2017年10月25日

日本印刷技術協会では、創立以来、調査研究、人材教育、各種イベント開催などを通じて、広く印刷および関連業界の発展に寄与すべく活動している。50周年を迎えたのを機に、郡司秀明専務理事にこれからの事業展開について聞いた。
 
--創立50周年を迎えられての感想は。
 
郡司 JAGATの歴史を振り返るときにpage展が大きな役割を果たしてきたといえる。創立20周年の時に何か新しいことはできないかということでpage展を始め、今度が30回目を迎えるが、おかげさまで会期中に約7万人が来場するほどのイベントに成長した。
 
ご存じのとおり、page展は、米国のシーボルト・カンファレンスが手本となっている。1980年代半ばのDTPはまだ細かなルールが確立されておらず、ある意味で無法地帯だった。それまではメーカーが開発した製品システムを購入すれば保証されていた。しかし、DTPの場合には誰にも文句のいいようがない、すべて自己責任でやらざるを得なかった。日本の印刷業界としても頼るところがまだなかった。しかし、アメリカではすでにシーボルト・デスクトップ・パブリッシング・カンファレンスが行われており、ある程度の指針のようなものが示されていた。
 
当時のJAGATは、活字からオフセットへ転換する印刷技術に関する調査研究や人材教育をメイン事業にしていたが、DTPの登場、すなわち印刷物の製造工程のデジタル化がJAGATにとって大きな転換期となった。業界団体やメーカーはまだデジタル化に消極的だったので、JAGATはむしろデジタル化を推進しようと考え、創立20周年の時に和製シーボルト・カンファレンスとして開催したのがpage展である。
 
page展はたんなる展示会ではなく、これからDTPを導入するにあたってどういう心構えが必要なのか、どういう人材が必要なのかをしっかり考えるためのセミナー・カンファレンスを組み合わせたイベントとして1988年に初めて開催した。元来、日本人は人前で議論するのは苦手だが、page展では業界団体もメーカーも交えて皆で議論する場を積極的に作った。当時、製版メーカーに勤めていた私もスピーカーとしてよく登壇していた。
 
おかげさまでpage展は成功し、日本におけるDTPの1つの指針になっていった。当然ながら初期のpage展はアメリカの真似が多かった。だから最初の頃は外国から講師を招いて、アメリカにおけるDTPの活用方法を聞いて参考にしていた。そのうち、回を重ねることによって日本ならではのDTPの方向性が見えてきた。
 
ところが、30年近く続けるうちにDTPだけでなく、印刷物の製造工程がデジタル化し生産効率が向上する一方、デジタルメディアの影響もあり印刷需要の減少に歯止めがかからない中で従来の印刷ビジネスモデルが通用しなくなってきた。
 
今までとは違ったものを考えていかないといけないということで、JAGATとして一つの方向性として示したのがpage2017で掲げた「マーケティング」である。これまではいかに効率を上げるか、他社との品質差をどう出すかということを重視していたが、これからの品質というのは「マーケティング力」であり、今後重視していく。
 
これまでの印刷物というのは撒き餌だった。同じものをたくさん用意して、まずは印刷物を撒いてそこからより大量で、高利益の印刷物を吸い上げるような、撒き餌として印刷物を使っていた。これからの撒き餌はWebである。Webでビッグデータなどを集め、そこからリードを吸い上げて、個別に刺さるような印刷物を作るという方向に向かっていくとJAGATは思っている。たとえば表面加工というのはただ単に派手な印刷物を作るというのではなく、少し品のよい上質な印刷物に仕上げる工程であり、ニーズは意外とあるものだ。
 
たとえば、ベンツ車でも最上級のSクラスは結構販売台数が多いので同じカタログを大量にばら撒くことができる。しかし、同じベンツでもジープモデルは、そうそう数は売れないが、ベンツファンの中にはある程度の需要がある。そういうユーザー向けに、個別に刺さるような質感のよいカタログを配るとかなり効果がある。
 
これからは、消費者個々に刺さるような印刷物が求められてくる。そうなると、オフセットでは対応しきれない。極小ロットなので採算が合わない。本当にロット数でいえば10部とか20部とかでグサッと刺さるようなディープな印刷物を作っていくと結構刺さると思う。この傾向は印刷物だけでなく、洋服やバッグ、貴金属品などでもこれから強まってくるのではないか。
 
JAGATの創立50年という長い歴史は、マスの印刷から始まり、高品質化、効率化を追求してきたが、これからは印刷ビジネスとマーケティングをいかに結び付けるかというのが、重要になってくるだろう。JAGATとしてもそのあたりをしっかりと考えていきたい。
 

郡司秀明

郡司秀明専務理事


 
--JAGATでは、月次調査「印刷業毎月観測アンケート」や年次調査「印刷産業経営動向調査」を行っているが、現在の景況感についてどのように見ているか。
 
郡司 印刷出荷高が減少傾向にある中、印刷業者数が減って、少し落ち着いたのではないか。地方の印刷会社が東京営業所を閉鎖するケースも見受けられるようになった。リーマンショックの後はさすがに市場が落ち込んだが、底を脱して経営者も一時の絶望感はなくなっていると思う。ある程度仕事はあるという感じだろう。月次調査によると、とくに中京地区などは少し余裕が出てきているようだ。オフ輪もB輪は相変わらず厳しいが、A輪は動き出しているという。ただ、将来的に見ると、オフ輪は厳しい。代わって、インクジェット方式のロールタイプのデジタル印刷機が出てくるのはないか。
 
景況感でいうと、ここ数年、M&Aが増えて市場を活性化させている。最近は個性のある企業が買収され、前よりも強くなる事例が増えている。JAGATとしても事業継承などこれまでタブーだったテーマを今度のpage展のカンファレンス・セミナーで取り上げようかと考えている。
 
--海外に比べて、日本ではまだデジタル印刷機の普及率が低いが、このことをどう思うか。
 
郡司 日本の場合、オフセットでもギャンギング技術で100部の印刷物をデジタル印刷機よりも安く提供できる。こういうことができるとなかなかデジタル印刷機にはいかない。デジタル印刷にいくところはマーケティングと結びつくところだと思う。単に100部だけの印刷物なら印刷通販でも十分対応できる。今は出版印刷と商業印刷の垣根がなくなり、出版印刷の設備でカタログなどの商業印刷がこなせるようになり、すでに海外ではデジタル印刷で両方の仕事をこなしている。日本でもデジタル印刷で出版印刷を手がける印刷会社が増えており、ようやく日本でもデジタル印刷が普及期に入ってきた。
 
--これからの印刷経営のあり方について。
 
郡司 来年のpage2018のテーマとして考えているのが「アライアンスNEXT」、新しい形の企業協力隊、同盟軍のようなグループをどのように上手に作るか。今までの印刷会社は必ず自社に設備を入れるが、技術を持ってさえいれば、これからは仕事に応じて他社とアライアンスを組むことが重要になる。アライアンスとは組織同士が利益を追求して協力し合うこと。同業者だけでなく、広告代理店などとどう結びつくかなど、いまJAGATが触手を伸ばしているのもそういう分野である。まさに「アライアンスNEXT」がこれからの印刷業のあり方であるとJAGATは考えている。
 
デジタル印刷であろうとオフセット印刷であろうと、自社のコアコンピタンスをしっかり確立することが大事だ。お客様は技術・ノウハウのない企業とアライアンスを組みたいとは思わない。アライアンスする時のコアをどこに持たせるか、実例を挙げながら真剣に考えていきたい。
 
印刷会社にとって地方創生やインバウンドはビジネスチャンスであり、いろいろな事業展開が可能である。しかし、そのための基礎となるのが自社の見える化を実現すること。すなわち、儲かる仕組みを作ることである。
 
そこで、JAGATでは会員企業限定で「見える化実践研究会」を立ち上げ、来年2月から本格的に活動をスタートする。見える化が実現できれば、自社の印刷物の製造コストが受注1点当たり、かつ工程単位で損得がわかるので、デジタル印刷とオフセット印刷を効率よく使い分けることができるようになる。
 
私はデジタル印刷機とオフセット印刷機の両方を設備または利用して、シームレスで結びつけることが理想的だと考えている。
地方創生やインバウンドは新たな仕事を作り出すチャンスであり、マーケティングが重要になってくるので、ぜひこれを実現したい。50周年記念イベントの1つとして8月に開催した夏フェスではデジタルとマーケティングをテーマに掲げ、2日間で約1000人が来場するなど、非常に好評だったので、今後も継続開催していきたい。次回は経営者だけでなく実務者向けのマーケティングの具現化セミナーなどを増やしたい。
 

--JAGATの目指すものは。
 
郡司 JAGATでは、設立以来、印刷ならびに関連産業の向上に資するために3つの使命があると考えている。1つは業界の将来を展望しその方向を示唆すること。2つめが示唆した方向を具現化するための教育を行うこと。3つめがこれらが現場に定着するための教育を行うこと。この3つの使命を行動指針とし、調査提言能力、情報発信能力、教育開発力を高めていきたい。
 
そして、5年後、10年後の印刷・メディア産業について皆さんとともにビジョンを描きつつ、①人材/組織戦略に基づく教育のモデルづくり②経営戦略に基づく経営のモデルづくり③マーケティングツールとしての印刷ビジネスモデルの探求④技術進化/イノベーションと顧客の変化に対応したクロスメディアビジネスのモデルづくり--を3つの使命の循環を通じて実現させたい。

 

 

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