2017年08月10日

一般的な製造業と比べて印刷業の生産現場の自動化は遅れていると言われている。その理由として印刷仕様は受注ごとに1点1点異なるものであるからそもそも自動化のベースとなる標準化が無理なのだという意見が存在する。しかしながらハイデルベルグ・ジャパン㈱では、印刷業界版のインダストリー4.0となる自動化を提案し、drupa2016では枚葉オフセット印刷機の自動運転も披露した。そのハイデルベルグが考える工場オートメーションや未来の印刷工場像について、同社デジタルビジネス本部の土屋弘太郎本部長と室谷尚樹プリネクトプロダクトスペシャリストに話を聞いた。

 

 

土屋本部長

土屋本部長

--昨年に開催されたdrupa2016では、枚葉オフセット印刷機でオペレーターがなんら機械操作をすることなく複数ジョブを自動で刷了するデモンストレーションを行い、話題をさらいました。

土屋 インダストリー4.0が注目を集め、印刷業界も含めた製造業全体が次のステップへと向かい始めています。工場オートメーション自体はIT化が始まる前から取り組まれてきましたが、インダストリー4.0におけるオートメーション化においては、1つがロボット技術、もう1つがワークフローの進化が鍵になると思います。通信・インターネット技術やデバイスの発達、言い換えればIoT化により、装置やシステムを密接に接続することで工場オートメーションのレベルが飛躍的に上がっています。

このような状況を踏まえ、ハイデルベルグでは、印刷業界版のインダストリー4.0について口火を切って唱え、具体的なイメージをともなった未来の印刷会社について提案しています。それを単純化して説明すると、人間がやるよりも機械がやった方がすぐれるような仕事は機械に任せ、人間は機械にはできない仕事をするということです。その一端を示すものとして、drupa2016では菊全判両面兼用UV LED搭載8色印刷機「スピードマスターXL106-8-P ドライスターLED」を使い、1ジョブ目を刷り出してから3ジョブ目が刷り終わるまでオペレーターが1度も印刷機を操作しない、Push to Stop(=操作をするのは印刷機を止める時だけ)という概念に基づいた、枚葉オフセット印刷機の自動運転を訴求したデモンストレーションを行いました。この自動運転は、▽インライン品質管理装置による色および見当の自動調整、▽インテリスタート2による複数ジョブおよびジョブ替えのプリセット、▽自動刷版交換--といった機能を組み合わせたものです。これも機械ができることは機械でやるというメッセージでして、世界中の来場者から「とても衝撃的な光景だった」という評価を頂きました。

これまでは1ジョブ単位での自動化・省人化・時間短縮に焦点を当てていましたが、ジョブのプリセットだけではなく、ジョブ切り替えのプリセットや複数ジョブのデータを印刷機が蓄える技術など、ジョブを超えて生産活動全体を自動化するという方向へと考え方を進化させました。人間が介在しない製造ライン、すなわち全自動化をする上で、いくつものコンピューターが組み合わさって通信するのは生産ライン全体で考えると非効率になります。全体を生産ラインとして統合し、主体となるコンピューターが1つのデータをそれぞれのデバイスと通信し、デバイスから情報のフィードバック受けていくワークフローが必要となります。

 

--枚葉オフセット印刷機の自動運転が現実的に可能な技術となったことで、印刷工場の無人化・人員削減が進むのでしょうか?

土屋 誤解をして頂きたくないのは、自動化の目的は人員カットをすることではありません。自動化の話をすると嫌がる人も少なからずいらっしゃいます。自動化して人を減らす=従業員を解雇するという連想から、「社員を守りたい」「自動化するほど多くの仕事がない」という声も多くお伺いしております。それも1つの考え方だとは思いますが、自動化の本質的な価値はそこではなく、自動化を進めていかにサービスや付加価値を高め、結果としてお客様に評価を頂いてより多くの受注につなげていくかにあります。

情報伝達やマーケティングの分野でもIT化が進んで細分化されています。提供するコンテンツも変わりつつあり、印刷物に期待される役割や在り方(=印刷物発注者側のニーズ)も変わってきました。しかし、印刷業界ならではの常識・ルールに則ったこれまでのやり方は、印刷物発注者側の求めるものと乖離してきているのです。その一例を挙げると、細かい小ロットの仕事を受注・進行する時にもこれまでの仕事と同様に営業マンが動いていては全体の営業効率が悪くなります。そのような仕事の受注では人手を使わずにコンピューターで行う仕組みにすれば、営業効率向上とともに短納期化も同時に実現できます。

自動化を進めていく上で、今の印刷会社と顧客との関係を変化させないままですと、自動化技術だけが浮いてしまいます。自動化技術の進化とあわせて、印刷会社と顧客との関係性も一緒に変えていくべきです。

 

室谷 今ではEC通販サイトで買い物をすると、首都圏では発注してから20分後に商品が届くようなサービスもあります。従来のような1ヶ所の巨大倉庫に大きなトラックが行き交い、倉庫内で人が仕分け・梱包をしていたのでは間に合うはずがありません。この業界では今、完全IT化された配送センターが全国津々浦々で新設されています。

印刷業も受注製品を短納期で届けるという点では同じです。たとえば、印刷工場から50㍍先にあるお客様から、少部数の発注があった場合、20分で商品を納められるでしょうか?現在はまだそのようなニーズがないかもしれませんが、きっと将来的にはそのようなニーズが出てきます。それを実現するためにはIT化された工場での、自動化された受注から配送までの仕組みが必要となるのです。

 

室谷尚樹プリネクトプロダクトスペシャリスト

室谷プリネクトプロダクトスペシャリスト

--その自動化された仕組みとはどのようなものなのでしょうか?

室谷 先程お話ししましたdrupa2016での枚葉オフセット印刷機の自動運転のインパクトがとても強かったため、自動化の焦点が枚葉オフセット印刷工程だけに当てられがちですが、それはハイデルベルグが提唱したい自動化の中のほんの一部分に過ぎず、最新鋭の印刷機があるだけで実現できるものでもありません。

あのデモンストレーションは、自動車の自動運転ならば自動車本体をお見せしただけです。実際に自動車で自動運転をする場合、これから通る道がどのようになっているかというデータ、自分や周囲の車がどう動いているのかを検知するなど、さまざまな情報が必要となります。印刷機の自動運転も同じことで、用紙の銘柄、サイズや厚み、数量、色数、絵柄、両面/片面、面付け情報などの情報を印刷機に渡し、自動運転をするための条件を整えなければなりません。それらの必要な情報・データをまとめて印刷機に供給できる仕組みが、ハイデルベルグのプロダクションシステム「プリネクト」なのです。

枚葉オフセット印刷機も「プリネクト」を構成する要素の1つでして、デバイスはPOD機やインクジェット印刷機、CTP、インクジェットプルーファー、断裁機など、どれであっても同様に、操作数を少なくした自動化を図ることができます。今後、20分で商品を納めることを実現するには、工場内でバケツリレーをするように工程ごとに分断された自動化で対応するのでは間に合いません。機械やワークフローシステムなどで処理できるものはそちらに任せることが必要となります。

そこでハイデルベルグの考え方では、プリプレス部門の位置付けを『生産』工程から外していきます。データの確認、色変換、面付け、刷版出力といった作業は、かなりの部分が自動化できる範囲のものになりましたので、その上流部門となる生産管理や工務の部門とプリプレス部門を一体化することを構想し、提唱しています。

 

--生産管理とプリプレスを一体化させるとは、具体的にどのようにするのですか?

室谷 多くの印刷会社では、営業が起案した作業指示書に対して生産管理部門が生産に必要な情報(出力号機指定、面付け設計情報など)を付加して作業指示書を仕上げ、プリプレス部門に渡しています。プリプレス部門ではその指示書を見て、ソフトを使って面付けをし、刷版を出力するという作業をしています。

ハイデルベルグの考え方は、生産管理部門で作業指示書を設計できているのであればその実作業もやってしまえば早くなる、というものです。生産管理部門の人は、紙面上では設計できてもソフトを使って実作業をすることには慣れていませんが、プリプレス部門の人を生産管理部門に統合してノウハウを共有すれば、元の2部門の人すべてがソフトを使って設計できるようにいずれなります。そうしますとプリプレス工程自体がなくなり、元々のプリプレス部門と生産管理部門が合体して真の意味での「生産管理部門=設計と指示をコントロールする部門」になります。これを理想的なシステムの使い方として考えています。

 

--そうすると、生産管理部門の負荷が大きくなりませんか?

室谷 これまで生産管理部門とプリプレス部門の2ヶ所でやっていたものを、同じ人員数をもって1ヶ所でやるだけなので負荷は同じです。ただ、版設計・面付けの自動化はすべきで、そうすることで負荷は激減します。

多くの印刷会社では、出力テンプレートを数百~数千も用意し、その都度適したテンプレートを選び出して面付け作業をしています。そのような方法ではなく、生産管理に回ってきた作業指示書の製品仕様をベースに、用紙と印刷機の機種(=プレートサイズ)を指定し、加工形式を指定していくと面付けが完了する方が誰でもできるようになるわけです。さらには、製造仕様がJDFで届けば人の作業を介さずに設計が完了します。無数にあるテンプレートの中から正しいものを選んで場合によっては新規で作成して面付け作業をするのではなく仕様選択をするだけで面付け設計が完了するのです。営業部門から入ってきた製品仕様のデータをベースに、製造に必要な仕様のデータを加えるだけで版設計ができますので、面付けのテンプレートを知らない生産管理部門の人でもできます。すなわち、製品の仕様と製造の仕様を確定させれば、出力まで自動で流すことができるわけです。

もし仕事の中で、複雑であったり特殊な設計が必要なものなどがある場合は、手動での修正ももちろん可能です。こういうケースこそプリプレスの専門ノウハウを持った人が活躍する場面です。新しい生産管理組織・体制が今後の主流となることは間違いありません。なぜなら変更への対応力の面でも、刷版から印刷、後加工までを加味した予定組みと進捗管理をするにあたってもその方が有利だからです。

 

HoP_2016_13_commercial--自動化によって印刷現場にもたらされる変化とはどのようなものなのでしょうか?

室谷 枚葉オフセット印刷機が実生産に充てられている時間は、国内印刷会社では平均3割弱です。この比率をいかに高めるか、ハイデルベルグの研究開発の目的はこの一点にフォーカスされています。たとえば刷版のオートチェンジも、Push to Stopの概念も、それを実現するために開発された技術や機能です。その裏には、印刷機が稼働せずに停まってしまう要因を把握し、排除することで実生産に充てられる時間を伸ばすというアプローチがあるわけです。

印刷機が停まってしまう要因はさまざまあります。作業指示書はあるものの刷版や用紙、特色インキなどの材料がないとか、指示内容と見本内容が違うといった場合もあります。このようなことがあると製造現場は困惑します。自分で判断・対応をしなければいけなくなったり、生産管理部門に相談・確認をしなければいけなかったりします。その間、印刷機は停まってしまうわけです。

ハイデルベルグが提唱する考え方は、製造現場に無用な判断や確認をさせることで機械を停めてはいけないというものです。▽製造現場は指示書に沿った生産作業に専念できるようにする、▽そのために正確な指示書と材料を揃えるのは製造現場ではなく生産管理の仕事とする、▽製造現場は届いた指示書と材料を使ってすぐに生産に取り掛かれる――というのが製造業のあるべき姿だと考えています。生産管理部門で工場全体のスケジューリングを行い、製造指示と必要な資材を適切なタイミングで製造現場に投入することでPush to Stopの世界は実現可能になるわけです。さらに申し上げるなら、製造現場に判断や困惑させることなく仕事を流すためには、営業部門からの正確で過不足のない指示がきちんと生産管理に伝達されることが大切なのです。

 

--生産を始める前に製品仕様と製造仕様を確定させることが、その後の生産工程の自動化させる上で鍵になるのですね。

室谷 Web to Printでは、印刷物発注者から正確な製品仕様の情報が入力されてきます。せっかく情報が入ってきたのに、社内でまた伝票を起こして、プリプレスに指示をして、前回に使ったデータや印刷機を調べたりしていたら時間も労力もコストもかかってしまいます。入力された情報をそのままMISやプリネクトワークフローに流せば、完全再版の仕事でしたら、受注から製造スタートまでにかかる時間は、サーバー処理だけですので10秒もかかりません。POD機でやるような少部数の仕事でしたら、印刷工場から50㍍先の納品先に20分で届けることも現実として可能になります。

 

土屋 ハイデルベルグの各製品は、どれだけ精密な出力ができるかという点にこだわって作られています。コンピューターで自動調整しても機械から出力する際にブレてしまうと、それを微調整するために人間が介在することになります。たしかな精度と品質が機械にあるからこそ、仕事をコンピューターに任せきることができ、工場オートメーションのレベルを上げていくことができるのです。

 

室谷 日本も含めた先進国では就労人口が減少するばかりでなく、ライフスタイルの多様化によってさまざまな働き方を必要とする社会になりました。たとえば定年まで勤め上げた後も働けるうちは働きたいという方もいるでしょうし、親の介護や育児をしたいので時間を限定して働きたい人、子育てがひと段落ついたので昼間だけ働きたい人、などなどです。そういうさまざまな働き手のニーズを取り込めていけない企業は人材そのものの獲得競争から脱落してしまうことでしょう。1人前になるまでに5年とか職人的技巧を習得しなければならない、そういう仕事を志向されない人もたくさんいるのです。属人的な仕組みに依存した状態に危機感を抱く経営者も多くいます。システムはシンプルであればあるほど共有されやすく習得も早いのであって、私たちの働き方ニーズにも対応が可能ですし、経営者が描く理想的な組織作りにも有効なわけです。印刷業は今後、情報産業として発展し社会に貢献していくためにもITを活用した自動化はとても有力な手段となります。そのような未来の印刷工場の姿として、ハイデルベルグの自動化・省力化のご提案を参考にして頂きたく思います。

 

月刊 印刷界 2017年1月号掲載【取材・文 小原安貴】

 

 

 

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