生産性の高さ、そして同社としては初となるUV印刷化を兼ね備えた、菊半裁両面兼用8色LE(Low Energy)UV印刷機「スピードマスターXL75-8-Pアニカラー」が示した実績を紹介する。

 

刷り出し損紙は8色印刷で25~30枚
デジタル印刷機並みの切り替えの早さ

 

同社は愛媛・松山に本社を構え、東名阪地区および四国各地に営業拠点を持つ、今年で創業111周年を迎える老舗の総合印刷会社。創業当初は和洋紙販売をしていたが、事業を畳むことになった印刷会社から印刷機を引き取ったことをきっかけに印刷事業へと進出した。そのような経緯から、洋紙板紙販売と印刷の双方を手掛ける、全国的にみてもとても珍しい事業形態となっている。

稼働する印刷機も幅広く、B縦半裁機1台とA横全判/B縦半裁兼用機1台のオフ輪、軟包装用のCI型水性フレキソ印刷機、B3判13枚物(1年分)のカレンダーを印刷からスリット・丁合・綴じまでワンパスで処理できる機械などを有する。枚葉オフセット印刷機については、商業印刷用途として、菊全判両面兼用8色印刷機「スピードマスターXL106-8-P-18k」、四六全判4色機、四六半裁活版機、そして「スピードマスターXL75-8-Pアニカラー」という構成。そして厚紙・パッケージ印刷用途として、菊全判コーター付5色機「スピードマスターCD102-5LX」と菊全判5色機を有している。

 

関執行役員

関執行役員

同社が「スピードマスターXL75-8-Pアニカラー」を導入したのは昨年5月のこと。その頃、同社には老朽化した3台の印刷機が稼働していたが、故障が起こることも多くなり、稼働率も低くなっていた。そこで設備更新を検討することになったが、それに合わせて設備を集約することも考え、経営層から3台を1台に置き換えるという案が提示された。「最近の印刷機は実生産性が高いので設備の集約を考えたが、3台を1台に集約するのは、24時間フルに稼働させても仕事がオーバーフローするという試算があがった。この難しい条件を満たす印刷機として、色合わせ作業がすぐにでき、印刷準備時間が極端に短い、デジタル印刷機とオフセット印刷機のメリットを兼ね備えるようなものを求めていたところ、アニカラー機が候補に挙がった。このような次世代を見据えた印刷機ならば、3台を1台に集約するという難しい課題もクリアできると踏んだ」(同社・関宏晃執行役員製造本部長)

 

廃棄する3台は菊半裁8色機、菊半裁4色機、菊全判4色機という構成で、とくに菊全判4色機の仕事を菊半裁機にサイズダウンするシミュレーションが難しかったという。菊半裁機2台の仕事は「スピードマスターXL75-8-Pアニカラー」の能力で十分に賄えるものの、菊全判機の仕事を菊半裁機でやるには通し数が倍になる。そこで、仕事内容にモノクロのページ物が多かったので、それは「スピードマスターXL106-8-P-18k」に任せ、小ロットの仕事を「スピードマスターXL75-8-Pアニカラー」で吸収することにした。「アニカラー機では少ないと100枚、平均では3000枚程度の仕事を行っている。アニカラー機の損紙低減効果はズバ抜けていて、8色印刷時でも25~30枚で本紙が得られるので多品種小ロットをこなすにはうってつけとなる。これまでの菊全判機の仕事を賄うためにまた菊全判機を導入しても、そのサイズの紙は高く、損紙を大幅に低減できるわけでもなければ、デジタル印刷機並みの切り替えの早さもない。アニカラー機ならば、小ロットでの実生産性も飛躍的に高まり、かつ損紙を大幅に低減できるので、当社の仕事の内容を踏まえると最適な選択となった」と同社伊予工場の渡邉淳副工場長は語っている。

 

キーレスインキングシステム「アニカラー」の構造は、インキ供給元となるインキチャンバーと、アニロックスローラー・インキ着けローラー・版胴・ブランケットから成り、インキはこの順に正確かつ均一に転移され、紙に転写される。インキが転移されていく4本のローラーはすべて版胴と同径なので、インキ供給は印刷物1枚ごとに行われる。いったんインキ着けローラーへ転移したものの絵柄面積が小さいために使われなかったインキは、その都度インキチャンバーへと戻されるのでゴーストの発生を排除することができる。この機構を搭載したアニカラー印刷機ではインキキー操作が不要になることから、刷り出し損紙やジョブ替え時間の大幅削減、安定したリピート再現性が図れ、その結果、生産性を飛躍的に向上させられる。なお、アニロックスローラーは温度制御装置により、インキの粘度・流動性を変えることで濃度の微調整は可能。このような特徴から、極小ロット印刷においてオフセットカラー印刷の強みである品質の高さを活かしつつ、採算性においても優位性を持つことができる。

 

アニカラー機では標準印刷の仕事や
小ロットに加え、特色印刷の仕事も

 

同社では仕事の内容によって仕事を振り分けており、印刷立ち合いを要するような仕事はほかの印刷機で行い、「スピードマスターXL75-8-Pアニカラー」では標準印刷の仕事、小ロットの仕事に加え、インキ替え作業がチャンバーを変えるだけで済むため迅速・簡単にできるので、特色を使う仕事にも積極的に活用している。

 

ただ導入当初は、社内の営業スタッフからの「スピードマスターXL75-8-Pアニカラー」への信頼度は低かったという。「増刷を繰り返して一番最初のものからは色がかなりズレている印刷見本であっても、それをもって顧客からOKをもらっている以上、営業スタッフはその印刷見本に沿ったものを求めてくる。当然アニカラー機では、印刷見本に合わせるためにインキキー操作をして色合わせ作業をすることはできないので、営業スタッフが“スピードマスターXL106-8-P-18k”での印刷を指定してきた。それでも、導入から半年程経った頃から営業スタッフへの理解も得られてきて、顧客に標準印刷の価値やメリットをうまく説明できるようになり、もう今では工場側の判断で仕事を振り分けられるようになった」(関執行役員)

 

渡邉副工場長

渡邉副工場長

同社ではそのほかに、「スピードマスターXL75-8-Pアニカラー」は0.8㍉までの厚紙にも対応することから、判サイズに収まるようなパッケージ印刷およびパッケージの本紙校正の仕事も担っているほか、UV印刷機の特徴を活かしてクリアファイルなどのフィルム印刷、疑似エンボス加工といったこれまでは外注対応していた仕事も行っている。「これまでに稼働させてきた菊半裁8色機と比較すると、コスト面では油性印刷からUV印刷になったことにともなってインキ+資材価格がアップしている。しかし、アニカラー機による損紙削減やインキの残肉が出ないことにより、当初想像していた程のコストアップにはならなかった。この設備投資における費用対効果として、十分に元が取れていると思う。なにより大きいのは、インキが乾いて出てくるのでインキ乾燥にまつわるトラブルもなく、予備紙も削減でき、さらにファンシー系の紙では後加工でコスれなどがあったがそれも起きず、全体を通して仕事の流れがスムーズになったことだ」(渡邉副工場長)

 

アニカラー機特有の挙動や取り扱いを
事前に予習して垂直立ち上げに成功

 

オペレーションスタンドにはもちろんインキキーはない

オペレーションスタンドにはもちろんインキキーはない

アニカラー機はインキングの機構が通常のオフセット印刷機と異なるため、挙動や取り扱い方も少し異なる点がある。そこで同社では、導入前にハイデルベルグ・ジャパン㈱から研修・勉強会を受けたほか、すでにアニカラー機を稼働させている印刷会社へオペレーターを1週間派遣して、アニカラー機特有の挙動や想定される問題などについて把握・予習を行っていた。また、コート紙であれば標準印刷ですぐに色は合うものの、紙が変われば色は合わない。コート紙のほか、薄紙/厚紙、ファンシー用紙、上質紙、特殊紙など、さまざまな紙を使う同社では、紙ごとに適したローラーの温度設定および回転数の基準データを印刷機に覚えさせ、使用する紙や条件を入力すれば色が合う仕組みを用意した。その甲斐があり、導入後はすぐに本稼働に入ることができた。「このアニカラー機は、若いオペレーターに担当してもらっている。ベテランオペレーターはこれまでの慣れや経験から、どうしてもインキキーを触りたがってしまう。逆に若いオペレーターは、インキキーがある印刷機に慣れていないからこそ、新鮮な視点で先入観なく、新しい機構の印刷機の取り扱いを吸収できる。このアニカラー機は従来の考えを覆すもので、温度変更による微調整以外、機上での色調整は行わない。従来機を扱ってきた人だと戸惑うところだが、若いオペレーターだとすぐに理解でき、今となっては扱いやすくてとても楽だと言っている」と渡邉副工場長は語る。ローラーの温度変更をすることで、濃度は標準から0.3程度の制御幅があるほか、色が出にくい紙ではブースター機能によってインキを盛ることもできる。

 

簡単な操作性が若手オペレーターの
キャリアステップのいい中間点に

 

スピードマスターXL75-8-Pアニカラー

スピードマスターXL75-8-Pアニカラー

アニカラー機のメンテナンスとしては、日々の作業では最後に後片付けをする際に全ユニットで洗浄液をつけて軽く洗浄する程度。また月1回の保全日では、アニロックスローラーの目(セル)の中の洗浄をしている。「アニロックスローラーは基本的に粘度が低い水性インキやニスで使われるので、粘度があるオフセットインキで使っていると洗浄が大変になると思っていたが、意外と簡単にきれいになる。アニロックスローラーの交換寿命については、導入して10年経った印刷会社に聞いても、目詰まり洗浄したとか交換したという話を聞いたことはない」(渡邉副工場長)

 

「スピードマスターXL75-8-Pアニカラー」導入からほぼ1年が経過し、3台を1台に集約するというプランはほぼ成功した。厚紙や単価の高い原反でも少ない損紙数で印刷できることで利益確保に貢献しているほか、アニカラー機ならではの製品開発をするプロジェクト活動もしているという。さらに、アニカラー機にはオペレーターのキャリア形成という側面でも大きな価値が出ているという。「昔の印刷現場では“紙積み10年”と言われていて、それからようやく機長の仕事を少しずつ覚えさせてもらえるという感じだった。しかし今の時代、10年も下積みを要するのでは若いオペレーターは辞めてしまう。そうは言っても、3年程で覚えられるほどオフセット印刷機の機長の仕事は簡単ではないというジレンマがある。その点、アニカラー機は操作が簡単でやりやすく、オペレーターによる印刷品質のブレも少ないので、3~5年目位でアニカラー機を担当させることができる。10年までの間に、アニカラー機の機長になるという目標ができ、人材育成・キャリアステップの中間点ができた。まずは紙積みをして、それからアニカラー機の機長、そして油性印刷機の機長と段階を踏んだキャリアステップを描けるようになり、若手オペレーターも少しずつ自分が成長・昇給することが実感できるので、やり甲斐やモチベーション、向上心、そして定着につながる。そのような意味でも価値のある印刷機だと思う」(関執行役員)

 

月刊 印刷界 2019年4月号掲載【取材・文 小原安貴】

 

 

先進企業事例紹介-関連の記事

PAGE TOP