2017年08月10日

アドビシステムズ㈱では平成24年から、各種アプリケーションソフトを月額制のクラウドサービスで利用できるAdobe Creative Cloud(=以下、Adobe CC)の提供を始めている。バージョンを重ねるとともに各ソフトの機能や使い勝手が進化していることはもちろんだが、その一方で経営・管理面での費用対効果、コンプライアンス対策、そして働きやすいワークフローへの変革につながることはあまり知られていない。そこで、同社マーケティング本部Creative Cloudビジネスマーケット部の岩本崇マーケティングマネージャーに、その側面から話を聞いた。

 

本格導入始まるAdobe CC

 

岩本マーケティングマネージャー

岩本マーケティングマネージャー

--Adobe CCの現在の導入・普及状況はいかがですか?

岩本 Adobe CCは提供開始以来、数多くの印刷会社で導入して頂いていますが、最新バージョンのデータに対応するためにとりあえず1ライセンスだけを導入するケースやテスト導入というケースも多くありました。それがここにきて、生産インフラとして本格導入される段階になってきたと感じています。

Adobe CCは、実際に各アプリケーションを使用する人にとってはツールの魅力や使用効果が採用するか否かの判断基準となりますが、経営者・管理者にとっては生産性やコストメリット、効率向上などがポイントとなると思われます。その観点からの導入メリットとしては、▽管理・運用が容易、▽クラウド活用による制作環境の変革、▽作業効率が上がる最新ツールを用意することで社員のモチベーションが向上する――といった点があります。

 

--Adobe CCを導入することで、経営者・管理者にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
岩本 経営者・管理者は、実際にアプリケーションを使用するわけではないと思いますが、ライセンス管理についてはされていると思います。Adobe CCを採用しますと、この部分の負担がとても軽減します。なぜならば、これまでのパッケージ版でのライセンス管理では、シリアルナンバー、使われているパソコン、使っている人などの情報を台帳で管理し、しかもパソコンの買い替えや人事異動の際にはそれを更新する必要がありました。一方、Adobe CCでは、メールアドレスにシリアルナンバーが紐づけられ、会社が使用権を各社員に付与する形になります。また、どのパソコンにインストールされ、何台のパソコンでなにが使われているか、といったことが一目でわかるアドミンコンソールというオンラインツールを用意しましたので、管理・運用がとても容易になります。ただし、Adobe CCに全面移行しない限り、残っているパッケージ版の台帳管理は続けなればなりません。また近年はコンプライアンスが問われる時代ですので、アドミンコンソールはライセンスの見える化にも役立ちます。
ある社員数9人の会社の例では、パッケージ版を使用していた時は、ライセンス管理に年間で120時間を要していましたが、それがAdobe CCへ全面移行したことで約7割減(38時間)になったそうです。

 

--1ライセンスで2台のパソコンにアプリケーションをインストールできるのですか?
岩本 はい、そうです。たとえば会社のパソコンと家のパソコンにインストールすると、クラウド上に必要なファイルがあれば会社とまったく同じ作業環境で在宅勤務ができます。

 

管理・運用の負担軽減

 

--アプリケーションソフト以外の点で、クラウドならではの利便性はありますか?

岩本 Adobe Creative Suiteなどのパッケージ版にはなかったサービスが、Adobe CCにはあり、これが印刷物の制作ワークフローを変革する重要な機能になります。
その1つがクラウドストレージです。追加料金はなく1人あたり100GB(法人向けのグループ版)の容量が割り当てられるものですが、単なるストレージサービスにとどまらない機能があります。たとえば、日常業務の中でファイルのやり取りをすることは頻繁にあります。このクラウドストレージでは、アップロードしたファイルには短縮URLが発行されるので、それを送信先へメールで通知すると受信者はファイルをダウンロードすることができます。これにより、メールに添付できない容量のファイルのやり取りも容易に行えます。また、内容を確認するだけならばダウンロードをしなくてもブラウザから確認(アドビ製のアプリケーションで作ったファイルならば動画にも対応するほか、パワーポイントやワードなどにも対応)できますので、外出先でスマホやタブレットからでも見ることができます。
さらには、パソコン内のフォルダにファイルを保存すると、自動的にクラウドストレージ上に同じファイルを作成し、かつ同ライセンスのもう1台のパソコンにも同じファイルが作られる機能設定もできます。ファイルのやり取りは必ず行う作業ですので、当社がその部分もサポートすることで、ユーザーの生産性向上とワークフローの円滑化をサポートします。

 

--そのほかに、Adobe CCならではのサービスメニューはありますか?
岩本 日本語35書体、欧文1300書体のフォントが追加費用なしにオンラインで使える、Typekit(タイプキット)というサービスも提供しています。印刷物を制作する上でフォントは重要な要素ですので、このようなサービスを始めました。
各アプリケーションのフォントメニューから、素早く簡単にフォントをインストールできます。すべてのフォントはアウトライン化することもでき、PDFにエンベッドすることもできます。また、Typekitを使ったファイルが外部から入稿された場合も、各アプリケーション上で同期しますので、フォントを探す手間も省けます。さらに、とくに欧文フォントについてはフォント名だけではどのような書体なのかわかりにくいので、好きな文字を入力してどのような見栄えになるのかが確認できるようになっています。

 

--Adobe CCの活用がコンプライアンス対策にもなるということですが?
岩本 すべての印刷関連会社にカメラマンがいるわけではないと思いますので、素材データを提供するAdobe Stockというオプションサービスを一昨年から始めました。この素材データは当社が手配・撮影したものではなく、世界中の会社・人から提供を受け、その中間マーケットプレイスとして有料販売するものです。現在は約9000万点の素材データが取り揃えられており、使用点数に応じた定額契約で月に10点もしくは440点を使うことができます。
通常のフォトストックサービスの場合、ライセンス購入できるのは契約者のみですが、Adobe StockではAdobe CCを使う全員がライセンスを購入できるので、契約者が社内にいなかったとしても作業を止めることがなく進められます。また、ブラウザではなくIllustratorやPhotoshopなどのアプリケーションから素材イメージを探せますので、使いたいもののプレビュー画像をデザインの中にはめ込んで確認することもできます。
今は、インターネットで素材データが簡単に入手できる時代です。しかし、それを商業印刷物で使ってしまうとコンプライアンス的に大問題となり、莫大な損害につながりかねません。素材を手配する方法をしっかりコントロールするという経営者の責務も果たせ、かつ制作時間短縮にもつながるサービスとなります。

 

--パッケージ版とのコスト比較についてお聞かせ下さい。
岩本 Adobe CCを2年使うと、以前の通常パッケージ製品とほぼ同じ価格になります。通常パッケージ製品は約2年のサイクルで新製品を出していましたので条件的にはほぼ同じで、わざわざ購入する手間が省けて常に最新バージョンを使うことができるようになります。また、Adobe CCはすべてのアプリケーションを使える、すなわち自社では使うことがないと見込まれるものの分も支払わなければならないと思われがちですが、使用環境に応じて単体での契約もできますので、そうすると価格も抑えられます。

 

--そのほかに、Adobe CCを活用することで得られるメリットはありますか?
岩本 ある調査によると2020年には国内で30万人のIT人材が不足すると指摘されており、すぐれた人材の確保が難しくなります。作業の円滑化、働きやすさ、最新製品を使える喜びは、社員のモチベーションにつながりますし、また快適な作業環境や福利厚生もモチベーションの維持には必要です。Adobe CCを活用することは、それらを充足させる1つの要素にもなり得ます。またクラウドストレージを活用すれば、就労意欲はあるものの育児や介護などの理由でフルタイム勤務ができない人でも継続して働けるようになります。

 

--印刷業界に向けて、Adobe CC普及に向けたメッセージをお願いします。
岩本 現在、全国で約700社がAdobe CCの入稿・出力対応店として登録をしています。しかし、実際に対応できる印刷会社はもっと多いはずです。
我々もAdobe CC出力対応店ステッカーを制作して全国の出力対応登録店に配布するなど、浸透に努めていますが、印刷会社のみなさまも自社の生産インフラの情報やPDF入稿ができるということをクライアントに広く伝えて頂きたく思います。PDF入稿の普及・標準化をすることで、より堅牢な形で生産の効率化が図れます。ぜひ、Adobe CCを活用してそのメリットを享受して下さい。

 

日本印刷新聞 2017年7月3日付掲載【取材・文 小原安貴】

 

 

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