2017年08月10日

大日本印刷の北島義俊社長は8月3日午前11時半から東京・大手町のクラブ関東で印刷関連マスコミと懇談し平成29年3月期の業績、今後の事業展開について説明した。同社の29年3月期の業績は、連結売上高1兆4101億円(前期比3・1%減)、営業利益314億円(同30・9%減)、経常利益367億円(同30・2%減)、当期純利益252億円(同24・9%減)だった。杉田一彦執行役員、コーポレートコミュニケーション本部・田村高顕本部長、佐々木大輔副本部長、倉下修一広報室長、久保田幸子広報室員らも同席し、質疑に応えた。
 

左から倉下、佐々木、杉田、北島社長、田村、久保田の各氏

左から倉下、佐々木、杉田、北島社長、田村、久保田の各氏


 
北島社長は「出版物をはじめとした紙媒体の需要減少、競争激化による受注単価の下落などもあり、引き続き厳しい経営環境にあった」と述べてから、部門別の概況、「DNPグループビジョン2015」で設定した4つの成長領域(①知とコミュニケーション②食とヘルスケア③住まいとモビリティ④環境とエネルギー)についてP(印刷)とI(情報)により生み出す“新しい価値”、その他のトピックスについて説明した。
 
 

情報コミュニケーション部門 “本との出会い”を生み出す「ブックツリー」開始

 
同社は29年3月期、「情報コミュニケーション部門」のうち情報イノベーション事業では、POPやカタログ、パンフレットのほか、金融機関や電子マネー向けのICカード、パーソナルメールなどのデータ入力から印刷・発送まで行うIPSなどの情報セキュリティ関連も順調に推移して、前年を上回った。
 
出版メディア関連は、出版市場の低迷が続くなか、書籍は前年並みとなった。
 
教育・出版流通事業では、“本好き”の著名人や作家、書店員などが独自のテーマで選んだお薦めの本を紹介して、読者の関心や興味、その時の気分に沿って“本との出会い”を生み出す「ブックツリー」を開始するなど、書店とネット通販、電子書籍販売を連携させたハイブリッド型総合書店「honto」の利用拡大に努めた。現在honto会員はすでに400万人を超えている。また、図書館サポート事業も公共図書館の受託館数が500館を越えて前年を上回ったが、出版関連事業全体としては前年を下回った。
 
イメージングコミュニケーション事業では、記念撮影フォトブース「写Goo!」や証明写真機「Ki-Re-i」の展開に努めたが、北米向けの事業が円高の影響から減少し、前年を下回った。
 
情報コミュニケーション部門の売上高は8012億円(同2・5%減)、営業利益は188億円(同35・7%減)。
 
2016年10月に、付加価値の高いマーケティング施策を提供するため、企画・制作に関するグループ会社を統合し、「㈱DNPコミュニケーションデザイン」を設立した。今年の4月には、ICT関連ビジネスの競争力強化に向けて、システムの開発や運用を行う部門を統合して、「㈱DNPデジタルソリューションズ」を設立するなど、新しい価値を提供していく体制を強化した。

 

生活・産業部門 フィルムパッケージやペットボトル用無菌充填システムの販売増加

 
「生活・産業部門」のうち包装関連は、紙パッケージが減少したが、紙カップやプラスチック成型品のほか、フィルムパッケージやペットボトル用無菌充填システムの販売が増加し、前年を上回った。
 
生活空間関連は、同社独自のEBコーティング技術を活かした環境配慮製品や自動車関連製品の販売に注力し、前年並みを確保した。
 
産業資材関連は、リチウムイオン電池用部材が車載用で順調に推移したが、モバイル用が減少し、また太陽電池向け部材が国内外ともに減少したため、前年を下回った。
 
 生活・産業部門の売上高は3881億円(同1・4%増)、営業利益は144億円(同14・6%増)だった。

 

エレクトロニクス部門 有機ELディスプレー製造用メタルマスクが堅調に推移

 
「エレクトロニクス部門」のうち、ディスプレー関連製品は、次世代製品として期待される有機ELディスプレーの製造に使うメタルマスクが堅調に推移し、光学フィルムも前年並みを確保したが、液晶ディスプレー用カラーフィルターが減少して、前年を下回った。
 
電子デバイスは、半導体製品用フォトマスクが海外向け国内向けともに伸び悩み、前年を下回った。
 
エレクトロニクス部門部門の売上高は1694億円(同15%減)、営業利益は164億円(同19・6%減)だった。

 

清涼飲料部門 主要ブランド商品の販売を強化

 
「清涼飲料部門」は、新製品発売により主要ブランド商品の販売を強化したほか、エリアマーケティングを活かした自動販売機事業の推進、コンビニエンスストアなどの量販店向けの販売に注力し、シェア拡大と新規顧客の獲得に努め、売上高566億円(同2・5%減)、営業利益24億円(同145・1%増)だった。
 
全体としては、円高のマイナス影響と退職給付関連のコスト増により、営業減益となったが、そうした環境にあっても将来の成長に向けた体制整備や投資は、緩めることなく積極的に行ったので、実質的な勢いはむしろ強めることができたとしている。
 
今期の業績見込みは、連結売上高1兆4200億円(同0・7%増)、営業利益350億円(同11・4%増)、経常利益400億円(同8・9%増)、当期純利益260億円(同3・1%増)。
 
 

「P&Iイノベーション」を推進 4つの成長領域拡げる

 

大日本印刷は、「DNPグループビジョン2015」で4つの成長領域を設定した。P(印刷)とI(情報)の世界トップクラスの技術やノウハウ、営業や企画、製造や生産管理、知的財産やブランディングなど、さまざまな強みを柔軟に組み合わせ、「P&Iイノベーション」により、社会課題の解決につながる“新しい価値”を生み出していく。

 

【①知とコミュニケーション】 IoTにセキュアのSを加え「IoST」で日本のビジネス下支え

 
「IoT」について、同社はそこに安全性のセキュアを加えることが大切だと考えている。そこでIoTにセキュアの「S」を加えた「IoST」という考え方にもとづき、ICカード事業などで培ってきた同社ならではの強みを活かして、「正しい機器」と「正しいサービス」が相互に認証し合い、「正しい情報」をやり取りするプラットフォームなどを提供し、日本のIoTビジネスを下支えしたい考え。
 
また、2016年のサイバー攻撃関連の通信数は1281億件ともいわれ、前年比で2・4倍になっている。そうした中、同社は、16年3月にサイバーセキュリティ技術者を養成するサイバーナレッジアカデミーを開設した。世界トップレベルのサイバーセキュリティ技術を持つイスラエル・エアロスペース・インダストリーズ社の訓練システム「TAME Range(テイム・レンジ)」を活用し、サイバー攻撃への対応を訓練・学習する。この9月からは、重要インフラやプラントなどの産業制御系システム向けのコースを新設する。
 
日本の電子決済市場は20年には80兆円を越えて、個人消費の3割に達するという予測もある。そうした中、ICカード市場で5割以上のトップシェアを持つ強みを活かして、電子決済の認証サービスにおいても、高いシェアを確保したい考え。16年4月には、電子認証の強みを持ち、国内で導入ナンバーワンの実績を持つ端末認証サービス「デバイスID」を展開しているサイバートラストとの連携を強化して、マイナンバーカードを活用した各種認証サービスを共同で展開していく。また、デジタルセキュリティ分野の世界的なリーダーであるジェムアルト社とも協業し、スマートフォンの生体認証機能を活用したオンライン本人認証サービスの提供を開始した。
 
VISAやMasterCard、JCBなどのカード加盟店に前払い方式の電子決済サービスの提供や、スマートフォンを使った「Apple Pay(アップルペイ)」への対応など、高度なセキュリティ技術とデジタル技術を組み合わせて安全で多様な決済サービスを提供し、キャッシュレス社会の進展をリードしていく。

 

【②食とヘルスケア】 次世代のペットボトル「コンプレックスボトル」開発

 
同社は、“未来のペットボトル”の普及に挑戦している。国内では年間約220億本のペットボトル飲料が生産され、その約3分の1が同社のペットボトル用無菌充填システムで作られトップシェアを獲得している。試験管のようなプリフォームを飲料工場で膨らませながら、飲み物を無菌環境で充填するシステムで、輸送効率が高く、環境にもやさしい。高温殺菌が不要なため、ボトルを薄くして材料を削減できる。しかし、遮光性が必要なビールなどでは使われていなかった。
 
そこで同社は、プリフォームに特殊な着色フィルムを被せて、ボトル全体を一体成形した「コンプレックスボトル」を開発した。光や酸素が通りにくく、見た目も綺麗で、デザイン性が高い次世代のペットボトルである。表面の着色フィルムをはがすと透明になるため、リサイクルも可能で、ペットボトルの利用をこれらの分野に拡げることで、さらなるシェアアップを図って行きたい考え。
 
食品や日用品のパッケージは、バリア性やデザイン性に加え、開けやすさや識別しやすさなどユニバーサルデザインに配慮している。
 
1月には、紙容器のキャップと中栓を同時に開けられる容器を開発した。子供や女性、高齢者の方など、小さい力でも開けやすく、中栓のプルリングのゴミも出ないという長所があり、酒類メーカーなど複数の企業に採用されて好評を得ている。
 
ライフサイエンス分野では、患者の食事や睡眠、服薬状況などの生活習慣の情報を、カードのボタンを押すだけで手軽に記録でき、医師や訪問看護師などが診断や指導に活かせる「DNPモニタリングシステム Your Manager(ユア・マネージャー)」を開発した。16年12月に神奈川県大和市で開催された健康意識改善セミナーでこのカードを貸出し、生活者の健康意識の改善を促した。在宅で医療を受けている患者の服薬状況を確認する「服薬管理カレンダー」の実証実験などでも活用されている。
 
X線やCT、MRIなどの撮影データを解析して乳がんなどの診断支援を行う医療画像管理システムの開発や、複数の病院で双方向に電送する遠隔画像診断支援サービスなど情報処理技術を医療用の画像・情報処理システムに活かす試みも進めている。

 

【③住まいとモビリティ】 自動車向け製品・システム開発

 
2枚のガラスを手動でスライドさせて、透明と遮蔽を切り替える「調光ブラインドスマートシェード」を開発した。また、軽量化による燃費の向上が求められている自動車向けに、ガラスに比べて約半分と軽量で耐候性や耐摩擦性に優れた「曲面樹脂ガラス」など、機能性に優れた新製品の開発を進めた。
 
自動車は今後インターネットに接続して、自動運転やさまざまな情報サービスが行われると見られている。その際の自動車の情報セキュリティ機能を高めるため、アプリケーションの改ざんや不正操作などのクラッキングを防止するソフトウェア「Crack Proof(クラックプルーフ)」や、インターネット上の機器同士を相互認証して、セキュリティ性の高いネットワーク環境を低価格で構築できるシステムなどを提供している。

 

【④環境とエネルギー】 常温貨物と一緒に輸送できる多機能断熱ボックスを運用

 
6月に、郵船ロジスティックと共同で、「DNP多機能断熱ボックス」を使用して、定温国際輸送サービスを開始した。同社の特殊な真空断熱パネルを使った「DNP多機能断熱ボックス」は、優れた断熱性と気密性を持っており、電源が不要で、繰り返しの利用が可能である。ボックス内に保冷材を入れると、冷蔵や冷凍専用のコンテナではなく、常温の貨物と一緒に輸送できるため、環境に配慮した運用が行える。
 
2月、窓から入る太陽光を天井などに反射させて室内を明るくする「DNP採光フィルム」が、消費電力の削減などの環境保全に対する取り組みとして評価され、第26回地球環境大賞「日本経済団体連合会会長賞」を受賞した。同賞の受賞は、1995年の当時の通商産業大臣賞、2005年の環境大臣賞に続いて3度目。
 
今後も、4つの成長領域を軸に、社会課題を解決し、既存事業の拡大と新規事業の創出に努め、生活者の暮らしや企業の業務プロセスに欠かせない「未来のあたりまえ」となる製品・サービスをつくり出していく。

 

【その他のトピックス】

 
○東京2020オフィシャルパートナー
同社は16年10月「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」のオフィシャルパートナーとなった。この大会に向けた同社のメッセージは「Printing the Future/感動を彩る。」。20年の東京大会の感動が、新しいコトやモノを生み出すエネルギーになり、「未来のあたりまえ」を創り出していくとの思いを込めている。
 
1964年の東京オリンピックでは、ポスターのほか、大会チケットや記念シールの印刷を手がけた。また98年の長野冬季オリンピックでは、身分証明書の発行などで大会運営を支援した。
 
20年の東京オリンピック・パラリンピックでも、高度な偽造防止技術を活用した大会チケットや身分証明カードの印刷、およびそれらの安全な運用、大会を盛り上げるための各種告知物の制作、各国からの来訪者に向けたサービスの提供など、大会の成功に向けた支援を行っていきたい考え。大会の開催に向けた社会基盤の整備や情報発信においても、多くのパートナー企業と連携して取り組んでいく。
 
○教育ICT事業の取り組み

20年までに生徒1人に1台のタブレット端末を持たせる計画がすすめられるなど、ICTを活用した効率的で効果的な教育サービスが求められており、P&Iの強みを活かした教育現場をサポートするサービスの開発を進めている。
 
日本マイクロソフトと共同で、小・中学校で行われている小テストをデジタル化し、タブレット端末で利用できるデジタルテストシステムを提供している。また、小学校で行うテストの結果を自動的に分析して、生徒一人ひとりの能力や特性に合った個別教材を約3日程度で提供するサービスを9月に開始する。この教材は、奈良市の全ての市立小学校の4年生の授業で採用された。
 
これまでは、生徒に合わせた教材といっても、数種類程度を用意するだけだったが、新サービスでは能力や特性に合わせて、算数の場合で最大6万通りの教材を提供できるため、高い学習効果が期待されている
 
○BPO事業の体制の強化
国内では、生産年齢人口の減少や長時間労働などの社会課題の解決に向けて、企業が自社の業務をアウトソーシングする動きが活発になっており、同社のBPO事業は順調に拡大している。BPOの市場は今後も年2%以上で成長すると言われているが、同社は年5%以上伸ばしていき、21年には1000億円のビジネスにしていく計画。
 
同社のBPOの最大の特徴は、単なる業務の運用代行だけでなく、企業の業務分析から情報セキュリティの確保、ミスや漏れを防ぐ業務設計、必要なシステムの構築まで総合的に行えることと、大規模なフルアウトソーシングに対応できる点にある。
 
長年培ってきた情報セキュリティに対する高い意識と技術、製造業としての工程管理や品質管理のノウハウ、そして24時間365日、滞りなく安定運用できる環境や体制などの強みがある。現在、取り扱っている個人情報は1カ月間で1億件を超えるまでになっている。
 
6月には東京と福岡に新たなBPOの拠点を開設し、全国で13拠点となった。さらにBPO事業の高度化と効率の向上のため、データ入力の際に、同社が得意とする画像認識技術とAI(人工知能)を掛け合わせ、従来のOCRを飛躍的に上回る文字認識精度を確保するほか、各種申込みの審査業務におけるAIの導入なども検討していく。
 
 

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