今家印刷㈱(本社・埼玉県戸田市早瀬1の5の1、今家裕久社長)は1月20日、取引先や地元自治体、関係者など約80人を招き、宮城県名取市の愛島西部工業団地内に新設した仙台工場(宮城県名取市愛島台1の3の1)の落成式を挙行した。
この仙台工場は敷地面積7646平方㍍、工場面積1395平方㍍の規模を持ち、土地代をのぞいた今回の総投資額は約7億円。
四六全判2/2色機および菊半裁UV6色機、調肉システム、CTP、システム断裁機、折り機、大型高速無線綴じライン、貼り込み機、梱包機といった各種最新鋭機を取り揃え、同社が得意とする書籍・ページ物印刷物の製造を一気通貫でできる体制を整えている。
同社は昭和41年に今家元治会長が創業した、書籍印刷・ページ物印刷を主とする印刷会社。
埼玉・戸田に本社および工場が計3サイトあり、そこでは四六全判2/2色機3台、菊全判2/2色機2台、四六全判1/1色機3台の計8台の印刷機が稼働している。
印刷機の構成からもわかる通り、とくに2色物を得意とし、特色印刷への対応力の高さを大きな強みとしている。
同社の今家会長は仙台工場を新設した意図として「当社は書籍などの本文の印刷をしているが、発注者となる出版社側では、表紙印刷、折り、製本など、当社以外にも発注手配しなければならないので負担がかかる。そこで、そのすべてを一気通貫で対応できる工場を新設しようと思った。また本文印刷についても、当社ではそもそも24時間稼働をしているので、その生産能力を超える注文については残業対応もできないので断らざるを得なかった。それらの問題を解消するのがこの新工場となる」と語る。
この仙台工場では、アグフア社製の四六全判CTP「アバロンN8-90」と現像レスCTPプレート「アズーラ」、菱栄機械から導入した三菱重工製の四六全判タンデム式2/2色印刷機と菊半裁UV6色印刷機、クラボウ製の調肉システム「AUCOLOR-OF10」、芝橋製の特色インキ自動計量装置「レインボー」、永井機械製作所製のA倍判対応断裁機「NCW-D9」およびリフター/紙揃え/スタッカーのシステム、ホリゾン製の菊全判折り機「AFC-762KLS」3台と菊半裁紙折り機「AF-49」1台、乱丁検査カメラ・金属検知器・重量検知装置を搭載した大型高速無線綴じ製本ライン「CABS6000」、貼り込み機、西岡製作所製の「トライオート」、富士機械製のクラフト梱包機などを導入している。
落成式の冒頭、あいさつに立った同社の今家会長は「長年にわたる念願だった仙台工場を開設できたことはとても光栄なことで、関係者のみなさまの尽力によってこれを叶えることができた。これから宮城県名取市のこの地で、みなさんと一緒に一生懸命本作りに注力していく。これがゴールではなくスタートなので、みなさんからのさらなる協力をお願いしたい」と仙台工場落成の喜びと関係者への謝意を表した。
また、今家社長は「ここの土地は平成20年に取得したものの、その後にリーマンショック、さらには東日本大震災もあって落成までに月日を要したが、ようやくこの日を迎えられた。当社は書籍印刷を主にしており、中でも2色刷りを得意としている。2色刷りでは特色インキが多く使われるが、そのインキは自社で練っている。一般的に、印刷会社が受けるクレームの多くは色にまつわるもので、当社のように特色印刷をする印刷会社ではとくにそのようなクレームを受ける傾向がある。しかし当社では、年間3000点程の印刷製品を納品しているが、クレームゼロを実現してきた。この仙台工場でも、当社が持つ印刷技術をそのまま移植するとともに、これまでは手掛けていなかった製本工程や表紙印刷なども場内でワンストップ処理する、高品質で短納期な5S工場を目指して取り組んでいく。そしてこの東北の地から、素晴らしい本・書籍を製作して全国に届けていきたい」と抱負を表した。
来賓あいさつに立った名取市の山田司郎市長は、「今家印刷は地元人材の雇用にも取り組んでいて、すでに名取市民を雇用しているほか、宮城県内の高校への訪問、名取市が開催した出張ハローワークでの企業説明や採用面接などを行っている。それらの取り組みを通じて今家印刷に魅力を感じた人が多数おり、地元人材の雇用につながったことを嬉しく感じている。今後も地域の雇用を支えてもらうべく、順調に操業を続けていくことを期待する。名取市でも、中小企業などの振興に資する条例の制定、愛島台の企業との情報交換など、地域の雇用と経済を支えてくれるみなさんとしっかり連携をして街づくりをしていく。今家印刷も新たな地元企業として、地域経済の活性化の一翼を担ってもらうことを期待している」と述べた。
また、宮城県印刷工業組合の針生英一理事長は、「110社の会員が参加する当組合の新たな仲間として、昨年12月に今家印刷も加入してくれた。当組合に今家印刷を迎えられたことは嬉しいことで、また今日の落成式についても、我々も楽しみにしていた。工場を拝見したところ素晴らしい設備・機器を備えた工場なので、この地でどんどん稼働してもらって地域経済に大きなインパクトを与えて欲しい。また、この工場内にはまだスペースに余裕があり、さらには工場周囲の土地にも余裕があるようなので、さらなる規模拡大と成長することを期待している」と歓迎の意を表した。
この仙台工場を新設するにあたっての狙いやコンセプト、さらには今後の期待や展望などについて、同社の今家元治会長に話を聞いた。
――今回、この仙台工場を新設した狙いは?
今家 主な理由は2つある。1つは、日本は地震などの自然災害が多い国で、当社の本社・工場がある関東地方にも、時期は不明ながらもいつかは大きな地震が起こると言われている。そこで、リスク分散や事業の継続性といった観点から、遠隔地にもう1つの拠点を作ろうと思った。ここの土地を取得したのは平成20年で、その後に東日本大震災が発生した。工場新設について不安を感じたのだが、この辺りは地盤がとても強いらしく、この工業団地内にある工場では大きな被害がなかったという話を聞いて、意図に適した土地であることを改めて確認できた。
そしてもう1つの理由は、当社が得意とする書籍印刷について、これまでは本文のみの印刷をしていたが、表紙印刷、折り、製本、穴開け、梱包など、すべての工程をワンストップでできる環境を作ろうと思ったことだ。この仙台工場ではワンストップで生産できるので、発注主となる印刷会社にとっても、発注作業や納期の面でメリットを感じてもらえるだろう。もちろん当社にとっても、分業による横持ちのコストや時間を削減できるので大きなメリットになると期待している。
――遠隔地に拠点を設けるにあたり、なぜこの場所を選んだのか?
今家 まず東北地方を選んだのは、製紙会社の大規模工場が軒並み北日本にあり、流通・手配の容易さがある点だ。それと、東北地方には学力レベルが高い県が多いことがあることも挙げられる。学力レベルと読書量には相関関係があると考えており、当社の主力製品となる書籍への需要が強い地域だと思ったからだ。素晴らしい本・書籍をたくさんこの地で作り、それが地域の学力向上に役立ててもらえたらとても嬉しい。
また、ここ名取市は東北地方の大消費地である仙台と隣接している上、宮城県内でも暖かい場所で、雪もあまり降らないという。そして首都圏との輸送アクセスが良いことも魅力の1つだ。
――仙台工場を建設するにあたってのコンセプトを聞きたい。
今家 工場内に柱があると機械を増設・移設する際、設置場所や設置台数が制限される恐れがあるので、平屋建てで柱がない構造とした。さらに、工場内のどこにでも印刷機や断裁機などの重量物を設置できるように総基礎を採用している。また、機械のレイアウトについても、作業動線や今後の機械増設スペースを踏まえて5㌢㍍単位で位置決めをして設置した。
機械・装置も重要だが、それよりも社員の働きやすさを追求することも大事だ。たとえば、トイレはどの工場内のどの場所からもすぐに行けるような場所と数を用意し、また手洗い場は温水が出るようにすることなど、社員の意見を吸い上げている。とても些細なことではあるが毎日使うことなので、社員に気持ち良く働いてもらうためには大事なことだと考えている。
――仙台工場の人員体制、予定生産量などはどうか?
今家 仙台工場の従業員数は、今日現在は8人で、4月から5人の新卒者を採用することが内定している。さらなる増員もしていくつもりだが、まずは仕事の量や流れを見定めることが先決となる。なので、まずは1シフトで操業し、仕事の状況によっては印刷部門を24時間体制化することも視野に入れている。
出荷額については、まずは年間1億8000万円を目指す。UV印刷機や大型の無線綴じラインといった設備もあるので、近隣の同業者からの下請け仕事についても積極的に受けていきたい。
――印刷業界、とくに出版印刷市場は縮小傾向にあるにも関わらず設備増強をした背景は?
今家 たしかに市場規模は小さくなっているが、合併や廃業をする印刷会社もあって「2色印刷をする良い印刷会社を探すのが大変だ」という出版社の声を聞くことが多い。当社は大手印刷会社の下請け仕事もしているが、その大手印刷会社が定期的に行っている印刷品質チェックにおいても、数十社ある下請け先の中でトップランクの評価を頂いている。
このような高い品質の書籍を作ることができる印刷技術を仙台工場にもしっかりと移植し、さらに広い範囲の中小規模の出版社をサポートしていきたい。
――実際の生産工程についてはどのような形になるのか?
今家 CTPについては、埼玉・戸田にある本社からの操作で遠隔出力ができるシステムとなっている。また、当社では以前から環境配慮に力を注いでおり、産業廃棄物やVOC排出の低減に努めている。そこでCTPプレートも現像レスタイプの「アズーラ」を採用している。
印刷機については、菱栄機械から三菱重工製の四六全判タンデム式2/2色機と菊半裁UV6色機を導入した。四六全判タンデム式2/2色機については書籍の本文印刷用となるが、やはりタンデム式は表裏見当性がとてもすぐれている。裏面を印刷する時に用紙を反転させないので用紙にかかる負荷が少なく、薄紙への印刷適性も高い。
菊半裁UV6色機については、当社にとって初めてのUV印刷機となる。これは、これまでは手掛けていなかった書籍の表紙を印刷するために導入した。本文/表紙印刷、製本・後加工、梱包までのワンストップ工場を実現する上でなくてはならないものとなる。
2台の印刷機を納入してもらったほか、工場内のほかの機械設備の選定やレイアウトについても菱栄機械に協力をしてもらった。このような工場が構築できたことを嬉しく思う。