2017年08月10日

使われずに廃棄される余剰分にメス  一括生産を小口に分割した効果と背景

 

 

世界中で廃棄される食料は、その生産量の約3分の1にあたる年間約13億㌧にのぼると言われている。このような情報に触れると、誰もが「もったいない」「より効率的に分配できればいいのに」という感想を抱くことだろう。一方で、印刷業界でも同じような現象は起こっているが、そこにはあまり目を向けられていない。それは、印刷発注者に納めた製品のうち、最終的に使われることなく廃棄されてしまう、無駄となっている分だ。このような印刷物の製造工程と商慣行に起因する問題に対し、大胆にメスを入れた革新的な仕組み「フレッシュプリント」を提唱・実践しているのが、㈱吉田印刷所(本社・新潟県五泉市今泉947の1)だ。そこで同社の吉田和久社長に、その取り組みについて話を聞いた。

 

情報更新型小口分割印刷とそれを支えるアズーラの性能

 

吉田社長

吉田社長

--貴社では、「世界で一番ムダの無い印刷会社をめざして」という理念を掲げています。このような理念を掲げるようになったきっかけについてお聞かせ下さい。

吉田 たとえば、ある企業が製品カタログを製作する時、1年間で使用する部数を予測して発注量を決めています。たいていはロットが大きくなるにしたがって印刷単価も下がりますので、使用期間の途中で製品カタログを使い切ってしまって欠品することがないように多めの発注をされています。しかし1年後、製品カタログの使用期間が過ぎても使われることがないまま残ってしまい、廃棄されることになる印刷物が発生します。これは明らかに無駄なものです。

印刷業界の通念では「納めた印刷物の使い方や使用効率については発注者側の内部で考える問題であり、最終的に廃棄されてしまう印刷物(=無駄)であっても我々にとっては売上や利益増大につながる大事な部分だ」という考え方になっていると思われます。もちろんその言い分も理に適ってはいますが、廃棄されることが予測されている印刷物を作ることは社会的観点に立てば無駄な行為ですし、その無駄に寄り掛かった経営をすることが正しいこととは思えません。そこでまず、当社が世界で一番無駄の無い印刷会社になろうと思い立ちました。

 

--そのような、使われることなく最終的に廃棄されるような無駄な印刷物をなくすための方法についてお聞かせ下さい。

吉田 随時更新ができて、情報の鮮度が高い電子メディアが台頭する反面、我々のビジネスの根幹を成す印刷メディアは衰退の一途を辿っています。印刷会社の経営者としては、それを憂いているだけではいけません。そこで、印刷メディアの復権を目指すにあたり、情報の鮮度を落とすことがない製造手法について考えました。

先ほどの例のように1年分の製品カタログを製作しても、その年の後半には製品のモデルチェンジや仕様変更、新製品の追加といったことも起こります。しかし、製品カタログの掲載内容はそのままですので、古い情報しか載っていないその製品カタログは使われなくなっていきます。この現象が最終的な無駄を生む大きな要因の1つになります。当社が顧客に行った聞き取り調査では、最終的に廃棄される印刷物が納品量の2割にものぼることがわかりました。これを改める提案を印刷会社がしなければ、印刷メディアから電子メディアへの移行はさらに加速していくことでしょう。

このような事実を踏まえて、この状況を打破する方法として当社が提案するサービスが「フレッシュプリント」です。この「フレッシュプリント」は、これまでは1度で大量印刷・納品していたものを年に数回に分けて印刷・納品することで、使用/在庫部数の管理精度を上げる仕組みです。そして、分割して印刷をしますので、その都度掲載内容を更新することが可能となり、その製品カタログは常に活きた販促宣伝材料・機能性印刷物として使用できるようになります。

 

--印刷発注者にとっての、「フレッシュプリント」のサービスを使うメリットについてお聞かせ下さい。

吉田 情報がすぐに陳腐化してしまう現在のビジネス環境において、必要最小限の部数でこまめに印刷物を製作することで、頻繁に情報更新できるということが挙げられます。コスト面では、印刷発注者様には当社と年間契約して頂くことで、分割しても大口一括印刷でかかっていたコストと同じ単価での提供をしております。また、年間で計画していた部数で不足が生じた場合には、契約時の単価で増刷する「増刷補填サービス」も行っておりますので、当社では前述の調査に基づいて、従来よりも2割程少ない量での契約をお勧めしています。

まとめますと、▽これまでと同程度のコスト、▽印刷物の在庫・保管コスト低減、▽印刷部数の調整ができるので廃棄分が出ず、そのためのコスト削減、▽常に最新の情報に更新して印刷できる――といったことが実現できます。印刷物を作るという行為は、印刷発注者様にとっては投資です。製作した印刷物が売上や利益を確保するためのツールとしての役割を果たせる確率を、掲載内容の更新による情報鮮度の高さによって上げることで、投資に見合ったリターンが得られやすくすることが「フレッシュプリント」の最大のポイントです。印刷発注者様は、リスクやデメリットが一切なくこれらのメリットが享受でき、しかも無駄な廃棄物やその製作に使う材料も不要なので環境配慮にも貢献できます。

 

--「フレッシュプリント」というサービスを展開するには、本来は1つの大ロットのジョブを数回に分割して印刷するため、それぞれのジョブでの刷り出しにかかる時間・労力・諸資材を削減しなければ採算がとれません。それらを極限まで削減するには高度なスキルが必要となりますが、貴社がそのために取り組んでいることについてお聞かせ下さい。

吉田 1万部の印刷物を1回で印刷していたものを2000部ずつ5回に分割して印刷すると、損紙は分割した回数分(=5倍)出ることになります。また、本刷りに入るまでに要する時間も無駄となります。それではビジネスになりませんので、▽印刷オペレーターの操作・要求に対して素早く反応できる状態に印刷機のコンディションを常に整えること、▽資材の無駄を出さないオペレーション技術を確立すること、▽印刷機が稼働していない時間を削減すること--を図っています。

 

ハイデルベルグ製CTPにアズーラ専用クリーニングユニットを接続して運用している

ハイデルベルグ製CTPにアズーラ専用クリーニングユニットを接続して運用している

--印刷オペレーターの操作・要求に対して素早く反応できる状態に印刷機のコンディションを常に整える手法についてお聞かせ下さい。

吉田 損紙をなるべく出さず、すぐに本刷りに入るためには、印刷機のコンディションを整えるメンテナンス作業は必須です。当社では、菊全判の8色機2台と4色機1台が稼働していますが、毎週2胴ずつ8時間掛けてローラーを外してメンテナンスしています。

また刷版の選択も、印刷オペレーターの操作に反応する迅速性を左右する要素です。現在の日本の印刷業界では水幅が広いプレートが主流で、誰が印刷しても同等の結果が得られるものが支持される傾向があるように思われます。しかし、水幅が広いと湿し水の調整操作に対してすぐに反応してくれませんし、そしてなにより湿し水の量が増えてしまいますので、印刷品質と乾燥性が劣ることになります。そこで当社では、砂目が細かくて印刷時に水が切れる、アグフア社製の現像レスCTPプレート「アズーラTS」を全面採用しています。このプレートは、オフセット印刷の原理原則である湿し水を極限まで絞った印刷が実践でき、しかも湿し水量を調整するとすぐにそれが印刷品質に反映される、プロが使うためのプロ仕様のものです。当然のことですが、湿し水の量を絞らなければ、インキの濃度も出ませんし、品質の高いきれいな印刷物ができることはありません。

 

--湿し水の量を絞った印刷をするようになったきっかけについてお聞かせ下さい。

吉田 当社では、「アズーラ」を採用する以前から、湿し水の量を絞ってパウダー散布量を減らす取り組みをしてきました。取り組みの発端は、古い印刷機がパウダーまみれになっていて、その中で印刷オペレーターに作業させるわけにはいかないと思ったことです。これを改めるためにはインキ乾燥を早くすれば良いと考え、その手段として湿し水の量を絞るようにしたことが元々の始まりでした。

この取り組みが印刷品質やビジネスに好影響を与えたのでいっそう進めていく中、さらなる高みへ到達するべく「アズーラ」を試してみました。現在は、㈱T&K TOKA製の油性枚葉オフセットパウダーレスインキ「ベストワン キレイナ」とあわせて運用しています。「アズーラ」をベースにした湿し水の量を極限まで絞ることによって実現する乾燥促進印刷とパウダーレスインキの効果によって、パウダー散布量は一番最初の段階と比べると2割以下になっています。今後もこの取り組みを進めていき、ノンパウダー印刷に挑戦したいと考えています。市場では乾燥性を求めて省電力UV印刷機が多く出回っていますが、当社では油性インキでも速く乾燥しますので、それには価値を見出せません。また、パウダー散布量が少ないので、印刷機のすぐ横にCTPやPOD機を設置し、利便性を高めた工場レイアウトにしています。

 

--「フレッシュプリント」が印刷発注者側にメリットがあることはわかりますが、貴社側のメリットについてはいかがですか?

吉田 印刷機のメンテナンスをしっかりとやって操作反応性を高め、カラーマネジメント体制を構築し、そして湿し水の量を極限まで絞って印刷することで、現在は8色機でも刷り出し時の損紙が20枚程で済むようになっています。小口分割した印刷にも対応できるのは、このような技術的背景があるからです。機資材は誰にでも導入することができるものしか使っていませんが、当社のこの高い技術が参入障壁となっていますので、このようなサービスの競合会社がありません。したがいまして新規顧客も少なからず増え、売上・利益にもつながっています。

そして、「フレッシュプリント」に賛同していただける印刷発注者様が増えますと、仕事の受注時期があらかじめわかるようになりますので、計画的な生産体制が組めるようになります。「フレッシュプリント」というサービスの裏側には、繁忙期と閑散期の波を小さくして、人員や設備のバランスが崩れない計画生産ができる仕組みを作りたいという想いもありました。

また、「フレッシュプリント」を行うために必須となる、「アズーラ」の使用をベースとした湿し水の量を極限まで絞った印刷技術を応用して派生した、超薄紙へのカラー印刷「スーパーライトプリント」なるオリジナル商品もできました。印刷機のスペック上の対応紙厚は0.03㍉までなのですが、当社では0.024㍉の薄紙へのカラー印刷ができます。グラシンペーパーやカラペのほか、和紙といった素材への印刷ができることに評価をいただいており、それらの薄紙独特の風合いを活かした高級感を醸し出すツールとしての用途が多いようです。

 

--「フレッシュプリント」を展開する上での課題はどのような点でしょうか?

吉田 当社だけの力では日本全国の印刷発注者様に営業をして、このサービスを普及させていくことはできません。そこで、同じようなサービスを展開する印刷会社を募り、「フレッシュプリントコンソーシアム」を立ち上げよう考えています。

「フレッシュプリント」を展開するには、そのための印刷技術が必要となりますが、これは当社でなければできない技術ではありません。オフセット印刷の原理原則どおりの当たり前のことを継続して努力すればできるものです。もちろん、すぐに実践できるものではないこともわかっています。そこで、「フレッシュプリント」として受けた仕事は、最初の段階は当社に印刷工程を外注してもらい、その仕事をする時に印刷オペレーターの人に当社工場へ来てもらって、乾燥促進印刷をするための技術・ポイントをお教えします。それを自社へ持ち帰って製造体制を確立していただければ、その印刷会社の武器になります。

日本各地に「フレッシュプリント」ができる印刷会社ができることを将来像とし、それによって日本国内から使われることなく廃棄されてしまう印刷物(=無駄)をなくすとともに、「フレッシュプリントコンソーシアム」に参画する印刷会社で万一のトラブルが起こって印刷ができなくなった時に、互いに外注を出し合えるような関係に発展させていきたいと考えています。

 

--今後のさらなる環境配慮策、事業展開についてお聞かせ下さい。

吉田 印刷業界では、製造工程における化学物質の排出量抑制やエネルギー・損紙の削減が環境配慮手法の主題となっています。もちろんそれも大事なことですが、サプライチェーン全体を見渡せば、環境負荷軽減についてもっと大きな効果を出せる部分があることに目を向けるべきです。環境ラベル/マークが入った印刷物を作っても、それが使われることなく廃棄されていては本末転倒です。環境配慮を考える上でもっとも大事なことは、スタンドプレー的な要素がなくて地味な取り組みではありますが、無駄をなくしていくということに尽きるのです。

そして、印刷発注者様は売上を上げるために印刷物を製作しているのですから、それに貢献するような内容(=鮮度の高い情報)を載せることが重要です。このような印刷物が必要とされる本質を見失うことなく、印刷会社としての正しい道を進んでまいります。

 

月刊 印刷界 2016年8月号掲載【取材・文 小原安貴】

 

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