2018年04月24日

今年、創立70周年という大きな節目を迎えた印刷インキワニス工業会。西澤吉樹理事長ら現執行部の面々に集まっていただき、現在の心境や業界の現状・課題、これからの方向性について話し合ってもらった。司会進行は同工業会の中村博明専務理事。
 
【出席者】

西澤吉樹理事長(三星インキ)
赤松正章副理事長(大阪印刷インキ製造)
松井寿文副理事長(マツイカガク)
中村博明専務理事(印刷インキワニス工業会)

(日本印刷新聞2018年4月16日付掲載)

 

適正価格厳守が課題 枚葉インキ 競争に歯止め?

 

中村 70周年を迎えるにあたり、現在の心境から聞きたい。
 
西澤 60周年のときは、副理事長として60周年行事の実行委員長を務めた。その後10年間、理事長を務めているが、この間、印刷業界は衰退の一途をたどり、インキの需要はこの10年で3割減という状況である。現状では、輪転インキはまだ低価格販売が引き続き行われているように聞いているが、枚葉インキはある程度価格競争に歯止めがかかってきていると認識している。
問題なのは異業種からの参入。機械メーカーや材料会社、とくに今までインキを扱っていない会社がインキの販売を始めていることである。困るのは、機械メーカーが両面機やハイブリッド機を開発するたびに、それに合わせて新しいインキを開発しなければならないこと。当然、開発費用や研究費用がかかるが、既存の販売価格に転嫁できない。
10年間、言い続けてきたのは、適正価格の厳守。近年、価格的には落ち着いてきたが、印刷業界のパイは小さくなっている。印刷会社は創意工夫しながら、従来の経営形態とは違うものを目指している。インキメーカーも、それぞれ創意工夫しながら、生き残りを図らねばならない。
印刷業界とインキ業界は、ともに縮小傾向にある業界同士。大阪印刷関連団体協議会の場で、3~4年ほど前から意見交換しながら新しいものを模索していこうという話が出ている。業界の繁栄とまではいかないまでも、各社が生き残っていくすべを考えていこうということ。70周年祝賀会には、大阪印刷関連団体協議会の皆さんにも来賓としてお越しいただく計画でいる。
 

西澤吉樹

西澤吉樹理事長


 
中村 グラビア業界の現況に触れてほしい。
 
赤松 グラビアインキの需給は比較的安定した状況が続いている。
 
赤松正章

赤松正章副理事長


 
中村 金属印刷業界については。
 
松井 金属印刷業界では、2ピースの飲料用の容器の印刷台数は世界的に飽和状態にあるといわれている。そのうち日本で世界の1割程度を生産している。飲料缶の需要としては、昭和40年代後半がピークで、それ以降は徐々に減ってきている。
以前は菓子缶など高級な容器として、金属の容器が人気を博していたが、いまは食品包装の分野で、ガスバリア性が高くなり、それによって日持ちし、湿気もないという技術が台頭してきた。容器に関しては、缶から紙へ移行しつつある。ただし、こだわりを持つメーカーは、金属缶を使っているところもある。アミューズメントパークなどで扱っている金属容器は国内産が多い。
また、プライベートブランドのビールなど、内容物を海外で詰めて日本で販売するケースが増えている。ビール缶に日本語表記で印刷し、中身を入れて輸出するという形。同様に中身は違う国のものであるが、地元に工場があるビールメーカーのビールを詰めて、日本に輸出する方法などさまざま。価格も発泡酒もしくは第3のビールと同じように低価格帯で売られている状況である。数量的には全体の缶飲料の5%程度は、海外で詰められたものではないかといわれている。
ひと頃、ビールといえば瓶だったが、それが缶になり、一時はペットボトルにという話もあった。瓶から缶に変わった背景には水不足が挙げられる。水がなくなり瓶が洗えないため缶が台頭した。最近はペットボトルが出てきて、コーヒーもペットボトルの商品が出てきた。顧客の価値観もかなり変わってきている。飲料市場の変化は、金属印刷用のインキに少なからず影響がでていると思う。

 

松井寿文

松井寿文副理事長

 

 各委員会活動も活発 安全性や環境面で配慮

 

中村 世界的に見ると、印刷インキのシェアは日本が圧倒的に多い。その理由はわからないが、あらゆるところで技術革新、創意工夫が行われたからではないか。ちなみに、日本にインキが入ってきたのは明治時代の半ば。ワニスから作っていろいろと工夫したといわれる。第1次世界大戦の際に、ヨーロッパから材料が入らなかったことから、印刷業界や、老舗の印刷会社では知恵を絞ってインキを改良したという歴史がある。
日本の現状にふれると、印刷インキの需給実績は、出荷量は平成28年40万㌧を維持していた。それが29年(昨年)は39万㌧と初めて40万㌧を下回った。印刷インキ全体の出荷金額も、3000億円を下回ると困るという話だったが、29年は2958億円にとどまった。先ほどの話のように、平版インキは非常に厳しい。新聞を含めた平版インキはとくに厳しいという状況にあるようだ。
グラビアインキは、平成10年あるいは平成5年ごろから、じわりじわり伸びている状況で、爆発的に増えているというわけではない。
樹脂凸版インキは、主にフレキソインキで、段ボールなどに使われる。このインキは水性のインキに近く、有機溶剤を使うグラビアに比べると環境にいいインキとして最近注目を浴びているが、とくに目立った数字の変化はない。
金属印刷インキは、平成5年をピークに下がっているという状況である。そのほかではUVやウルトラバイオレットなど、いわゆる紫外線硬化型インキがある。UVインキはここ数年、改良されてきた。LEDを使った電気使用料の安い光源でUVを発生させる、LED―UV型のものがかなり出回っている。今後UVインキがどのような動きをするのか、注目されるところである。
ところで、印刷インキの安全性、環境への配慮という観点からの課題について聞きたい。
 

中村博明

中村博明専務理事


 
西澤 以前から新たな方向に転換しなければならないということだったが、これは印刷業界も同じ。今までの根幹からはずれることなく、いかにして得意分野の技術革新を進めて新しい分野へ進むか。オフセット主体からフレキソに移行している印刷会社もある。
われわれも当然、今までは油性オフセット、UVも含めて、UVオフセット、ハイブリッドUV、LED―UV、版式の違う水性フレキソ、UVフレキソ。あるいは水性で、どうしても溶剤タイプはできないので、水性グラビアへの転換も今後は考えていかねばならないだろう。当然、もとになるのはインキ。そこからどのように派生させるか。お互いそれぞれ得意分野があるので、それをいかにして伸ばしていくか。もちろんオフセットが基本というのは変わりないと思うが、そのあたりが各社および当工業会の今後の課題といえるのではないか。

 

中村 印刷インキの安全性、環境への配慮について簡単に話をする。
印刷インキの組織は、ご承知のように東西連合になっている。東京は印刷インキ工業会、大阪は印刷インキワニス工業会。両方とも昭和23年6月に設立された。それぞれ役員会と技術委員会に分かれ、技術委員会の下に3つの専門委員会がある。環境専門委員会、食品衛生専門委員会、製品安全専門委員会である。
この3委員会に専門分野を担当させて、印刷インキのマーク、例えば植物油インキマーク、最近ではインキグリーンマークということで、工業会独自で安全性、あるいは環境にやさしいマークのインキ缶への表示、印刷物へのマークの印刷などの取り組みを行っている。印刷インキは化学物質であり、年々ものすごい勢いで新しいものが出てくる。その中には発がん性や毒性の強いものもあり、情報収集が非常に大事になる。
世界的にも危険性物質を特定するいろいろな機関がある。ヨーロッパではREACH規制、あるいはスイスの条例など。日本では厚生労働省をはじめ各種の機関がある。よく目にされると思う。
毎日のように技術員が調査し、その中から危険なものをまとめ、NL規制など独自の規制をかけている。「これは使ってはいけない。1ppm以下ならいい」などさまざまな基準がある。NLに合格したものを使っているインキはNLという記号をインキ缶に印刷する。
安全性に関しては、印刷業界は胆管がんが発生したり、膀胱がんの話が出たり、最近では酸化チタンの規制をどうするかなど、いろいろ話題が出ている。それに当工業会としてどのように対処していくかを、技術員を中心に役員会にかけて決定していくという仕組みになっている。
環境や安全性については当工業会を中心に、毎年アンケートを取って化学物質取扱量報告書をまとめ公表している。VOCの問題やカーボンフットプリント、いわゆる炭化物の経歴など、あらゆる調査を行っている。
また東京では経済産業省、厚生労働省、環境省の専門部会と東京の技術委員、大阪の技術委員も含めて意見交換会を開いている。また問題があれば、印刷業界や牛乳パックの業界など、いろいろな業界とも技術的なことであれば技術委員を中心に会合を開いて、今後の課題などを話し合っている。

 

必要な情報・意見交換 得意分野への特化視野に

 

中村 この10年間で心に残っていることについて聞きたい。
 
西澤 何といっても2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災。これが一番。印刷会社、インキメーカーにとっても大きな出来事だった。ただインキメーカーの多くは、原材料を海外から調達しているため、顧客に迷惑をかけずに済んだと思う。その意味での印刷業界への影響は少なかったといえるのではないか。
赤松 副理事長を拝命してまだ2年たたない状況なので、思い出というのはないが、あらゆるものが統廃合されて、インキを作るにしても、代替品を用意しておかないと安定供給ができないという状況が続いている。東日本大震災以降も、代替品を探しておいてインキを安定的に供給できるようにするという形で、各メーカーは苦労されていると思う。またデジタル印刷が増加傾向にある中で、インクジェットのヘッドメーカーとタイアップしてインキを供給しなければならない。
インキ大手各社は、OEM供給していると思うが、中小の場合はそこまでできない。今後インキメーカー各社は、得意分野に特化していくことが生き残る手段のひとつであるといえる。
 
松井 世界の工場と呼ばれていた中国も、おそらく、2005年、2010年には、何か変革が起きるのではと思っていた。ところがオリンピックの影響なのか、とくに大きなことは取りざたされずに、ここにきてPM2・5の関係で工場の操業が強制的に止められるようになった。そのせいか、最近タイトになっている中国製の原料があるとの報告も聞いている。工業製品としては、安いものを追いかけたことがアダになっている部分があると思う。これからは、西澤理事長が普段からよく言われている「共存共栄で適正価格」というキーワードが、まさしく必要になる。
たとえば、マツイカガクのインキは高いと評判で、品質はいいが絶対に採用してもらえないくらい。海外に行くと門前払いされる。価格を維持しないと、ライバル社も利益が出ないだろうとの思いで、価格は下げない。むしろ新しいシリーズを作って高く売るか、もしくは前と同じ価格で売るか。値決めは社長の仕事である。
ここ10年を振り返ると、社長に就任したことがひとつ。その途端、リーマンショック後の利益回復があった。そして大震災があったが何とかインキを供給することができ、その上、顧客に値上げも理解していただいた。それ以降は、技術革新をしながら内部の効率化を図るとともに、作り方も含めて新しいものを探求した。「高い原料でインキを作れ」というのが先代社長の口癖だった。「いい原料で作ればいい品物が絶対できる」ことを、かたくなに守っている。
もうひとつは9年目に副理事長の大役をいただいたこと。微力ではあるが工業会のために何かできないかという思いでやっている。東西の工業会の会合にも積極的に参加するようにしているが、大阪でも若い人たちが出てくるようになったので、世代交代も含めて少しずつ業界も変わってきている。
 
西澤 印刷インキワニス工業会では、会議のあとも懇親会で意見交換する。腹を割って好きなことを言い合い、それがいい方向に働いている。ゴルフも情報交換、親睦の場となり、皆さん楽しみながらプレーしている。
 
中村 また春と秋には講演会を開催している。講演会は、印刷インキにかかわるあらゆるテーマで行う。最近は大印工組や関西フォームにも声をかけている。
 
 

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