2018年07月30日

6月28日に代表取締役社長に就任した大日本印刷の北島義斉氏は7月17日正午から東京・丸の内のクラブ関東で印刷関連マスコミと懇談し、「社会の課題を発見し、その解決に真摯に対応していく必要がある。他社にはない印刷(P)と情報(Ⅰ)の強みやパートナーの強みを掛け合わせて、社会課題の解決につながる新しい価値を生み出していくことが大切だ。そうした考えを持って、私自身が先頭に立ってさまざまな課題に挑戦して、『第3の創業』を実現していきたい」と強調した。

 

同社の前期(平成30年3月期)の業績は、連結売上高1兆4122億円(前年同期比0・1%増、営業利益463億円(同47・6%増)、経常利益509億円(同38・7%増)、当期純利益275億円(同9・0%増)だった。今期の業績見込みは、連結売上高1兆4200億円(同0・5%増)、営業利益470億円(同1・4%増)、経常利益520億円(同2・0%増)、当期純利益280億円(同1・8%増)である。懇談では北島社長が要旨次のとおり、業績を説明するとともに今後の針路を示した。杉田一彦常務執行役員、コーポレートコミュニケーション本部・田村高顕本部長、佐々木大輔副本部長、倉下修一広報室長、久保田幸子広報室員らも同席し、質疑に応えた。
 

左から4人目、北島義斉社長

左から4人目、北島義斉社長


 
北島社長は経営方針・業績について要旨次のとおり述べた。

 

 
私たちは今、大きな時代の変化のなかにおり、当社を含めた印刷業界を取り巻くビジネスの環境も大きく変化している。DNPはそうした変化に受け身で対処するだけではなく、自分たち自身が、主体的に変化を生み出すことが大切だと考えている。変革への挑戦を続けることで「第3の創業」を実現していきたい。 DNPの前身である秀英舎は、1876年に創業し、最初の約70年間は、出版印刷を中心とした事業を行ってきた。その後、戦後の混乱期にあって、大変厳しい経営環境に直面し、1951年に「再建5か年計画」を掲げ、印刷技術の応用・発展によって事業領域を拡大する「拡印刷」を推進した。印刷する対象を紙からフィルムや金属などに拡げることで、証券印刷からパッケージや建材、エレクトロニクス製品までを手がける、世界でも稀な総合印刷業へと変革してきた。その成果を私たちは「第2の創業」と呼び、常に変革に向けた挑戦を続けてきた。
 

しかし今、時代が急激に変わるなかでは、この「第2の創業」を超える「第3の創業」を実現させなければいけないと強く思っている。

 
現在は、DNPが先に立って社会の課題を発見し、その解決に真摯に対応していく必要がある。他社にはない印刷(P)と情報(Ⅰ)の強みやパートナーの強みを掛け合わせて、社会課題の解決につながる新しい価値を生み出していくことが大切だ。そうした考えを持って、私自身が先頭に立ってさまざまな課題に挑戦して、「第3の創業」を実現していきたいと考えている。

 

3つの施策を推進

 

「第3の創業」のため次の3つの施策を推進していく。
①成長領域を中心とした事業の拡大による価値の創出②グローバル市場に向けた価値の提供③あらゆる構造改革による利益など企業価値の拡大の3つである。

 
価値の創出については、「P&Iイノベーションにより、4つの成長領域を軸に事業を拡げていく」という事業ビジョンを実現させていく。2015年に国連で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」にあるように、世界には多くの課題が解決されないまま残されている。私たちがその解決策をつくり出せるなら、それが“新しい価値”になる。そして、DNPがつくり出す新しい価値をワールドワイドに提供していく。
構造改革については、事業競争力の強化に向けて、事業部門やグループ会社の再編などに取り組んでおり、さらに強力に営業・生産・業務の革新などを進めていく。
 
こうした活動の成果は既に出始めており、18年3月期は、増収・増益を達成することができた。 業績を部門別にみると「情報コミュニケーション部門」のうち、出版メディア関連は、出版市場の低迷が続き書籍・雑誌とも減少し、前年を下回った。
 
教育・出版流通関連では、ハイブリッド型総合書店「honto」の事業拡大に注力し、ネット通販と電子書籍が順調に推移したほか、図書館サポート事業の受託件数も増加した。一方、文教堂グループホールディングスを持分法適用会社としたため、教育・出版流通関連全体の売上は減少し、出版関連事業全体で前年を下回った。
 
情報イノベーション事業では、昨年6月に、企業などの業務を代行するBPOサービスの運用拠点を東京と福岡に新設した。これによりBPOセンターが全国13カ所となり、生活者に最適な情報をタイムリーに届けて販促効果を高めるデジタルマーケティングの支援サービスの拡大などに努めた。また、POPなどの販促ツールやチラシが好調に推移したほか、パーソナルDMなどのIPS事業やICカードなどの情報セキュリティ関連も順調に推移し、同事業全体で前年を上回った。
 
イメージングコミュニケーション事業は、記念撮影フォトブース「写Goo!」やクラウド型画像販売ソリューション「Imaging Mall」など、イベントやプロモーションなどで写真プリントが楽しめる、付加価値の高いサービスの展開に努めた。写真プリント用昇華転写記録材は、東南アジアや欧州向けが増加したが、国内や北米向けが減少して、当事業全体では前年を下回った。
 
同部門の売上高は、7786億円(前期比2・8%減)、営業利益は217億円(15・2%増)となった。
 
「生活・産業部門」のうち、包装関連事業は、東南アジア向けのフィルムパッケージやペットボトルの部材であるプリフォームなどが増加したが、紙のパッケージやペットボトル用無菌充填システムの販売が減少し、当事業全体では前年を下回った。
 
生活空間関連は、独自のEBコーティング技術を活かした環境配慮製品や自動車関連製品の販売に注力し、前年並みとなった。
 
産業資材関連では、リチウムイオン電池用パウチがモバイル用、車載用ともに順調に推移したほか、太陽電池用部材も海外向けが増加し、前年を上回った。
 
同部門の売上高は3943億円(1・6%増)となったが、原材料価格の上昇の影響を受け、営業利益は121億円(16%減)となった。
 
「エレクトロニクス部門」のうち、光学フィルム関連では、有機ELテレビ向けが増加したほか、液晶テレビ向けも画面サイズの大型化により堅調に推移した。また、有機ELディスプレーの製造用メタルマスクも増加して、前年を上回った。 電子デバイス事業は、スマートフォンなどの内蔵メモリの大容量化やIoT機器の普及を背景に、半導体市場全体が大きく成長するなかで、半導体向けフォトマスクが増加した。
 
同部門の売上高は1887億円(11・4%増)、営業利益は341億円(106・9%増)となった。
 
「清涼飲料部門」のうち、特定保健用食品や機能性表示食品などの新製品の販売を強化したほか、自動販売機事業で、エリアマーケティングに基づく活発な販促活動を展開して、既存市場でのシェア拡大と新規顧客の獲得に努め、売上高560億円(1%減)、営業利益22億円(7・6%減)となった。
 

新しい価値を創出

 
これまで培ってきた強みを“オールDNP”の視点で見直して、掛け合わせていくことで、これらの成長領域で、社会課題の解決につながる価値をつくり出していけると考えている。
 
①「知とコミュニケーション」
 
政府が、インバウンド需要の拡大などを視野に、2020年に向けてキャッシュレス化を推進しているが、DNPは、国内の約60%のトップシェアを持つICカードの強みを生かして、安全・安心なキャッシュレス社会の実現に貢献していく。国際ブランドプリペイドやデビットカード関連の決済サービスを強化するとともに、決済履歴から生活者の購買行動などを分析し、マーケティングに生かすプラットフォームを提供している。
今年の春には、決済やポイントなどのサービスをスマートフォンで一元管理するクラウド型の「DNPモバイルWallet(ウォレット)サービス」で、代金などを口座から利用後すぐに引き落とすデビット機能を即時に追加できるようにした。このサービスはみずほ銀行に採用され、スマートフォンで非接触ICの決済ができるバーチャルデビットの国内初の即時発行サービスとなった。この決済プラットフォームは、既に多くの採用事例があり、5年後には200億円程度の売上を目指している。
丸善・ジュンク堂書店などと推進しているハイブリッド型総合書店「honto」では、販売データを基に、AIを活用した分析による需要予測や、書籍の製造・物流・販売の連動性を高める体制の構築を進めている。これにより、書店での欠品を防ぐと共に返本率の低減なども実現させたい。
世界が注目する日本のマンガやアニメなどに関しては、DNPが、日本のアニメやマンガの海外展開を支援するとともに、これらのコンテンツにDNPのデジタル加工技術を掛け合わせて、付加価値の高いサービスを創出していく。昨年10月には、「東京アニメセンターin DNPプラザ」を市谷に開設した。この施設では、出版社やアニメ制作会社などのコンテンツホルダーとともに、世代や国境を越えたコンテンツファンの期待に応える企画展を開催し、AR/VRをはじめとしたDNPの最新技術を活用した、新しい作品体験を届けていく。また、声優・監督・アニメーターらを招いたライブやイベントの実施、独自セレクトした人気商品の取り扱い、オリジナルグッズの先行販売など、さまざまな新しい価値を生み出しており、実績も上がってきている。
 
②「食とヘルスケア」
 
国内で年間621万トンにも及ぶフードロスを削減していくため、DNPも、生産から流通、消費・廃棄までの食のバリューチェーン全体で、製品のロングライフ化や業務効率化、温度管理した物流の実現などに取り組んでいる。ICタグと情報プラットフォームによって、食に関するトレーサビリティを確保し、在庫管理の効率化などにつなげていく。そのため、低価格なICタグを開発するほか、食品メーカーやコンビニエンスストア、システムベンダーとともに、バリューチェーンにおける情報共有の実証実験にも参画している。
食品の長期保存を可能とするパッケージのひとつとして、高い意匠性とバリア性を備え、電子レンジでの加熱やレトルト殺菌が可能な長期保存容器「DNPインモールドラベル容器ビューベルカップ スクエアタイプ」を開発した。今年3月にお惣菜食品を販売する(株)トーヨーコーポレーションの3種類の新製品に使われている。
冷凍や冷蔵の専用コンテナや車両などがなくても、一定の温度を維持した状態での輸送を可能にする「DNP多機能断熱ボックス」は、優れた断熱性と気密性を持つとともに、電源が不要で、繰り返し利用できる特徴がある。ボックス内に保冷材を入れることで、冷凍や冷蔵が必要な貨物を常温の貨物と混載して輸送できるため、ドライバー不足の解消や燃料の削減、CO2排出量の削減などの効果も見込める。
ライフサイエンスの分野では、アステック、浅田レディースクリニックと共同で、不妊治療時の受精卵に適した培養環境を提供し、受精卵の発育状況を画像解析で把握できる「次世代型タイムラプスインキュベーターシステム」を開発した。DNPの微細加工技術によって特殊な加工を施した、細胞を培養するための専用のプレートが利用されている。
この他、医療用画像診断システムでの高度な解析技術により、診断レベルを高度化させると同時に、病院や地域などのネットワークによって社会インフラを構築していく取り組みや、大学などとの協働による細胞シート関連の製品化などを推進している。
 
③「住まいとモビリティ」
 
さまざまな生活環境の快適性を向上したいという課題に対して、DNP独自のEB技術の強みを生かして、住宅用だけでなく、商業施設や病院、自動車や鉄道車両といった非住宅の内装・外装市場に、高機能な製品を展開している。
自然素材や抽象柄など、さまざまな質感をオーダーメイドできるアルミパネル「アートテック」や、フィルムに電子線を照射して、耐候性などを高めた化粧材「EB外装フィルム」などを、国内外に提供していく。また、人手不足という課題に対して、店舗やショールームなどの商品陳列やレイアウト変更を短時間で自在に行える「壁面装飾システム」や、改装・補修を簡単に行える「壁面リフォーム材」など、施工の負荷を軽減できるソリューションを提供する。
「住まいとモビリティ」や「環境とエネルギー」「知とコミュニケーション」に関連するモビリティ関連事業は、エネルギー消費の軽減のため、自動車の軽量化が求められているなか、DNPは、一般のガラスよりも軽くて、湾曲したリアウィンドウなどにも適した軽量の「樹脂ガラス」を開発した。また、木目や金属などの質感を表現した自動車用の加飾フィルムのほか、プラスチック成型技術と掛け合わせた新製品開発も進め、これらの製品で5年後に350億円の売上を見込んでいる。
これに加えて、リチウムイオン電池用バッテリーパックで世界のトップシェアを獲得しており、この強みを生かし、スマートフォンなどの情報端末用に加え、電気自動車用も積極的に拡大している。全固体電池やナトリウム電池など、次世代バッテリー用のバッテリーパックも開発していく計画である。
ディスプレー用光学フィルムの世界トップシェアの強みを生かし、車載ディスプレーの光がフロントガラスに映り込むのを防止する「視野角制御フィルム」なども開発している。
情報セキュリティに関するDNPの強みもモビリティ関連事業に欠かせない。カーシェアリングなどの普及に向け、安全にスマートフォンを自動車のキーとして使うデジタルキーの認証サービスや、自動運転車に必要な情報セキュリティ機能を向上させる ソフトウェアとネットワークシステムの提供も目指している。
 
今後も4つの成長領域を軸に、DNPの強み、そしてパートナーの強みを掛け合わせることで、社会課題の解決につながっていく新しい価値の提供を進めていく。
その際は、財務と非財務の資本を統合的に生かすとともに、多くのステークホルダーとの対話と協働を深めていくことが何より重要だと考えている。そうした活動を積み重ねていくことによって、DNPの「第3の創業」を実現していく。
 
 

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