2017年05月01日

印刷工程の中で環境に負荷が大きくかかる部分として刷版の現像処理が挙げられる。このことは、現在ではすでに常識として印刷業界全体に知れ渡っている。渡邊美術印刷㈱(本社・埼玉県さいたま市桜区南元宿2の24の6、関根薫社長)では、そのような常識が浸透する以前の平成18年、業界に先駆けてアグフア社製の現像レスCTPプレート「アズーラ」を採用し、次世代を意識した改革を遂げた。それから約10年が経った今も、業界の先端をいく環境配慮型印刷および高品質印刷を実践する上で「アズーラ」を活用し続けている。

 

同社は昭和25年に創業した印刷会社。現在は大手印刷会社などからの下請けをメーンに、両面専用10色機1台と両面専用8色機2台を擁し、写真集・美術印刷などの高級印刷を得意分野として営業をしている。

そのような同社が「アズーラ」を採用したのは平成18年のこと。同社ではその当時から写真集や重たい絵柄のものなどを多く受注していたので、印刷品質向上を図るべく、CTP導入および高精細印刷への挑戦をしようと考えた。「CTP化を図ろうとした時、ちょうど現像レスプレートが日本国内に紹介され始めた頃だった。刷版の網点再現が変化してしまわないように現像液の品質管理をすることは当たり前だったが、そのような手間を省ける上、品質安定化が図れる現像レスプレートは画期的なものだと思った。また、通常の印刷と同様のやり方で高精細印刷ができるXMスクリーニング“スブリマ”によって、さらにいっそうの品質向上が目指せると判断した。当時、当社の刷版製作工程はまだフィルムを使ったアナログ体制だったので、CTP化・高精細化・現像レス化と一足飛びに次世代型の生産体制に変身した」(同社・関根社長)

 

一気にプリプレス工程を変革し、しかもその頃は国内ではまだ十分な実績が確認されていなかった現像レスCTPプレートを採用することは、大きな賭けのような経営判断となったが、結果として同社はその賭けに勝つこととなる。「プリプレスワークフローについてはこれまでとは大きく異なるので、1ヶ月ほどの研修を重ねて軌道に乗せた。一方、現像レスCTPについては、露光してガム引きするだけというシンプルな機構で、しかも現像処理・現像液管理が要らないのでトラブルもなくすぐに立ち上がり、最初の月から約2000版の出力をこなすことができた」と関根社長はその頃のことを述懐する。

来客者が応接スペースから見ることができる場所で稼働する「アバロンLF」

来客者が応接スペースから見ることができる場所で稼働する「アバロンLF」

その出力機となるCTPの「アバロンLF」は、同社の受付および応接スペースからガラス扉越しに見られるスペースに設置してある。「現像レスCTPなので水道設備不要で現像液こぼれによる床汚れもなく、しかも現像液の嫌な臭いもない。当社は立ち会いの仕事も多くあるので、“アバロンLF”のスタイリッシュなデザインを活かし、当社の変身を示すような明るく清潔なスペースを作ってそこに設置し、来社した人が印刷会社に対して良いイメージを抱くようなギャラリー的な位置付けとした」(関根社長)

 

現像レスCTPプレートを採用した当初の狙いであった印刷品質については、すぐに結果が現れた。「初めて“アズーラ”を使って印刷した時、半信半疑だった印刷オペレーターがその網点のクリアさに驚きの声をあげた。現像処理をすると網点がボヤけてしまっていたが、それがくっきりとした素晴らしい再現となり、印刷品質がガラッと変わった。また、高精細印刷の仕事の割合はそれほど多くはないものの、顧客から求めがあった時に応じられる体制がなければならないので“スブリマ”を採用して340線までの高精細印刷ができるようにした。“スブリマ”はAMとFMの良いところを兼ね備えたものなので、印刷時に高精細だからといって気負うことなくできる。採用から約10年経った今でも、当社の高品質印刷を支える大きな力となっている」と関根社長は評価する。また、再版物を印刷する際に初版と色が違ってしまった場合、刷版は現像による網点再現に変動がないので、その原因は印刷工程にあることが明確化する。さらに、印刷品質をレベルアップさせていく上でも、安定した網点再現が前提としてあると、印刷工程の進化を測りやすくなっていると評している。

 

関根社長

関根社長

環境面については、同社は大手印刷会社の下請け仕事を多く受注していたことより、それらの会社から定期的な環境配慮に関する訪問検査を受けており、環境に配慮する企業風土が元々醸成されていた。「会社としての品質項目の最優先事項として、環境配慮が求められる時代となっている。とかく環境に配慮した資材を使うことばかりに目が向き、環境配慮をするとコスト高になると考えられがちだが、廃棄物処理のマニフェスト管理、印刷事故の防止、無駄なものを作らないといった製造業としての基本的なことを重ねていくことこそが環境配慮への取り組みにとって大事なことであり、さらには経済合理性にもつながっていく」と、関根社長は基本的なスタンスを語る。それを体現すべく、損紙を低減して印刷事故も防止するために、同社では印刷機のメンテナンスに心血を注いでいる。さらに、時間も労力も要する目視ではなく、オフラインの欠陥検査装置を導入し、全数品質保証と同時に無駄を作らない体制も整えている。

 

そんな中、同社の環境意識がいっそう高まったのは、平成18年に「アズーラ」を採用したことが機だった。刷版を現像レスプレートへと全面転換したことで、印刷工程においてもっとも環境に負荷を与える現像廃液を出さなくなり、そのおかげで特別管理産業廃棄物(=現像廃液)を出さなくなったことから、社内に特別な管理責任者を置く必要もなくなった。「この問題が一挙に解決したのは、当社にとって大きなステップアップだった。元請けの印刷会社に対する責任、そして社会に対する責任としてもそうだし、また5年後・10年後を考えた時に、環境に負荷を与えない真の手法を選択することが大事になる。印刷会社経営は厳しい状況ではあるが、自分達が生きていく場所(=地球環境)を守る責任を果たす選択をしなければ未来はないと考え、それを実践していく」と、関根社長はこれからも変わらぬ姿勢を貫くことを打ち出している。

 

日本印刷新聞 2016年10月31日付掲載【取材・文 小原安貴】

 

 

 

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